1.JR忠海駅~登山口
呉線の忠海駅は、三原駅と竹原駅のちょうど中間に位置する。プラットフォームでは、うさぎの楽園のウサギさんがお出迎えしてくれる。
男子学生らしき3人組とご婦人2人が、駅傍の交番で道を尋ねている。同じ方向へ歩き出したので、この人たちと同行することになるのかと後をついて行くと、急に右向け右で海側へ!どうやらフェリー乗り場へ向かったようだ。
橋を渡った先の信号を左へ渡るとガソリンスタンドで、その横に「黒滝山登山口」の道標がある。
道標にしたがって右折して路地に入ると、通りの向こうに黒滝山がそびえている。家並みを抜けさらに直進すると地蔵院で、山行の無事を願って参拝する。
境内を右手に出て坂道を登る。しばらく畑中を行くと階段になり舗装道路に出合う。
舗装道を右折して進むと数台ほどの駐車スペースがあり、黒滝山登山口への道標が立っている。
V字型に折り返して舗装道を登って行くと登山口である。
突き当たりにはバイオトイレがあり、右側に時計台。ちょうど10時30分を指している。西国三十三観音霊場になっていて、登山口には第14番三井寺の観音様が立つ。上に人の気配を感じて挨拶すると「黒滝山を愛する会」の方で、「時計台の左の箱を開けるとパンフレットがあるから持っていってください」の声。忠海の案内と黒滝山についての解説と地図が凝縮されたパンフレットで、黒滝山三十三観音石仏の配置図は、現在地を確認するのに大変参考になる。また付属の「江戸時代の忠海地図」も興味深い。
上にあがって会の人と言葉を交わす。前に見ている島が毒ガス島、かつて地図から消されたとも伝えられる大久野島であることなどを教えてくれる。そうだ、それで気がついた。そこにウサギが繁殖していること、その情報がインターネットで拡散して海外からも観光客が来ることをTVで見たことがある。だから駅のプラットフォームにウサギさんだ、と鈍い脳の回路が繋がって行く。とりあえず、島をクローズアップしてみる。
2.幸福の鳥居~観音堂~山頂広場へ
一段高い位置に休憩舎「さくら堂」が建つ。一帯には桜が多く春には絶好の花見場所になる。休憩舎にはひとまたぎで上がれるが、車椅子でも大丈夫なように緩やかなスロープもついている。地域の福祉や文化のレベルを感じさせる。
いよいよ歩き出すと、間もなく乃木将軍腰掛岩がある。「明治39年5月、乃木将軍忠海重砲大隊特命検閲のため来忠、内海眺望絶賛腰掛の岩」の解説板が立つ。腰掛けてみた。なるほど絶賛哉。
岩が顔を出した山道らしい路。丸太の平均台が設置されていて、脇に「足をのせて腕立て伏せ(上限5回)」の掲示。こんなのがところどころにあって、さて、どうしたものか・・・。
道のあちこちに植樹されていて、ネームプレートが結ばれている。この木は5人の連名になっている。みなさん、ありがとう。第6番の観音様の横には屋根付きの雲水池があった。
休憩舎があり小休止とする。山の南面は露岩に覆われ雑木が貼りついて迫力がある。
平成8年11月に平山郁夫画伯がここを訪れてスケッチ。描かれた美しい瀬戸の風景は、創立100周年を記念して新築された広島県立忠海高校講堂体育館の緞帳になっているそうだ。
第9番観音は岩に刻まれ、その先に忠海観世音菩薩と勢至菩薩(せいしぼさつ)が立つ。
「幸福の鳥居くぐり」だ。この鳥居をくぐると幸福が訪れるという。写真では鳥居の大きさが判断できないので大失敗。20リットルのリュックを置くと隠れてしまうほどのサイズで、関節を外してもくぐれそうにないような気が・・・・。石畳と階段の道を進む。
十三仏だ。瑞雲に乗って極楽浄土から来迎されるという十三仏である。掛け軸などでは見かけるが、石仏は初めてだ。さくら堂から数えて3番目の休憩舎になった。
