1.JR堅田駅~坊村~御殿山コース登山口
堅田駅で電車を降り、用意を調えてバス停へ向かうと長い列ができている。
若者が多く、みなさん歩きなれた装備とスタイルで、タフな感じに圧倒される。満員状態ながらもなんとか座席を確保でき、村落を巡りながら50分で坊村バス停に到着した。
登山口の反対側には、安曇川(このあたりでは葛川と呼ばれるらしい)を挟んで、山間に懐かしい茅葺きの家。バス停の近くに清潔なトイレがあり、準備が整うとそれぞれ明王院の方へと歩き始める。
飲料水の補充を予定していたのだが、まったく店がなく自動販売機も見あたらない。先に行けばあるかもしれないと前進。登山届けのポストに計画書を投函し、三宝橋を渡る。
明王院に着き、結局、飲料水を調達できないまま御殿山コース登山口にさしかかる。八分目になったスポーツドリンクと手つかずのお茶、どちらも500mlペットボトル。何とかこれで凌ごうとスタートする。
2.御殿山へ向けて
スタートは9時55分。地図からは読みとれないほど反復の多い、九十九折りの急坂が続く。
いくらも進まぬうちに息が上がり、ストックを取り出すことになった。美しい木々の風景を眺めながら、ひたすら登って行く。
前方を行く女性二人連れが停止し、水分補給と衣服調整をしているので、距離をおいて立ち止まり待つ。その後もしばしば小休止をとるので、挨拶して声をかけながら登る。キノコの写真を撮りつつ二人の後を距離をとって歩くが、進捗が心配になってきた。
はじめて出合った道標は朽ちて木の根っこに置かれていた。「坊村・明王院 約1時間」と読める。そこから5分先に新しい道標が立っていた。スタートして1時間20分が経過、そろそろ冬道分岐に到達しなければならないのだが・・・。
気が急くと、こんな美しい風景さえ単調に感じられてくる。不意にキーキーと音がしたのでその方向を探すと、遠く谷間に猿が見えた。
平地が広がり3人組が食事をしている。女性2人組もここで座り込んで食事を始めた。
前方から若い娘さんが下りてきたので現在地を確認する。地図を広げて「ここは冬道分岐のはず。この先は谷がとてもきれいですが、昨日の雨で山道がベタついて滑りやすいので注意してください」と教えてくれる。
すでに時刻は11時30分になっているが、食事は先延ばしして急ぐことにした。すぐ先に朽ちた道標があり、見えにくいのだが「武奈ヶ岳1.5k」と書かれているようだ。
直進すると冬道。右手にとって小さなピークをトラバースするように夏道を行く。たしかに滑りやすい部分が何カ所もあり、緩く切れ込んだ谷側の眺めはきれいだ。
トラバースの後は起伏の多い道で、かなり疲労を感じて昼食をとることにする。お茶をひかえめに飲みながら、愛妻弁当を口にする。いつもなら短時間できれいに平らげる弁当がはかどらず、おにぎり1個と漬け物を残してしまう。食事中に、くだんの女性2人組が追い越していった。
行動を再開するが、体が重い。この半月ばかり暑さで家にこもりがちで、近場の軽いウォーキングとストレッチで体力をキープしてきたのだが、これはまずかったようだ。少なくとも、トレーニングとしては不十分であったことを思い知らされる。そうこうするうち、冬道合流点に出合う。
残す御殿山までの道は緩やかな尾根道だが、思うように速度が出ない。
左の一角がポカンと開けて、木々の間から武奈ヶ岳が見えている。ズームで寄るとハイカーの姿が見える。
12時50分、やっと御殿山に到着した。レスキューポイントの標識とともに、山頂名板が吊されている。
ここまで登ってきた人だけが眼にできる風景だ。武奈ヶ岳と西南陵の美しい姿がハイカーを招いている。しかし、先着の女性2人組は「力の限界で、今日はここで引き返します」と残念そう。登頂するためには、ワサビ峠に下りて1120mピークへ登り返し、西南陵を歩き通さなければならない。
