1.車山肩に向かう
茅野駅に着いた。歩道橋を渡ってバスターミナルへ行き「茅野~車山高原・往復割引切符」を購入する。1~3番乗り場に3台のバスが入り、同時に発車する。1番乗り場は奥蓼科方面、2番は北八ヶ岳ロープウエイ方面、そして3番が車山・霧ヶ峰方面。軽装で北八ヶ岳ロープウエイに向かう人が多いようだ。
バスはビーナスラインを快適に走る。途中の白樺湖にはリゾート施設が整備され、近隣にはバンガローや別荘が建ち並ぶ。
乗客の大半は一駅前の車山高原で下車してしまい、車山肩で降りたのは自分独りだ。
車道両側の駐車場にはたくさんの車が並び、バス停そばにレストラン&売店の「チャプリン」がある。その裏のベンチにはハイカーの姿。
まずはコロボックルヒュッテを確認、[Open]の表札が掛かっている。このヒュッテの主である手塚宗求(むねやす)さんは、1956年にここ霧ケ峰高原車山肩にこの山小屋を創設。日本山岳会会員として霧ケ峰を全国に発信するとともに、エッセイストとして数多くの作品を著している。12年に惜しまれながら逝去。ヒュッテ横庭の「キスゲに寄す」の歌碑は、宗求さんが作詞し親交のあった歌手のさとう宗幸さんが作曲、ヒュッテ50周年記念事業として建立されたものである。
肩の広場には[強清水(こわしみず)方面3km <---> 車山・白樺湖]の道標が立つ。バイオトイレが整備されていて、ここで準備を整える。
2.車山山頂へ向けて
スタート地点からの車山風景。緩やかな高原の左上が頂上で、気象観測所のレーダーが見えている。上空には雲が多い。
ここからスタートする。緩やかで歩きやすい道を登って行く。
おんぶバケットの赤ん坊が大声で泣いている。あやしながら若い夫妻が下りてくる。声をかけたらちょっとだけ泣き止んでくれた。未だ一歳前後だろうが、歩きたくてグズッテいるのかも知れない。緩やかな坂道だけれど、もう「チャプリン」があんなに小さくなっている。
展望の良いところにはベンチが設置されている。雲から顔を出しているあの山は甲斐駒ヶ岳かな?
またベンチだ。ここからは高原に蛇行して伸びるビーナスラインが望める。
両側がササ原の道を行く。傍らの草むらにマツムシソウが咲いている。
すぐ先にはヤマハハコ。それから、これは枯れかけたウスユキソウだろうか?
高原の稜線に山頂のレーダードームが顔を出した。ここから見えるスタート地点と西方向の風景。
歩きやすい山道。レーダードームがしだいに近づいて来る。
3.車山山頂風景
これが山頂の車山気象レーダー観測所。霧ヶ峰最高峰の車山1,925mには楽々の到着だ。近くに方位盤が設置されている。
山頂標識の近くに車山神社があり、付近に古い方位盤があった。
東側のすぐ下にあるビーナスリフト山頂乗り場。薄雲を頂いた蓼科山がそびえる。八ヶ岳の山々は雲のシェードを被っている。
ここでゆっくりとランチタイム。しかし八ヶ岳の雲はなかなか晴れない。赤岳と阿弥陀岳がわずかに頭を出している。
こちらは南アルプス。観音岳がわずかに顔をのぞけ、甲斐駒ヶ岳から仙丈ヶ岳は雲の中。
さらに山頂標識をカメラに収める。
山頂から北西にかけての風景。左端の方が蝶々深山になる。ほぼ真下の車山乗越の位置を確認する。
4.蝶々深山から沢渡へ
山頂から下山を開始する。ビーナスリフト乗り場の脇を経由して、蓼科山と白樺湖を見ながら階段をどんどん下りていく。
三差路に出ると道標があり、八島湿原の方へと歩きやすい道を進む。
少し行くと車山乗越(のっこし)の標識。正面に見える蝶々深山へと向かう。