この景色、かなり高く登ってきた。ヤシャブシ(夜叉五倍子)がきれいだ。だが、この花粉が花粉症のアレルゲンになることがわかってから嫌われものになってしまったらしい。
また面白い案内板。黒い板にはメモリが刻まれていて、何センチ飛び上がれたか「はかってみよう」とある。観音第19番の隣りに「長寿の亀岩」が鎮座する。
丸太の階段を登ると観音堂に着いた。高齢のご婦人二人が話し込んでいる。
ここも見晴らしは最高である。鐘つき堂へ行って合掌、ひとつつかせていただいた。ゴォ~ンと、痺れます。
これが観音堂の正面。御堂の脇の急な岩場を登ると鎖場になっている。しばらく眺めたがこれは敬遠。
元に戻って緩い階段を登って行くと三差路に飛び出した。右へ進むと山頂広場である。
3.山頂広場~黒滝山山頂~龍泉寺駐車場
広場で小休止をとる。ベンチあり展望台ありでゆっくりできる。一角に宗忠神社と天照大神が祀られている。
そして山頂広場にも敏捷性テスト器具と課題板。「埋め込んだ丸太を交互にまたぎながら両端の横木にタッチ」と記されている。山道もここも整然としていて実に気持ちがいい。やはりたくさんの植樹が進められている。
少しゆっくりし過ぎたので山頂へ急ぐ。また課題板で「ロープをつたって頂上まで登る」とあるが、堅実な道を行く。
11時30分、登山口からちょうど1時間で黒滝山山頂に到着した。山頂の大岩の上で写真を撮ってもらいたかったが、誰もいないのでムリ。
南側には祠があり、大峯神社と出雲大社が祀られている。風景の中心に石鎚神社を祀った岩峰がそびえ立つ。観音堂横の鎖を登ればあの上に立てたわけだ。中央の小さな石柱をズームで覗くと「石鎚神社」と刻まれている。それで、あの鎖に納得だ。
山頂からの大パノラマ。左に大きく広がるのは愛媛県大三島、その前に大久野島と右隣に小久野島、右側遠くに大崎上島も見える。
いよいよ白滝山に向かう。第28番の聖観音は岩に刻まれている。これが黒滝山最北端の石仏になる。
丸太を敷いた階段と丸太の手すりの下りが続く。やがて尾根の稜線歩きになりひたすら下って行く。
龍泉寺駐車場まで残すは500m。きわめて歩きやすい気持ちのいい道が続く。時々ウグイスの声が聞こえてくる。今年初めての鳴き声はまだまだ未熟で、節回しやリズムをトチリながら繰り返しているのが面白い。
「駐車場へ」の道標から左に上がる道が見え案内板が吊されている。西尾根を辿るルートもあるらしい。
さらに下りて行くと東屋の脇に出た。龍泉寺駐車場である。
4.竜泉寺~白滝山山頂
大きな石像に見守られて舗装道路を上がって行くと大岩がある。「乾坤第一峰」と刻まれている。「乾坤(けんこん)」は天と地を指す言葉なので、天下の名山とでもいう意味だろう。
山門までの距離を記した何体もの石仏に挨拶しながら坂道を行く。「曹洞宗 白瀧山 龍泉寺」と刻まれた立派な石標が建っている。
龍泉寺山門をくぐり参拝する。龍泉寺は行基が開いた寺と伝えられ、その後禅宗に改宗、さらに元禄5年(1692)に曹洞宗に改宗した寺である。
左手の鳥居を抜けて山頂に向かう。舗装道を行くとやがて山道に変わる。
とつぜん巨大な岩が出現。八畳岩と呼ばれる花崗岩の高さはどのくらいあるのだろうか。壁面に、ちょっと風変わりな感じの石像が取り巻き、磨崖仏が姿を現した。
左へ巻くように上がって行くと、南側には、雲に乗った等身大の釈迦三尊像の磨崖仏。釈迦如来座像を中尊とし、その左右に両脇侍(きょうじ)像を配している。両脇侍には菩薩像を配することが多いが、曹洞宗なので大迦葉(だいかしょう)尊者と阿難尊者の立像になっている。
さらに北側には十六善神像の磨崖仏。四天王をはじめとする般若経を守る十六名の神々である。三面に分けて彫られており、第一面には九体。
