1.登山口~尾鷲辻(おわせつじ)
曇りのはずの大台ヶ原は小雨模様。それにガスで煙っている。気温も低く大急ぎでレインウェアを着込む。
日出ヶ岳、大蛇嵓、苔探勝路はこの山道から入って行くので、次の分岐で進路を間違えないようにと注意を受けて出発。
ガスっているとはいえ、何ともしっとりと雰囲気の好い遊歩道が延びている。
分岐になり、間違えないように右の「尾鷲辻」方面へ進んで行く。しばらくは敷石の美しい道が続く。
道路はよく整備されていて歩きやすいが、ときどき沢状態の岩を踏む場所もある。
なんとなく湿原を歩いているような雰囲気になる。
古木や切り株についた苔が美しい。
15分ばかりで駐車場と尾鷲辻の中間地点を通過する。
ブナの原生林が淡く紅葉しはじめている。
いろんな種類の苔が様々な形を創りだしている。閑かな空間に展開される幻想的な風景だ。
急坂を登りながらわき見をすると、息を呑むような枝ぶりの紅葉に足が止まる。
倒木までもが美しい。
朽ち木でさえ美しさを主張しているようだ。
モヤのベールにつつまれた紅葉。
木々についた水滴のきらめき。
尾鷲辻の休憩所には人が溢れている。同行のメンバーよりも他の団体の人たちが多いようだ。自分がかなり遅れて歩いていることがわかり、休む間もなく道を急ぐ。
2.牛石ヶ原(うしいしがはら)~大蛇嵓
早足で歩くが、こんな風景に出会うと足が止まってしまう。
ようやく大蛇嵓まで1.0kmの道標。ぬかるみやすいところは木道が整備されている。
広場に出たが誰もいない。独り歩きのご婦人に挨拶すると「お生憎さまの天気で!」と返ってきた。
牛石ヶ原に到着した。
牛石ヶ原には神武天皇の碑と像が建てられている。この神武天皇については、昔々神武天皇が九州から大和に遠征(つまり東征)した時に、熊野に上陸して八咫烏(やたがらす:天照大神から遣わされた烏)の先導で北上し、ここで国見をされたという伝説がある。
さらに道を急ぐ。
間もなく大蛇嵓への道標がある。そのすぐ先で、同行のM夫妻が大蛇嵓から折り返して来るのに会う。ガスで何も見えなかったとのことだったが、目標地点が近づき気分が高揚してくる。
しだいに路面が険しくなる。岩場歩きになりゆるゆると前進する。
正面に大きな岩が立ちはだかり、その脇を越えなければならないのだが、ガスが濃くなっていよいよ視界が悪くなる。
岩に登る最後の木段。湿っているので滑らないように、とスタッフから声がかかる。
かくしてたどり着いた大蛇嵓は視界が数メートル。思い描いていた山並みも絶壁も、な~んにも見えない。雨でスリップしやすいため先端まで行くのは危険と止められる。少し離れた人がブロッケン現象の影のように見えるばかり。
3.ビジターセンターへ急ぐ
そんな具合で早々に取って返す。
しかし、牛石ヶ原あたりの揺れているような木々、顔をさえぎる枝の水滴、踊るような紅葉樹。これらには足が止まってしまう。
尾鷲辻も駆け抜けるように過ぎて1時間足らずで登山口に帰着した。
大台ヶ原ビジターセンターで落ち着く。一角に「日出ヶ岳こよみ情報」が掲示されている。大台ヶ原の自然や文化についての解説や掲示を眺める。
同センターの裏窓からの風景。やがて、自分たちのバスが見分けられなくなるほどガスが濃くなってきた。