1.東の原からリフトで空中散歩
倉敷駅で仲間の車に便乗させていただき一路三瓶山へ。まずは山陽自動車道を西へ向かい、尾道自動車道に乗り換えて三次(みよし)ジャンクションで降りる。国道54号から県道166号へ、途中でカーナビに山越えを指示されて少々険しい道もこなしながら、県道40号線を経てほぼ予定どおり三瓶観光リフト駐車場に到着する。
車を降りると左に太平山、右にいくつもの電波塔を戴く女三瓶山の姿がありこころがはやる。リフト休憩所で、来しなに買い求めたコンビニ弁当で昼食を済ませる。
時間の関係でリフトを利用して、約10分間の空中散歩を楽しむ。右には緩やかなゲレンデ、左にはかなり急なゲレンデが広がる。今年は未だに夏日が多いが、ススキの草原は秋の訪れを告げている。誰かがリフトに乗り損ねたか降り損ねたのか、途中でガクンと一時停止した。緊急時にはさほどショックもなく停止できることを初めて体験した。
大きなプーリーが回転する降車場に着き、銘々に準備運動をする。道標には「太平山 5分、女三瓶山 23分」とある。
2.女三瓶山~兜山へ
12時42分に出発する。緩い階段を歩くと2分ほどで次の道標に出会う。「女三瓶山 20分、男三瓶山 80分」の表示。
ゆるゆると歩き始めるとゲンノショウコ、その先にはイヨフウロの可愛い花が咲いている。
石畳とはいかないが、きれいに石を敷き詰めた道を行く。リフトで標高差255mを一気に引き上げられたので下界がすっかり遠くなっている。
歩きなれた面々だから階段はこんなスタイルでさっさと登って行く。傍らにコウゾリナが輝いているゾ!
男三瓶山が間近になってきた。目を凝らすと山頂付近に展望台のようなものが見えている。見下ろすと、登ってきた東の原から西の原までを一望できる。
女三瓶山がすぐそこに迫ってきた。オッ、右にビービーの木があるではないか。ビービーは幼児語かと思っていたのだが、これは中国地方の方言らしくグミの呼称である。ビービーは長球、つまりラグビーボールのような形で独特の白い斑模様があるのだが、この実はまん丸だ。正式な種類としてはアキグミというらしい。小学生のころ、二坪ほどの畑の脇にビービーの木があって、熟れた実は淡い渋みと甘味が何とも美味しかったのを覚えている。立ち止まれば取れたのに通り過ぎてしまった。一粒なりとも口にしたかったなぁ。
いよいよ女三瓶山山頂まで2分だ。が、先頭は立ち寄ることなくどんどん進む。何となくストップを掛けるのがためらわれて、女三瓶山の山頂には立つことができなかった。スタートして23分、そんなに急がなくてもと思いながら歩調を合わせる。
里山のような道を行くと、フシグロセンノウがまだ花をつけていた。
いよいよ急坂が現れる。息を切らして登り切ると、次はロープを張った岩場が待っていた。
兜山に着いた。ユートピアまでは13分の道標。アキノキリンソウがキラキラと咲いている。
びっしりとホソバノヤマハハコの花。ズルズル滑りそうなザレ場になり、バサバサ前進するUさん。自分は足腰に余計な力が入らないように、溝の部分をゆるゆると前進する。こんな道行きはオノマトペ抜きでは表現できない。
ウツボグサが咲き、ハナウドが弾ける。
3.ユートピア~男三瓶山へ
孫三瓶山のあたりに巨大な窪みがあり池がある。ズームで寄ると室内池(むろのうちいけ)が現れた。
男三瓶山の裾に掛かるように子三瓶山と孫三瓶山が連なっている。しばらく立ち止まっていたいような風景のすぐ先がユートピアだった。ここの標高は980m、残すはわずか146mだがこれからが厳しくなるはずだ。
振り返ると電波塔を髪飾りにした女三瓶山がドンと座している。「歩道が狭くなっています」と注記のある路肩注意の立て札が現れる。
まだ蕾の多いアザミ。白いフワフワブラシはイブキトラノオかと思っていたら、サラシナショウマだった。
ついに姿を現した犬戻しあたりの岩場。ここではかつて滑落事故もあったようだ。距離は短いが急な岩場を注意を集中してよじ登る。
細い尾根だが危険な感じはない。続く岩場をよじ登った後のザレ気味の道のほうがスリップしそうで緊張する。
ポッカリと穴が開いたように視界が開ける。ズームで迫ると白い橋が浮かび上がる。志津見ダムに架かる橋のようだ。
