1.竹田駅~駅裏登山道登山口
降り立った竹田駅は、何やらレトロな雰囲気が漂う。昨年3月にリニューアルしたばかりだが、古い雰囲気を残したままのプラットフォームも、シックな木材と日本瓦を活かした駅舎も、ずっと以前からそこにあるようだ。おやッ、駅の前には「天空バス」の停留所がある。
駅前を右折して300mばかり進み、また右折して踏み切りを渡って右へ行くと寺町通り。
寺町通りの北側には4つの寺院が連なり、用水路のような竹田川には鯉が放流されている。川にかかる石橋と白壁の塀が美しく、むかし訪れた津和野を思い出させる。
4つ目の寺院の先が竹田駅の真裏にあたり、そこに竹田城跡登山口がある。
2.駅裏登山道を竹田城跡へ
寺院の白壁沿いに進むと、竹田城跡マスコット「たけじぃ」をプリントした登山道門扉の案内板が立つ。「たけじぃ」は竹田城跡に古くから住む妖精とのことで、頭の雲の上に虹が架かった竹田城跡を乗せていて愛嬌がある。
すぐ近くには「竹田城跡 0.8km」の道標。地図に見る山頂までの標高差は約250mで、そこそこの急坂が待っているようだ。
とても緩やかな道が続く。登山口から2分ほどで「屋敷跡」を通過する。案内板によると、ここには城主や家臣団の屋敷があったそうで、お城には政務や戦の時に登るが、それ以外の時はこの屋敷で暮らしていたとのことである。
ふり返ると、どっしりとした朝来山(あさごやま)がそびえている。朝来山の標高は756mで、その中腹にある立雲峡の第一展望台は、幻想的な「雲海に浮かぶ竹田城」の写真を撮るための絶好のポイントになっている。天主は竹田城跡の中央部に位置するので、先の道標の距離よりも少し先になる。門扉の手前に「天主まで920m」の手書き標識がある。
山道の門扉を入ると勾配が急になる。ここからしばらくは擬木の階段が続く。陽差しが厳しい。
涼しくなったコナラの林をくぐっていたら、びっくりするような大きな葉が茂っている。女性の誰かが「あれはホオバだヨ!」と言った。そうだ、むかし金沢で食べた朴葉焼きの葉に違いない。あれはホオノキ(朴の木)に違いない。
すぐ先に洒落た休憩所があり、若い男性3人が休んでいる。「頂上は近い?」と尋ねると、「まだだいぶ先で~す」の返答。同行の誰かが「嘘でも、近いと言ッテ!」。そして、傾斜はさらにきつくなる。
木の間に下界が見える。料金所に到着だ。登山口から48分が経過している。少々遅れ気味のメンバーを気遣っていると、ゆっくり追いかけていますとの連絡に安堵する。
おお、また「たけじぃ」に出会えた! もう一踏ん張りで城跡に着く。と、10年近く愛用してきたトレッキングシューズの左が口を開けてしまった。このAsics製の優れものは生産中止でもう入手できない。しかたなく1年ばかり前に別のものを新調したのだが、その後も低山歩きに履き続けていたものだ。先端部分が裂けただけなので、常時携帯している応急補修用のテープは使わずに済んだ。眼前に歴史を刻んだ石垣が重く迫ってくる。
3.竹田城跡(虎臥山山頂)風景
【竹田城縄張り図】 (朝来市発行パンフレット『国史跡 竹田城跡・立雲峡』から)
到着したのは北千畳の曲輪である。焼け付くような陽差しを心配していたが、桜の木が巨大ガーデンパラソルになってくれた。全員その下に腰をおろして昼食をとる。城跡は桜の庭でもある。北側にも5本あり、花の雲に包まれた様子を想像してみる。昼食時には皆さんから次々に差し入れをいただき、遠慮なく「ご馳走になりま~す!」
北側の風景。アーチ橋のような播但連絡有料道路の向こうには兵庫県立農林水産技術総合センター。少し右に振ると円山(まるやま)川の流れに沿った和田山町一帯が広がる。
北千畳から見る南千畳と本丸の方向。南千畳には3本の桜の木があったが、落雷で今は1本だけになったという(ボランティアガイドらしき人の話)。
南東側には、左に金梨山(かなしやま:463m)と右に朝来山(756m)があり、両山に挟まれた和田山町の一帯を展望することができる。
昼食と休憩を終えて行動開始。桜の木のそばにある窪みは井戸の跡と聞いてシャッターを切る(前述のガイドの話)。三の丸から二の丸へと歩いて行く。
左の写真は、三の丸から見た「南二の丸~南千畳曲輪」方面で、山の傾斜を巧みに利用していることが分かる。
このあたりで別のボランティアガイド氏から説明を受ける。右の写真は本丸方面で、ガイド氏の話によると、高倉健さん主演の映画『あなたへ』の竹田城回想シーンで、妻役の田中裕子さんが「天空の音楽祭」で歌うシーンは、すぐ先に見える石垣の一角を利用したとのこと。また、雲海に浮かぶ竹田城を背景に健さんが佇むシーンでは、天空の城を撮影するのに霧が発生せず、数日待ったがダメなので健さんだけを撮影し、その後にスタッフが撮影したものを合成したという裏話も披露された。ちなみに天空の城を演出する霧は、下を流れる円山川から発生する川霧だそうである。
本丸から正門を通って南千畳曲輪に移動する。通路部分は黒いシートと白いロープで制限されている。「天空の城」ブームで来場者が急増し、石垣崩落の危険が生じたためである。
南千畳から、本丸を中心にした城跡の全体を眺める。これらの石垣は穴太積み(あのうづみ)または野面積み(のづらづみ)と呼ばれる方法で造られている。自然石をそのまま積み上げる方法であることから、隙間や出っ張りが多いが、今となっては独特の粗野な魅力があるように思われる。これらの石は下から運んだものではなく、山から掘り出したものを使っているそうだ(ボランティアガイド氏)。
最後に北千畳を撮影して下山にかかる。
4.往路を竹田駅へ下りる
南千畳から料金所へ回り込むように進むと、「竹田城址」の標柱が立っていた。料金所からは往路を帰る。その途中、「わ~」と女性がひと声、そして腕をひと振り。次の瞬間、女性の手には玉虫が捕獲されて死んだふり。素晴らしい運動神経に敬服するばかり。そして玉虫は、草の上に置いても死んだふり状態。リクエストに応じて写真を撮り、手を伸ばそうとすると急に目覚めて飛んでいった、目出度し!
街に下り立つと、こんな風情のある町屋カフェ「寺子屋」さん。立ち寄りたかったのだが、かき氷に飢えた自分は、聞きかじった情報をもとにお休み処「虎臥屋」さんに飛び込んで「白いかき氷をください!」。「ミル金?」、「いや、白いやつ」。「みぞれですか?」、「ハイ」となった次第。懐かしい味、からだ中に浸みる美味しさだった。
駅に戻りかけた時、周囲の景観とはミスマッチな移動体を発見。オオッ、天空バスが走っている。後部に石垣模様がプリントされたのが角を曲がって行くのを速写、この時ばかりはカメラの作動性能を褒めてやった。かくして、JR竹田駅に無事帰着する。