1.肩の小屋登山口へ
乗鞍観光センター前からシャトルバスで50分足らず、肩の小屋口に着いた。ほとんど満員状態のバスだったが、ここで降車したのはわずか4人。
外国人のカップルと日本人男性はそれぞれ出発。自分はトイレへ出かけて準備を済ませる。
すぐ上までガスが下りている。肩の小屋まで25分の標識。ここが今回の登山口だ。
2.肩の小屋へと登る
いきなり石塊の細道だ。足の運びに気をつけて転倒しないように注意。
すでに森林限界を超えているので、生えているのはハイマツばかり。こんな岩と石ころの道なのでストックは邪魔。時々手を使って登って行く。登山道には緑のロープが張り渡されているので、ガスに包まれても道を見失う心配はない。
7分が経過した頃、見下ろすと肩の小屋口付近の建家があんなに小さくなっている。高山植物を守るために、あちこちに立入禁止の掲示がある。大雪渓周辺は高山植物のお花畑なので、これはきっちり守らなくてはならない。
この季節に花は望むべくもないが、代わって草紅葉が地表を染める。辺りにはチングルマが美しい綿毛を付けて紅葉している。その近くに何かわからないが、枯れた花が実のようになった高山植物と思われるものがある。
こんな高山植物保護の立て看板があり、位置ははっきりしないのだが大雪渓の近くまで来ているはずだ。
周囲には誰もいない。独りゆっくりと登って行く。やがて朦朧とした霞の先に、肩の小屋らしきものが見えてきた。
発電設備のようなものがあり、肩の小屋にたどり着いた。肩の小屋口から30分少々での到着だ。
まず剣ヶ峰への道標を確認する。肩の小屋は営業していなかったが、シャッターが開いていたので入らせていただき小休止。風が強くなり、屋根のトタン板がバタバタと音を立てている。かなり寒くなったので防寒着を着込み、ストックを取り出して準備する。
3.山頂へ向けて
10時45分、剣ヶ峰に向けて出発。ここからも、山道にはロープが張られている。
風がきつく、肩の小屋近くにある東京大学宇宙線研究所はガスで霞んでいる。
5~6分たった頃、20人近いパーティーが下りてきた。先頭の山岳ガイドとおぼしき人が「今日は止めやめ」と言っているのが聞こえる。コースの状況を尋ねると、「こんな風では危なくて登れない」とのこと。ふ~む、どうしたものか。
たしかに強風ではあるが吹き方が安定している。どうやら突風の心配はないようだ。またガスで視界は良くないが、数十メートルは見えそうなので、今すぐ前進が困難とは思えない。
そんな判断で行動を継続することにした。が、また視界が狭くなってきたようだ。
ガスがなければ山の輪郭が明瞭なはずなのだが、この状態ではどのあたりを進んでいるのかピンとこない。足どりが遅いので経過時間もあまり判断の頼りにはならない。
そんな中、下山してきた3人組みにコースの状態を尋ねた。「だいじょうぶ、十分登れますよ。ただ、尾根は風が大変強いので〔頂上小屋営業中〕の標識を左手に進んでください」とリーダー格の男性。元気いっぱいの女性からは「もう少し着込んだ方が良い。上はものすごく寒いので、もっているものは全部着てください」と親切なアドバイス。
薄暗い中を進んでいると、時折り下方に雲の切れ間ができる。一瞬風景が明るくなり、元気に登ってくるハイカーたちの姿が見えると無性に嬉しくなる。
ガレ場を慎重に進んでいると青年に出会った。「風が強いですが、尾根分岐を左にとれば、あとは山が守ってくれますから」。別の女性からは「今日は少ししんどいですが、どうぞ気をつけて楽しんできてください」と声がかかる。山歩きをほんとうに楽しいと感じる瞬間である。
尾根に出た。風が右方向から体を押してくる。バランスを崩さないように5~6分進むと、ポールの立ったピークが見えてきた。蚕玉岳(こだまだけ)が近い。
蚕玉岳に着いた。剣ヶ峰を展望できる位置なのだが、ご覧の通り。