その右に飯南の山村と思われる集落から、白く舞い上がるのは稲藁焼きの煙だろうか。「足元注意」と記された道標が立つ。
一帯はザラメ状の土に覆われていて、進入禁止のロープが張り巡らされている。確かめられないが、その先は崩落しているようだ。逆方向に「女三瓶山縦走コース」の標識が立つ。
避難小屋が見えてきた。軒には「三瓶山頂小屋」の木板が掛けられている。立ち寄ってみたかったが、先行グループより遅れていたので前進する。
最後の坂道が延びて山頂の人影が見えてくる。この一帯はお花畑のようで、ヤマラッキョウの花が咲き、カワラナデシコ、何か分からない白い花、ツリガネニンジン、マツムシソウなどが溢れている。
4.男三瓶山山頂風景
ついに山頂に到着した。山小屋方面を振り返り山頂に目を移す。すでに到着している仲間が見える。
仲間たちを含め30人を超えるハイカーがくつろいでいる。ベンチに腰を下ろして食べる人、風景に見入る人たちと様々だ。下山の道標を確かめて山頂広場の中央に移動する。
山頂標識と一等三角点をカメラに収める。
続いて立派な方位盤を撮そうとすると、周囲の人たちが場所を譲ってくれる。「そのまま、そのまま、人の手が懐かしい」などと言いながらシャッターを押す。と同時に「下りるよ~」の声。山頂滞在はわずか7分、まだ風景をまったく見ていないし山頂神社にも参拝していない。ここまで登ってきたのに、もう下りるの~? 後3分ばかり滞在したかったなぁ。もう一度山頂標識周りを見て下山に掛かる。
5.西の原への下山
さっき確認しておいた道標を西の原方面に向かう。このまま西の原に下りて宿泊施設へ帰りたいとの声が多いと聞き、なるほどと頷くばかり。しかし現在の体力と空模様を考えると、それが正解かなと思いながら木道を歩く。
木道を抜けると向こうに女三瓶山の天辺が顔を覗けている。下り始めて3分ほどで扇沢への分岐に着く。道標「西の原 80分」の方向へ入って行く。
カワラナデシコが咲き、マツムシソウが群生している。
先行グループからやや遅れて先を急ぐUさんの後を追う。シルエットのような背景の山並み、ススキがかくも美しい。
先行グループとの距離が開いている。ひっそりとママコナの花。
眼下のグリーンにナスカの地上絵と思いきや、下山後に三瓶高原クロスカントリーコースであることが分かった。毎年8月には大会が開催され、今年は第20回の記念大会で1,500名もの参加があったそうだ。
またザレ場が現れた。下りでは滑って転倒しやすいので要注意である。先行グループとの距離はさらに広がっている。
何の木か分からないが、紅の実をびっしりとつけている。子三瓶方面が美しい。
先行グループには置いていかれたようだが、ここからMさんとの二人旅になった。いつも独り歩きしている身としては実に心強い。しかしここから先の九十九折りの長いこと・・・。途中の休憩が多かったこともあって、薄暗い森の坂道をほぼ1時間も歩き通すことになった。途中から小雨になるが、話しながらのんびり下りることができた。
「この先ハチの巣あり危険!!迂回してください!!」の掛札が、登る人に見えるよう設置されている。「何だこれは、下りは危なくないとでも思っているのか!」と言いたくなる。薄暗くて手ブレた写真になったが、ここが扇沢・中国自然歩道・西の原との四叉路である。西の原まではもうわずかだ。予定よりかなり遅れていて、やはり西の原下山でよかったと得心する。
四叉路に設置された三瓶山案内図で現在位置を再確認する。次第に本降りになってきた雨の下、フラットになった道を急ぐ。
環境省の登山者数自動計測装置の前を通り過ぎると登山道の標識。
草原を突っ切って西の原登山口に到着した。レストハウスの近くにはすでに車が着いていて、宿泊施設へ直行することに。聞けば、下山中に知り合った福岡県の男性にリフト乗り場まで送っていただいたとのこと、山仲間に感謝だ。
宿泊施設は「四季の宿 さひめ野」。小雨と汗でびしょぬれの体を入浴で温め、その後は刺身の舟盛り付きの豪華夕食に舌鼓。アルコールもはかどって、生中ジョッキに続いて芋焼酎「いも風土記」、これは西浜いも(ベニアズマ)に白麹仕込みで旨い。さらにやや辛口の冷酒「やまたのおろち」もなかなかのもの!