やがて左側に湿原が現れて歩きやすい木道になる。路面がいいので快調に歩いていると、前方の男女二人が振り向いて「軽快に歩いてますねえ」の声。名古屋から車で来られた元気の良いご夫婦で、自分より少しお若い年代かと思われる。自分と同じコースを歩いてきたが疲れてクタクタで、その先を沢渡に出て帰るとのお話。沢渡分岐点になったので、自分は蝶々深山に登った後で二人と同じコースで帰ることを告げ、激励し合ってお別れする。
道は細くなり、大きな石がごろごろ転がっている。そんな坂道を半分も登ったあたりで沢渡への道を見下ろした。お二人が並んで歩いていると思いきや、奥様が先頭を歩きご主人はかなり遅れてくたびれているようである。
蝶々深山に到着した。7~8人のハイカーがいて挨拶を交わす。八島ヶ原湿原方面を回って来たが予想以上に時間がかかり、さっさと引き上げようと思っているとのこと。
パノラマ写真のために、カシャカシャとシャッターを押していく。東には蓼科山周辺の山々の長閑な風景。
西には北アルプスが横たわっているはずなのだが、さっぱり分からない。
いっせいに下山しだして後を追う。スリップしやすい岩道に気をつけながら下りる。
沢渡分岐に戻り着いた。沢渡に向かって木道を軽快に歩き始める。
やがて木道が終わって、両側がササに囲まれた細道になる。緑のロープから外に出ないように進んで行く。
左には車山湿原、右にはススキの斜面が広がる。
路面がぬかるみ、それを脱けるとササ道になった。緑のロープがなければ進行方向が分からなくなりそうな状態だ。
ロープがなくなり、ゆるやかな起伏の草原が続く。美しい高原の風景だが道は踏み跡のようになる。
沢渡に着くはずの時刻を過ぎるがその気配なし。白樺の先には草紅葉の草原、足元にマムシグサが実をつけている。
ほとんど駆けるように進んでいると、木々の間に北アルプスらしき影。足を止めてズームで近づくと、左端に穂高岳、中央から槍ヶ岳・常念岳・大天井岳が並んでいる。思わず、ヤッホー!
予定時間からかなり遅れて走り出すと、前方に沢渡分岐で別れた名古屋のご夫婦。お二人は間違った道に入り込んだと思い込んでいたようだ。再会を驚き、良ければ名古屋までお送りしましょうとのお話。嬉しかったが、バスと列車を乗り継いで今日中に岡山へ帰らなければならないのでお断りする。そのバスの時刻が迫っている旨を告げて失礼した。その直後に家が見え、「すぐ先に家で~す」と叫んで先を急ぐ。
黒板で手書きの「Café霧夢」。門柱にしゃれた手書きのマップが掛けられ、これで現在地を確認することができた。ありがたい。時間があればぜひ立ち寄りたかった。
その下には宿泊・軽食のヒュッテ・ジャヴェル。急に開けてきた感じだ。
そして、ようやく沢渡に着くことができた。
5.沢渡から車山肩、そして帰路に
バスの時刻まで40分足らず。階段を上がると[車山肩1.0km]の道標。これを30分でこなさなければならない。
滑りやすい粘土質のぬかるみに石ころをばらまいたような急坂。美しい風景にも足を止める余裕がない。息を切らせながらひたすら登る。
やっと登り着いて車山肩周辺が見えてきた。後は坂道を下りるだけだ。最後に沢渡方面を振り返る。沢渡からちょうど30分でバス停に到着。発車の9分前で、楽しみにしていたコロボックルヒュッテ訪問はお預けになった。
バス停の前を犬を連れた婦人が通る。南アルプスの雲が消えて、甲斐駒ヶ岳・北岳・間ノ岳・仙丈ヶ岳がはっきり見える。南西には中央アルプスが淡いシルエットのようだ。遙か彼方に空木岳から木曽駒ヶ岳が浮かんでいる。その中をバスがやって来た。
白樺湖を巡って茅野へと向かうバス。車窓から遠ざかる霧ヶ峰に、グッドバイ!