1.紅葉谷登山口へ
JRダイヤの乱れで1時間遅れの到着となった。途中から窓外を白くするほど雪が舞い、昼食をどこでとろうかと心配していたが、すでに12時を過ぎている。都合の良いことに、フェリーターミナルの2Fにはゆったりとした休憩所が開放されており、ここで腹ごしらえをして準備を整える。
12時30分に歩き始め、通りを行くと正面に弥山が見える。これからあのてっぺんへ向かうのだ。
先ほど乗ってきたのと同型のフェリーが通る。右手に朱の大鳥居が近くなる。
左へ回り込むと厳島神社があり、右手に見える切り妻造りの東廻廊入口をやり過ごして裏側へと向かう。
宮島ロープウエー入口のアーケードを抜けて、旅館が立ち並び風情豊かな街路を行く。
ロープウェイ方面に歩くと一帯に紅葉谷公園が広がる。
紅葉谷橋を渡って三差路を右にとり(左はロープウェイ乗り場への案内板がある)、3~4分進むと紅葉谷コースの案内板と道標がある。ここが登山口になる。
2.紅葉谷(もみじだに)コースを登る
コースは紅葉谷川に沿ったゆるやかな坂道から始まる。山頂の方向と距離が分かる道標が設置されており、道に迷う心配はない。
山道はよく整備されていて歩きやすく、谷側には適宜しっかりとした手摺りなどが設けられている。
原因はわからないが、この山にも白骨化したような木々が見られる。「七号堰堤」の標柱、これは15号まであるらしい。
ところどころにある段差の大きい石段は、両側の傾斜地と足を踏み分けながら登る。登山口から900mを22分かかって通過した。
ゆるやかな石段まじりの道は散策気分で進む。「十一丁」の丁塚があった。
「十二号堰堤」だ。このあたりから傾斜がきつくなる。残雪が美しい木々の間の階段を13人が整列したように登ると、上の方でほぼ同人数のグループが通過を待っていてくれた。広島の人たちで、早い時間から登っていたらしい。
短いが急な石段、シダに積もった雪がこんなに美しい。
山頂まで残すは800m。最後の急坂をがんばる仲間たち。
「天然記念物・瀰山原始林」の石碑。昭和6年に文部省が設置したものだ。このあたり一帯が弥山の原始林である。
山頂まで700mのこの地点は、ロープウェイ山頂駅の獅子岩への分岐点でもある。
すぐに「十九丁」の丁塚があり、その先のゆるやかな階段を山頂へと急ぐ。
階段の上部には眺望の良い場所があり、東にロープウェイ乗り場が見える。そして南側の眼下に近く小黒神島(こくろかみしま)が浮かんでいる。
3.山頂を巡る
登り着くとまず弥山本堂に参拝する。この寺は弘法大師が開基したと伝えられている。境内には残雪があり、一角にテントづくりの「弥山カフェ」が設置されていた。無人でコーヒーとカップ麺を販売中。
山頂に向かう石段の方へ進むと不消霊火堂(きえずのれいかどう)があり、堂内には1200年燃え続けていると言われる火が見える。弘法大師空海御修業の護摩の火であり、広島平和公園の「平和の灯」の元火でもあると解説板に記されている。お堂の前には「恋人の聖地」のプレート。
石段を登り詰めた先には三鬼大権現を祀った三鬼堂がある。これは日本で唯一鬼を祀っているお寺といわれ、三鬼大権現は大小の天狗を眷属に従え、強大な神通力で衆生を救うとされる。
さらに進むと巨大な岩が現れる。不動岩とくぐり岩である。不動岩は祠になっていて不動明王の石像が安置されている。くぐり岩は文字通りくぐり抜ける岩で、山道のトンネルになっている。それにしても、こんな巨岩がなぜこんなところにこの姿で存在するのか不思議である。
