名 称

たてやま(おやま)

所在地

富山県中新川郡(なかにいかわぐん)立山町

標 高

雄山 2,992m、雄山神社 3,003m

山行日

2015年8月4日

天 候

快晴後曇り

同行者

なし

アクセス

電鉄富山駅から立山黒部アルペンルートを行く。立山駅、美女平を乗り継いで室堂下車。

マップ

このマップは、国土地理院の電子国土Webシステムから提供されたものを使用しています。

コース概要

電鉄富山駅発 6:10立山駅 7:22~7:50室堂ターミナル到着 9:05室堂ターミナル出発 9:33
室堂山荘 9:50祓堂 10:40一ノ越 11:00~11:10雄山山頂(雄山神社参拝、昼食)12:55~13:57
一ノ越 15:10~15:15室堂山荘 16:00室堂ターミナル 16:10~16:20電鉄富山駅帰着 19:22
※体調不良(軽い高山病症状)のため経過時間は参考になりません!

 岡山から列車でアクセスするもっともお得なプランを検討した結果、JR西日本の「立山黒部アルペンきっぷ」を選択した。岡山駅から北陸線・中央線を経由して周回でき、新幹線を含む特急普通車の指定席を利用できる。有効期間は使用開始日から8日間で、アルペンルート区間の富山から信濃大町間は、期間内に何度でも乗り降り自由なのが特長である。ジパング倶楽部に入会していると単純比較ではほとんど変わらないのだが、今回は富山駅近辺で2泊し、2日間にわたってアルペンルートで乗降するのでかなりお得度は高い。
 初日は新幹線のぞみで新大阪駅へ出て、サンダーバードで金沢へ入り、新幹線はくたかに乗り継いで富山駅には昼過ぎに到着した。北陸新幹線の開通で近代的な駅舎が完成しているが、表玄関の広場はなお整備中。とりあえず、2日目早朝に出発する電鉄富山駅の場所を確認して、近辺をそぞろ歩くことに。それにしても、暑い!

1.電鉄富山駅~室堂ターミナル

 午前5時、起き出すとホテルの窓には朝焼けの街。青空に気を良くして出発の準備をし、コンビニでパンと牛乳を買って電鉄富山駅へ向かう。富山駅前のバスターミナルには、6時発の折立行きバスが満員状態で出発を待っている。

 電鉄富山駅のプラットフォームに登山姿の乗客はチラホラ。立山行き電車に乗り込むと、乗客は意外に少なく座席の半数にも満たない。これは楽に移動できそうだと思う。定刻の6時10分に出発、しばらくは田園風景が続き、岩峅寺(いわくらじ)駅を過ぎたあたりから森林が現れて車窓に豊かな自然が広がる。

 1時間12分で立山駅に到着し、7時40分発の美女平行きケーブルカーの改札ゲートに並ぶ。車利用や他のルートからの登山者が集中するので長蛇の待ち行列ができたが、好位置に並ぶことができ確実に乗れそうだと安心する。室堂の現在の温度は18.8℃、モニター画面の立山連峰は陽光が眩しい。

 ここでとんでもないハプニングが起きる。改札手続きで、「この切符だけでは入れないので、1階下の切符売り場で乗車整理券をもらうように」とのこと。これでは7時40分の便には間に合わず、後行程への影響が気にかかる。写真左が「立山黒部アルペンきっぷ」で、切符売り場で提示すると乗車便指定の整理券を発行してくれる。

 幸いにも10分後の臨時便に乗車できることになり、行程への影響はない。余談ながら、改札手続きはきわめて合理的にできている。係員が乗車整理券面に印刷されたバーコードをスキャンするだけで、自動改札機より迅速に通過できる。同時に乗客数の動態が確実に把握できるわけで、次の駅では乗客数に合わせた車両台数配備や臨時便運行を決めているようだ(想像だが)。とにかく、大量乗客の円滑な券面チェックと乗りこぼれが起きにくいシステムになっているようで、安心して移動することができた。

 階段のプラットフォームに並ぶと、貨物車を連結した面白い形の車両が下りてきた。この貨物車は資材運搬などに使われるそうである。

 進行方向右手に青空と山を見ながら引き上げられる。乗車時間はわずか7分で、途中に「材木石」と呼ばれる柱状節理の岩場を見ながら標高977mの美女平に着く。再び改札口に列をつくり室堂へ直行するバスを待つ。

 美女平からのバスは、約50分で標高差1,473mをいっきに駆け上がる。7~8分で「仙洞スギ」という立山一の巨木の脇を徐行する。

 その数分後に「滝見台」へ差し掛かると、いったん停車して車内アナウンスがある。滝見台からは日本一の落差(350m)を誇る称名滝(しょうみょうだき)を眺めることができる。車窓を通して逆光の方向にボンヤリ見える滝の姿を追う。