さらに5分ほどで〔頂上小屋営業中〕の標識に出会う。強風の中を左に進む。
風がピタリと治まり、岩の道をひと登りすれば頂上小屋だ。一休みしたいところだが、それは後回しにして山頂へと向かう。
4.剣ヶ峰山頂風景
岩道を少し登ると乗鞍本宮神社が見えてきた。
岩の祠があり、中に〔歩五十踏破之碑〕と彫られた石柱が立つ。これが何を意味するものかは分からない。神社の裏から表へと回り込む。
これが乗鞍本宮神社の表と山頂の様子。飛騨側を向く社の正面には乗鞍大権現が祀られている。社の前に三角点標石があり、その前に鳥居が建つ。
参拝のために社に入ると、左側に神主さんが居られてビックリ。風がきついのでシャッターを閉めておられていたようだ。何種類もの御札や御守りが並んでいた。
一等三角点にタッチして、鳥居をカメラに収める。山頂からの360度の大パノラマを期待していたのだが、すべて雲の中で何にも見えない。御嶽山と思われる方向に合掌。
再び神社の横を回り込んで、信州側に祀られた朝日権現神社へ参拝する。
やっと腰を落ち着けた頂上小屋はにぎやかだ。リュックをおろしたとたんに、上方の雲がわずかの間消えた。乗鞍本宮神社と鳥居がはっきり見える。時刻は12時23分、ベンチを拝借して昼食をとることにした。
昼食をとっていると、ときおり雲の切れ間ができて10秒ほど下界が見える。その瞬間をカメラに収めてパノラマにしてみたのだが、実際とはほど遠い。眩しいばかりの素晴らしい風景は、瞼に刻んで下山することにしよう。その前に、頂上小屋で登頂記念にピンバッジを買う。黒地に白の雷鳥とコマクサを配した美しいバッジだ。
5.畳平への下山
下りかけると、権現池を覆っていた雲が飛んでいる。しばらく待って、何とかその姿を見ることができた。
蚕玉岳に戻ってきた。少し明るくなって、振り返ると剣ヶ峰への尾根道が伸びている。
時々パッと開ける雲の合間に、コロナ観測所を頂く摩利支天岳がそびえている。麓の谷には肩の小屋が霞んでいる。右へと移動する雲の切れ間を追って、位ケ原方面を見下ろす。
肩の小屋に向かってひたすら下りて行く。東大宇宙線研究所の赤い建物が見えてきた。
東大宇宙線研究所付近に差しかかると、肩の小屋はすぐそこだ。
肩の小屋の前へ出てみて、すでに今期の営業は終了していることが分かった。小休止しながら、ガスのかかった摩利支天岳山頂のコロナ観測所にズームで寄る。
肩の小屋から畳平へは車道を歩く。平坦な道を辛抱強くたどると、往路では確認できなかった大雪渓が見えてきた。それにしても、往路に、肩の小屋口からの変化に富んだ登りを選んだのは正解だったなと思う。
足下のガスが薄くなって展望が開ける。蛇行する乗鞍エコーライン、しかし山々は雲に包まれたまま。
その先に、スタート地点の肩の小屋口が見えてきた。登山口付近にズームイン!
緩いカーブを過ぎると富士見岳が現れた。不消ヶ池(きえずがいけ)を雲が消していく。
富士見岳登山口に着いたがこの山も雲の中。しばらく思案していた女性二人組が登り始めたが、ここはバイパスすることに・・・。
[お花畑経由畳平]の道標があるが、ここは[鶴ヶ池経由畳平]へと直進する。
畳平と鶴ヶ池が見えてきた。
道は乗鞍エコーラインに接続しているが、通常は柵で遮断されている。ヘアピンのカーブを曲がって畳平へと進む。
畳平に到着した。バス待ちの間に乗鞍食堂で「おやき」を買って、野沢菜の入った熱々を味わう。
バスが停車した位ヶ原山荘を窓ガラス越しに撮る。4年前、このあたりは赤・オレンジ・黄色と緑が混じり合った紅葉に彩られていたのだが、今回は季節が過ぎ去っていた。紅葉が素晴らしければ、肩の小屋口から歩いて下山しようと思っていただけに、残念。観光センターまでの道中、車窓の秋にシャッターを切る。
観光センターに帰着した。かなり薄くなったようだが、剣ヶ峰にはまだ雲がかかっている。