くぐり抜けた先には広場があり、中央に三角点が設置されている。その近くに古い石塔があり、これが何だろうかとずっと気になっていた。Webから得た情報を整理すると、宝篋印塔(ほうきょういんとう)という経典を収納していた塔で16世紀のものだそうである。上から二段目には仏像が彫られており、その下の石には梵字らしきものがびっしりと刻まれている。
北側には宮島弥山展望休憩所が建っている。昨年11月29日に建て替え工事が完了したばかりで、檜の香りがする。360度を見渡せる2階フロアに上がって眺望を楽しむ。大きすぎて近くでは撮影できなかった巨石群を見下ろしてシャッターを切る。
南方向を撮った画像から作成したパノラマ。瀬戸内海の多島美が凝縮されている。
同様に北側のパノラマ。右手前に駒ヶ林山頂が見える。
駒ヶ林の山頂にズームインすると、岩石床の中央に2人のハイカーが座っている。カメラを右に振ると、宮島口から廿日市方面の小中学校、広島岩国道と新幹線、そして手前には牡蠣の養殖いかだを見ることができる。
巨岩の間に鎮座する石仏。なんと、こんな山のてっぺんなのに鹿がいた。
周回して戻りかけたところに、弥山の七不思議の一つである「干満岩」があった。大きな岩に穴があいており、中の水が潮の干満に応じて上下するという。それに塩分を含んでいるということだが、これは確かめなかった。
大日堂まで降りてきた。大日堂には大日如来が祀られている。階段を下りると分岐に出る。
4.大聖院(だいしょういん)コースを下りる
大聖院コースを下り始めるとすぐに水掛地蔵堂がある。その前を左へと下る。
すぐに「二十丁」の丁塚があり、淡い山々の重なりが島とは思えない広がりと自然の豊かさを感じさせる。
下りはテンポが速い。数分もすると駒ヶ林山頂が上に見え、もういちどズームで寄ってシャッターを切る。
仁王門跡には何もないと思っていたが、つい最近に再建された立派な門を見ることができた(2012年10月に落慶法要が行われたそうだ)。
ここは駒ヶ林と奥の院への四差路になっている。駒ヶ林にはこころ引かれるが大聖院へと下りて行く。
大聖院は階段が多い。急階段を下ると石を敷き詰めた路面が見えてきた。
えぐられたような山肌が見えてくると、石積みの大きなダムが現れた。
さらに削り取られた山肌と石積み階段、そして石積みの砂防堰堤がミスマッチな風景を展開する。
次の表示板ですべてが理解できた。2005年の台風14号による土石流で、山が削られ登山道も壊されていたのだ。ていねいな石積みは、想像を超える大掛かりな改修の成果だったのだ。
右手には、大きな一枚岩が水平に2つに裂け、手前の斜面には土砂が流出している。これらは元からこのような形なのか、それとも土石流の影響なのかは分からないが、とてつもない自然のパワーと猛威に身震いする。
ほぼ半ばまで下りてきた。「十一丁」を確認して段差が少ない階段を軽快に下る。
このあたりは「賽の河原」と呼ばれるらしい。大きな岩の下は洞窟になっていて仏像が安置されている。
東屋に着いてひと休みする。展望が素晴らしく、厳島神社全体を俯瞰することができる。
白木の美しいつくりは瀧宮(たきのみや)神社だ。この神社も土石流で流出したが、2012年4月に再建されている。
瀧不動堂を過ぎ大聖院へと向かう。寺院の建造物の手前にもしっかりとした石積み砂防堰堤が築かれている。
岩の間を下り進むと、大聖院の美しい伽藍が見えてきた。
時間の都合で、大聖院は仁王門を眺めただけで通り過ぎ、白糸川にかかる橋を渡る。
大聖院コースが終わった。粟島神社の前を通り、落ち着いた街路を宮島桟橋へと帰って行く。
帰路の途中にはのどかな鹿の姿。近づいた朱の大鳥居が満ち潮に映えている。