写真左と中は第二面の五体、そして第三面の二体である。これらの磨崖仏は、豊作と平安を祈って江戸時代初期に制作されたと考えられている(龍泉寺パンフレットより)。
白滝山山頂に到着だ。右の写真は八畳岩を山頂側から見たもの。
下山時に立ち寄る予定の龍泉寺南の展望台に、ズームで寄ってみる。山頂には鐘楼と御堂が建つ。
御堂の前にはご夫婦の先客があり、「あまりにも景色がきれいで去りがたいのです」とご婦人。ご夫婦それぞれがリードにつないだフレンチブルドッグを連れ、かなり年老いたシーズーと思われるのがリュックサックに収まっている。しばらくお二人と話し込む。
二人は東京に在住で、全国を車で回っているという羨ましい生活。瀬戸内海の美しさが気に入って、岡山・広島方面を何度も訪れているが白滝山は今回が初めてで、駐車場に車を停めての山歩きだそうである。瀬戸内の多島美と、低山が連なっている風景がめずらしく心を惹かれるとのこと。
その素晴らしい眺望。まずは東寄りから南にかけての眺め。写真では分かりにくいが、左の彼方には多々羅大橋が見えている。中央に大きいのが大三島。その手前が大久野島と右隣りに小久野島。背後は大崎上島である。
中央に大崎上島と下島が、その右は豊島から上蒲刈島・下蒲刈島方面だろうか。
西側には竹原市から東広島市の山々の稜線が連なっている。
お二人と三匹にお別れする。おやっ、年老いたリュックのわんちゃんは、幸せそうに高みを見つめているようだ。
御堂には秋葉三尺坊大権現が祀られている。後で調べると、この神は秋葉山の山岳信仰と修験道が融合した神仏習合の神で、火防(ひぶせ)の神とのこと(Wikipedia「秋葉権現」「秋葉山」より)。御堂の扉を開いて参拝する。
ゆっくりと弁当を平らげる。展望台に先の二人が見えたのでズームで寄ってみた。リュックのわんちゃんは、丸太椅子の上でおとなしくしているようだ。
下山の前に八畳岩に登る予定だったが、若いカップルがくつろいでいたので遠慮した。
5.展望台を経由して下山
龍泉寺の境内に三原城主甲斐守浅野忠順公の句碑「禅は禅の 色香見せけり 山桜」。地蔵菩薩像に挨拶をして南の展望台に向かう。
展望台に立つ。振り返ると龍泉寺山門から山頂を一望できる。
八畳岩にズームで寄るとカップルの姿が見える。岩がいかに大きいかがわかる。下山路は、展望台左(東側)から入って行く。
13時35分に下山を開始する。階段から始まる急坂なので速度を上げすぎないよう、またバランスを崩さないように慎重に下りる。
路面はきれいだが、ロープを張った柵は支柱の根元が腐って倒れている部分が多い。「黒滝山 1.2km」の道標。左折すると600mで渡瀬地区に下りられる。
ざらついて滑りやすい部分や急階段がジグザグに続くので、歩きなれない人には辛いかも知れないな。
OKのオブジェだと喜びながら足を運ぶと、池が見え車道と出合う。
タイヤの跡が判る舗装道路。池と見えたのは、砂防ダムに貯まった水だった。
車道を横断して再び山道に入る。ゆるい起伏を越えて行くと分岐に着いた。ここからしばらくは、往路と同じ道を歩く。
やがて黒滝山への分岐に到着。左の階段を登ると黒滝山山頂だが、ここは直進して山頂を迂回する「なめら道」に入る。
「下山路」の道標を見てしばらく行くと、第13番・石山寺と第15番・観音寺の観音様が並んでいる。登山口は近い。
さくら堂の横に下りてきた。往路より西側の道から下り立ち、展望台を出て約50分で登山口に帰着である。
予定通り順調に運び、予定通り忠海駅では50分近くの待ち時間が生じた。近くに喫茶店などもなくどうしようかと思っていたら、駅舎に多目的ホール「みなとオアシスただのうみ」があり、ガラス越しに内部が見える。テーブルで何人かがくつろいでいる。気軽に入ることができて、時間までゆっくりと読書を楽しんだ。