1.妙見口駅から登山口へ
能勢電鉄妙見線で終点の妙見口駅に到着した。平日の昼前のためか降車客はほとんどいない。
駅前で道が分岐している。左は高代寺への参道。妙見山へは右の道を進む。この道は「能勢妙見さん」の門前町の風情を残す花折街道で、左に見えるのは名代の草団子屋として繁盛した「たまや」。今も壁に屋号が残り当時を偲ばせる。ただし、現在は「こだわりの国産蜂蜜と手造り雑貨の店」である。
可愛い「吉川花折道祖神」があったり、「田んぼの土雛」という愛嬌いっぱいの人形が並んでいる。
右に見えるのが妙見山だろうか?天候はもうひとつだが雲は厚くなさそうだ。国道477号の交差点を渡ると登山口である。
2.上杉尾根登山口から山頂へ向かう
右折すると上杉尾根登山口だ。道標には「稜線コース」と記されている。花に彩られたワクワクするようなアプローチである。
舗装道の終点に登山口の標識があり、ここに上杉尾根・緊急通報ポイントNo.1のプレートが立っている。
丸太の階段を登ると、しばらくは沢のように窪んだ急な坂が続く。
上部が後方に落ちたと思われる二基の石塔があった。その先に緊急通報ポイントNo.3が立つ。
材木の搬送にでも使うのだろうか。ロープウェイらしきものが設置されていて、頭上に注意して進む。ところが、この先のやや大きな段差をエイヤッと登ると、左ふくらはぎにピシッという感触があり激痛が走る。これが肉離れらしいことは後でわかったのだが、痛くて動けなくなってしまった。
通報ポイントの番号から3合目過ぎあたりと判断。さて、どうするか。ここから引き返して駅まで戻るのと、上まで登ってリフトなどを利用しての下山とを天秤にかけてみる。持参していたホワイトテープで傷む部分をテーピングして、どの方向なら踏み出しが利くか、どの姿勢がムリかを試してみた。左足が右足より後になると激しく痛むが、左足を踏み出して踏み込むのは問題ないことが判り、登り通す決心をした。
4月7日というのに真冬のような天気だが、若葉は萌葱色に染まっている。尾根に出てポイントNo.5が見えてきた。
カメラのセッティングをしている男性と出会う。谷間を彩る桜が淡いピンクの雲のように美しい。緊急通報ポイントの終点番号を尋ね、15であることを知る。かなり先は長い。
ポイントNo.6から西の展望が開ける。黒川の集落が見えている。
尾根道が続く。ゴォーゴォーと尾根を吹き抜ける風の音が凄い。左足を思い切り前に出しては右足を引きつけ、まるで尺取り虫のようにゆるゆる進む。石塔の頭部のようなのがあり「妙見宮」と刻まれている。
ほぼ中間地点の八丁茶屋跡に着いた。わずかながら平らな土地が広がり、ここで小休止をとる。現在の姿勢で進む限り、左足の痛みは何とか我慢できそうである。むしろ負担が増した右足が心配でマッサージをする。
無機質な白いパイプが不規則に並ぶ。いぶかしい代物に近づくと木の頭が覗いている。どうやら植樹しているらしい
ポイントNo.8からは南西方向の大パノラマ。10日ばかり前に歩いた中山連山と、遠くには甲山(かぶとやま)から六甲山系が広がっている。
強風にも負けぬ桜の美しさはどう表現したらいいのだろうか。風の音がなければ、時間が静止しているような風景である。
緩やかになった道の向こうにベンチが並び、グループ登山の一行が昼食をとっている。草むらの中にも数人。時刻は12時10分、朝から登って下山途中とのこと。それにしてもなぜこんな寒いところで昼食なのだろうかと思ってしまう。山腹から流れ落ちる滝のような桜をカメラに収める。「気をつけて行ってらっしゃい」の言葉を嬉しく聞きながら、尺取り虫スタイルで別れを告げる。
No.11に到達すると、その先から道がフラットになり桧林が続く。よく手入れされた林は気持ちいい。陽差しがあれば輝くに違いない。
No.14に到達して残すは1区間になったが、ここからが長い。桧林の道はしだいに傾斜を増しながら延々と続いている。
尾根道最後の坂を登って、ついに終着のNo.15である。
3.能勢妙見山山頂と周辺
だが、なんと、着いたところは大駐車場である。土日曜はバスの便もあるらしい。山頂方面はガスが渦巻いている。
駐車場の先は三差路で、左はリフト乗り場方面。右の鳥居に向かって進む。「日蓮宗霊場 能勢妙見山」の石柱が建っている。
長い階段の先はモヤで霞んでいる。尺取り虫状態で一段ずつ辛抱強く登って行く。「三角点」の標識で右折する。
奉納された石灯籠と石碑の間を登って行くと、彰忠碑(日清・日露戦争の戦没者を慰霊する塔)が建つ広場に出る。
三角点はその一角にある。四等三角点である。
昼食を予定していた信徒会館「星嶺」に着いた。時刻はすでに13時20分で腹ぺこである。ところが会館は閉鎖中、これは困った。
妙見宮を訪ねるべく山門をくぐる。美しい山門だ。このあたりの温度は、何と3℃ではないか!
立派な寺務所を見ながら階段を降りて、浄水堂で手を清める。
祖師堂(棲神殿)と開運殿(本殿)に参拝して到着を感謝し、不自由な足を抱えたまま無事に進めるように願う。
これは絵馬堂だ。干支の大きな絵馬が吊り下げられている。寒さが凌げて昼食できそうな建家があるが、そこは祈祷待合所。「ハイキングの方の利用はご遠慮ください」の貼り紙があり立ち入ることはできない。
空腹のまま妙見宮を後にする。古めかしくも懐かしい感じの食堂があるが「本日は営業終了」、恨めしいなぁ。
突き当たりの石灯籠を右折して緩やかな道を行くと、往路の参道に出る。
4.リフトとケーブルカーでの下山
駐車場そばの三差路に戻ってきた。時刻は13時46分で、予定より15分の遅れである。気持は歩いて下りたいのだが、この足の状態ではとてもムリ。リフトとケーブルカーを利用することにする。
観光リフト乗り場までの300mの長いこと。もどかしい姿勢で一歩ずつ進む。乗り場手前にブナ林への階段があるが、残念ながらこれはパスだ。
やっとたどり着いて自動販売機で切符を購入して乗る。部分的に残っている桜を楽しみながら12分間の遊覧。風の影響はまったくなかったが、寒いので手袋とウィンドブレーカーは欠かせない。
「妙見の水広場前駅」に到着。広場の向こうには「リフトの見える展望台」とバーベキューテラスがある。
ケーブル山上駅へは坂道を5分ほど下るのだが、これも尺取り虫移動ではかどらない。まきストーブの暖かい待合所に腰を落ち着けて14時40分の便に乗る。
「ときめき号」は標高差229mを約5分で移動する。整然と延びる鉄路を眺めながら、「山登りが体力的にムリになっても、こんなのを利用して楽しむ方法もありだな」などと考えてしまう。鉄路の延長線上に高代寺山がそびえている。
黒川駅に下り立った。ここも気温は8℃と低い。窓口に貼っているタクシー会社の電話番号を頼りに、妙見口駅まではタクシーを利用。駅舎に隣接した待合所で遅い昼食をとる。