 弥陀ヶ原ホテルが見えてきた。ここで下車することもできる。標高1,930mのバス停から周辺に広がる遊歩道を辿って、湿原と山々の景観や高山植物を楽しむことができる。バスは北に大日連峰を見ながら走る。

 美女平から40分ばかり、蛇行する道路の先に立山連峰が現れた。あちこちに雪渓が白く輝き、青空が連峰を包んでいる。午後から大気が不安定になるとの天気予報なので気は抜けないが、ブラボーと叫びたいほどの好天だ。

 おお、剣岳が顔を覗けている、とズームで近づくと、あれは前剣かな?ギザギザしたのは剣御前と思われるのだが。
 室堂が近づくと山の姿がガラリと変わる。剣御前からずらり右にかけて立山連峰が連なっている。

2.室堂ターミナル~祓堂~一ノ越

 室堂ターミナルは登山者や観光客で溢れている。階段を上がって登山道に通じる屋上(3F)に出るが、その前に入山届を投函する。

 屋上展望台では、まず南の浄土山と広い雪渓が目に映る。やや左側には立山センターの建家越しに雄山がそびえている。目を凝らすと山頂小屋が見えている。

 広場に設置されている「中部国立公園 立山」の記念碑を撮影する。隣接した「立山玉殿の清水」ではハイカーたちが水筒に水を詰めている。備え付けの柄杓でいただいたら、腹に染み入る冷たさと爽やかさに癒やされる。

 9時33分、いよいよ室堂ターミナルからスタートする。出だしは歩きやすい石畳から始まる。まずは一ノ越山荘への到着が目標だ。

 立山センターには救急車と消防車が待機している。それを右に見ながら進んでいると、キャタピラを履いた車両がやって来た。これはどうやら、室堂山荘などに商品や資材を供給する運搬車らしい。

 道々にあふれる花の観察・撮影で足が止まり、なかなか前進できない。室堂山荘までに出会ったのは以下の通り。
 <ミヤマアキノキリンソウ・タカネスイバ>

 <ハナニガナ・コイワカガミ>

 <チングルマ・ミヤマキンバイ>

 <イワイチョウ・シナノキンバイ>

 ようやく室堂山荘横の広場を通過する。広場からは山が窪んだ奥に一ノ越山荘が見え、緩やかな石畳の道が延びている。

 室堂山荘を過ぎると一ノ越までいくつもの雪渓がある。かなり眩しいのでサングラスを取り出し、雪の感触を味わいながら前進する。

 「雄山一ノ越」の標識が立つ。このあたりはハイキング気分で歩いて行く。

 深い雪渓では、赤いユニフォームの高山植物保護パトロール員が雪渓切りをしていた。お礼を言って通過する。しだいに傾斜が増してくる。

  祓堂(はらいどう)に着いた。このあたりは、昔の立山信仰で下界と神域との境界とされた場所であり、身を清めお祓いを受けて山頂へ向かったそうである。この先から傾斜がきつくなる。

 雷鳥沢への分岐のあたり、ふり返ると遙か彼方に室堂ターミナルとミクリガ池が見え、大日岳と奥大日岳が並んでいる。道の左手には小さな石地蔵が立ち、真砂岳から別山方面の稜線が美しい。

 傾斜が増した石畳を辛抱強く歩くと標高2,700mの道標。周辺ではハイカーたちが休憩している。

 一ノ越山荘には11時ちょうどに到着した。室堂山荘付近からも花が多く、花と景色に見とれて予定より30分も遅れてしまった。次から次へと頂を目指す人たちが出発して行く。ここには最後の公衆トイレがある。

 一ノ越から南に広がる山岳風景。燕岳、常念岳、槍ヶ岳、穂高岳あたりが見えているはずなのだが明瞭ではない。かなり雲が高くなっているので、今後の動きに気を付けなければならない。

 以下は、室堂山荘から一ノ越までに新たに出会った沢山の花たち。
 <コバイケイソウ・ハイマツ>

 <なにやら分からない白いあざみ・タテヤマアザミ>

 <ヤマハハコ・イワツメクサ>

 <ヨツバシオガマ・ミヤマリンドウ>

 <チングルマの実・イワギキョウ>

3.一ノ越~雄山山頂

 天気が崩れないうちに行動したいので、10分ほど休んだだけで出発する。一ノ越から上はすっかり路面の状態が変わる。大小の岩屑が堆積していてしかも急な傾斜が続き、がぜん山登りらしくなる。が、なんだか体調が変だ。7~8分登ったところで脈拍がかなり速く、しかも深呼吸でコントロールできないことに気づいた。軽度の高山病の症状である。

 それでも10分で一ノ越山荘はこんなに小さくなる。ぐいぐい登って行く感じである。その時、気になっていた南の一角の雲が動いて槍ヶ岳が顔を出した。

 息切れと動悸を治めるため頻繁に休息をとり、その都度カメラを構えてみる。遙か下方に室堂ターミナルとミクリガ池、そこから延びる登山道は糸のようだ。そしてまた登り始める。狭くて急な道、というより踏み跡を辿って登る。したがって、下山者とは道を譲り合い、挨拶を交わして進むことになる。決まった登山道はないので、自分で足場を探して登っても差し支えない。ただし、浮き石や落石にはくれぐれも注意が必要だ。