この時点で計画との遅れは35分、京都バス最終便には十分な余裕をもって行動できる。2人組と別れの挨拶を交わす。
3.ワサビ峠~武奈ヶ岳山頂
ワサビ峠への下りはかなり急である。復路での登りを心配しながらもどんどん下りる。
13時ちょうどにワサビ峠到着。道標から東へ進むと中峠へ出る。ここは直進して1120mピークを目指す。
這い上がるようにして1120mピークに到達した。
ピークからの眺望。中央がコヤマノ岳だろうか。その向こう、遠くに見えるのは打見山と蓬莱山だと思われるのだが。
ピークから見る西南陵と武奈ヶ岳の姿も、とびっきり美しい。ズームで寄るとハイカーたちの姿が見える。
最後の鞍部にはケルンがある。かなり疲労を感じて、ここで多めに水分を補給する。
あとは緩やかな尾根をひと歩きすれば山頂だとスタートするが、5分ほど行くと足が痙攣、歩行中の痙攣は初めてである。持参していた食塩を取り出し、少量のお茶で飲み下す。振り返ると、さっきのピークに若いカップルの姿。
いつもなら駆け足になりそうな尾根道だが、いっこうに足が動かない。小さなコブのような岩を越えて、小休止を繰り返しながら登る。
13時54分、ついに山頂だ。計画より1時間5分の遅れである。山頂標柱とノッポの三角点標石をカメラに収める。
やや霞んではいるが、釈迦岳からリトル比良の山並みがきれいだ。
残念ながら、琵琶湖方面はガスでほとんど見えない。14時13分、足下に留まった蝶を撮影して下山にかかる。後で調べると、タテハチョウ科のウラギンヒョウモンという蝶であることがわかった。
4.往路を下山する
コブのような岩にさしかかると、カマツカが実をつけている。1120mピークまでの下りは足どりが軽い。
1120mピークに着いて御殿山を望む。足下にウツボグサが咲いている。
ワサビ峠には14時36分に帰着し、計画より45分遅れまで取り戻した。ワサビ峠から御殿山への登りでは何度も足が止まり、18分もかかる。飲料水が少なくなり、注意深く摂取する。
もっとも足がはかどるはずの緩やかな下りで、思うように足が動かない。飲料水の残量がわずかになって、十分な水分摂取ができない。途中でまたもや足が痙攣して食塩をなめ、冬道分岐には15時42分に到着。また1時間10分に遅れが拡大した。
そこからの下山はたどたどしいもので、計画では55分の区間を1時間半以上もかかってしまった。途中で、喉の渇きをいやそうとドライフルーツを頬張るという無知な行為で、逆に喉が焼きついたようになり咽せ込んでしまい、時間と水を浪費した。登山口が近づいた九十九折りの途中で、飲料水が底をついた。
登山口から坊村の通りに出ると、「山の辺料理」の店が開いていた。打ち水と桶のアジサイが涼を誘う。
店の前の堀割にはお茶が冷やされている。バスの発車までは10分弱。停留所近くに「お食事処」の看板を見つけ、飲み物を買おうと飛び込む。が、「売り物はないのでお水で好ければどうぞ」と言うことで、お言葉に甘えて何杯もごちそうになる。この水は本当に美味しかった。女将さんに感謝である、
かくして、最終バスに辛うじて間に合い、無事帰路につくことができた。
武奈ヶ岳は予想通り素晴らしい山だったが、きわめてキツイ山行になった。同様な問題を繰り返さないよう、以下の反省点を肝に銘じておく必要がある。
○飲料水は入手が確実な鉄道駅周辺などで、十分な量を調達しておくこと。
○ウォーキングとストレッチだけでのトレーニングでは、必ずしも十分ではないこと。
○飲料水が不足している状態でのドライフルーツ摂取は慎むこと。
○塩分不足対策として、経口補水液または経口補水塩の準備を考えること。
○時間見積と交通機関利用には十分な余裕を見込むこと。