【余録】
帰路につく二日目はオプションツアーのオンパレード。これが、どれもこれも大変有意義で楽しかった。
■三瓶小豆原埋没林(さんべあずきはらまいぼつりん)を見学
三瓶小豆原埋没林公園は、約4000年前の火山噴火によって地中に埋もれた森を、現地で展示・公開している施設である。地中にそびえる巨木を発掘状態のまま、巨大な地下展示室で観察することができる。
三瓶火山最後の噴火で小豆原の谷に土石流が流れ込み、奇跡的に焼失することなく埋没された森。推定樹高は50m、根回り10mに達する巨木。展示されているのはごく一部に過ぎず、その周辺に埋没されている太古の森を想像すると鳥肌がたつ。閑かな展示室に立っていると古楽器の音色が響いてくるようだ。邦楽でも、バロックでも、ジャズでも融和してしまうような不思議な空間でもある。
■出雲大社に参拝
太田市まで出かけてきたら出雲大社を参拝せずには帰れない。ということで訪れると観光客の多いこと。
まずは拝殿にて参拝する。え~と、ここは確か「二礼四拍手一礼」だったよね~、と周囲の皆さんを観察する。四拍手が多いが二拍手も混在しているようで、無事に四拍手で参拝を済ませる。引き続き本殿に足を運んで参拝する。本殿八足門(やつあしもん)の手前には古代神殿の柱の出土跡がある。現在の本殿の高さは約24mであるが、古代神殿は2倍の48mもあったとか。小豆原埋没林の巨木を使えば十分可能な高さであり、先に見た巨木のイメージが鮮やかにリンクする。
■龍頭が滝の観賞
雲南市掛合町の道の駅・掛合の里(かけやのさと)で昼食をとると、「龍頭が滝の辺りは熊が出るので注意して」とのこと。隣接した市場のおばちゃんは「この道(国道54号)にも熊が出る。この前に遇った」と言うではないか。
おっかなびっくり出かけた滝の一帯は龍頭八重滝県立自然公園で、日本の滝百選に選定されている。文字通り八つの滝からなっているのだが、今回は雄滝・女滝からなる「龍頭が滝」を観賞する。雄滝の落差は40mで勇壮そのものである。飛び石を渡って滝の裏側へ回り込むことができる。
やや斜めからではあるが写真左は滝裏からの景観で、いわゆる「裏見の滝」である。写真右は、雄滝から少し奥に位置する女滝で落差は30m、実に爽やかで優しい姿だ。
〔後記〕
かくして、2日間の贅沢にして楽しい山歩きの旅が無事終わりました。初日は車で到着直後から登るということで、ルートの選定や時間配分で世話役の皆さんは大変だったと思います。またいつものことながら、仲間お二人に長距離の運転をお引き受けいただきました。皆さんに感謝です。加えて、同好会初の一泊登山にふさわしい、そして期待以上の佳宿を選んでいただいたリーダーに大きな拍手を送りたいと思います。これを記念して「お品書き」を掲載しておきます。