 地元の小学生たちの下山が続く。皆ヘルメットを着用している。ピョンピョン跳ねるように下りてくるのだが、転びそうな気配はない。子供の身の軽さと柔軟さには感心してしまう。それにしても、なかなか三ノ越に行き着かない。このあたりは、一ノ越山荘が見える最後の地点になりそうなのだが。

 進路にハイマツ林が現れ、その向こうに祠が見える。予定の2倍以上も時間をかけて、やっと三ノ越に到着した。体調を確かめるが、脈拍が速いことを除けば特に異常ない。ただ休憩回数が多くなるので、可能なら大汝山まで足を伸ばそうとしていた当初計画を中止することにした。そうすれば1時間ばかり余裕ができるので問題なしだ。

 山頂の建物が見えてきた。しかしここからの距離をなかなか詰められない。尖った岩が多いので、注意深く足を降ろす。

 山頂小屋はすぐそこだ。そして12時55分、一ノ越山荘から1時間45分という驚くべき遅さで、しかし無事に山頂を踏む。ふり返るとガスが湧き上がっている。

4.山頂風景

 標高2,991.6mの一等三角点と方位盤が設置された山頂。広場にある山小屋は雄山神社の社務所で売店もある。

 小高い一角に雄山神社峰本社があり、登頂登拝受付で登拝料(500円)を支払って進む。

 鳥居をくぐって扉の奥へと進み、幅の狭い階段を注意深く登る。社の一帯にはイワギキョウがいっぱい咲いている。

 社前の広場に十数人ばかりが揃うと、神主さんが太鼓を打ち、お祈りと共にお祓いをしてくれる。そして、御神酒を振る舞われるが、登山中は呑まない流儀なのでこれは遠慮した。登拝時には鈴の付いたお札などをいただく。

 社殿脇には「雄山山頂 標高3,003m」の黒御影石の標石があり、向こうに大汝山がそびえている。見下ろす社務所ではハイカーがくつろいでいる。

 南側の山々の様子、雲には大きな動きはないが北西方向からガスが迫ってきた。

 時刻は13時20分。社務所前のベンチで遅い昼食をとろうとするがまったく食欲がない。普段の自分には絶対にない状態で、これも高山病の症状に違いない。弁当を広げるが箸をつけただけで片付け、バナナを1本だけ何とか食べきる。遠くに雷鳴が聞こえたようで、14時前に腰を上げる。相変わらず脈拍は速い。

5.往路を下山する

 大半のハイカーは下山しており、ゆったりと下りられるのはありがたい。しかし、下りでは転倒しやすいので気を抜けない。段差が大きい部分はストックを持ち替えたり畳んだりで、両手で岩をしっかりホールドして下りて行く。25分ほどで三ノ越に戻ってきた。

 三ノ越からの下り口、正面に浄土山が見える。足元の岩陰にはイワギキョウが群生する。

 下りかけて間もなく、前方10mばかりを下りていた高齢カップルの女性が足を滑らせて(あるいは浮き石を踏んだのかも)転倒し、1回転して頭部を岩にぶつけた。思わず「転倒したよ~」と叫び、やや間を置いてその前を行く男性も気づく。周囲から「目はちゃんと見えるか?」「目眩はしない?」「吐き気はない?」と声がかかる。
 しばらくの間、皆足を止めて様子を見守ったが、同行の男性が「大丈夫のようです、ありがとうございました」の声で解放される。北側にガスが立ちこめる一ノ越へと、慎重に下りて行く。

 一ノ越山荘には15時12分に下り立ち、やはり倍近い時間を要することになった。ベンチに腰を下ろして水分を補給したら即出発だ。

 高度が下がったためか体調が回復し、いつものペースで歩けるようになった。浄土山側から流れてくる清水に目を留めると、その先にクリオネのような花をつけたヨツバシオガマが溢れている。

 雪渓の向こうに室堂山荘が見えてきたが、背景の大日連峰はすっかり雲に隠れている。暗い風景に転じてはいるが、足元の水場にはこんなに瑞々しいのが茂っている。

 室堂山荘の広場に戻ってきた。雲量こそ増えているが立山の稜線はなお美しい。室堂ターミナルへの分岐に差し掛かった時、抜きつ抜かれつで歩いていた若いカップルが、振り向いて挨拶してきた。これからミクリガ池方面を一回りして帰るそうである。嬉しいエールを交換しての別れだ。

 左折して行くと、行きには気づかなかったチングルマの風車が揺れている。室堂ターミナルには余裕をもって到着し、16時20分のバスで往路を富山市内に向かう。