名 称

わかくさやま(かすがやまげんしりん)

所在地

奈良県奈良市

標 高

342m

山行日

2024年11月12日

天 候

晴れ一時曇り

同行者

相棒と

アクセス

JR奈良駅東口バス乗場2番から、市内循環外回り・春日大社方面で破石町(わりいしちょう)バス停下車

マップ

このマップは、国土地理院の電子国土Webシステムから提供されたものを使用しています。

コース概要

破石町(わりいしちょう)バス停スタート 10:24春日山遊歩道入口 10:45南部交番所 10:57
妙見宮 11:31~11:38三本杉休憩舎 11:45~11:56首切り地蔵(昼食) 12:21~13:01
春日山石窟仏 13:24~13:34芳山(ほやま)交番所 13:37大原橋休憩舎 14:00~14:05
鶯ノ滝付近 14:15大原橋休憩舎 14:28花山地蔵の背 14:52十八丁休憩舎 15:08
鎌研(かまとぎ)交番所 15:13若草山到着 15:24若草山三角点 15:30ゲート(料金所)15:48
若草山中央出口 16:43奈良行きバス停 17:05頃

1.春日山遊歩道入口へ向かう

 奈良駅から市内循環外回りバスに乗車。奈良公園と興福寺のあたりを通過すると、両側の窓に鹿があふれている。行き先確認を何度も言い間違えながら、やたら読みにくい破石町(わりいしちょう)バス停に無事到着した。少し戻って信号機のある十字路を右折する。

 高畑町の住宅街に延びる道を進むと、やがて左側の人家はなくなり春日大社境内の森に変わる。

 バス停から1kmほどで春日山遊歩道入口に着いた。途中で散歩中の女声と立ち話をしていたので、バス停からは20分が経過している。この手前を右下に下りると旧柳生街道の「滝坂の道」で、東海自然歩道を通って「首切り地蔵」まで行けるが、今回は春日山遊歩道を歩くのでこの標識からスタートだ。

2.妙見宮から首切り地蔵へ

 首切り地蔵へはよく整備された緩やかな道から始まる。左に「春日神社境内」と刻まれた岩がある。

 10分ばかり進むと南部交番所がある。春日山遊歩道にある3か所の交番所の一つだ。ここには警察官でなく、奈良公園の保安巡視員が駐在して区域の安全確保に努めている。男女兼用のきれいなトイレが設置されている。

 300mばかり先に「首切地蔵 3.0km」の道標が立つ。一見すると舗装道路のように見えるが路面は砂利。トレイルランの山越えコースになっているようで、走り下りてくる人に出会う。

 標識「五色の紅葉」とあるがあたりは一面の緑。色とりどりの紅葉が見られるのだろうが、今年は10月下旬まで夏日が続いていたので紅葉にはまだしばらくかかりそうだ。

 妙見宮の参道入口に着いた。右の石灯籠の脇に「日蓮宗蓮長寺修行所」の石柱が建つ。明治42年,龍光院日昭上人により創立された日蓮宗の修行所である。参道の階段を上がって行く。

 石橋を渡ると、その先に長い急勾配の石段があり立ち止まる。ここで本堂の方に向かって参拝する。

 参道入口に戻ると首切地蔵までは1.7km。山側に入れそうな場所には「山林内 立入禁止」の標柱が立っている。

 大きな木が林立している。多くはスギかヒノキのようだ。木洩れ日があたりを明るく照らし、先の方に東屋が見えてきた。

 これは三本杉休憩舎だ。相棒が早々と休憩中。

 トレイルランナーが何人か下って行く。若い外国人カップルが挨拶して追い越していった。(☉.̫☉)速い!

 1100年以上にわたって伐採されてない原始林。自然の様や神秘性を実感できる森なのだが、どことなく賑やかに、嬉しそうに躍っているような木々。

 右側に「地獄谷園地 首切地蔵・新池」の道標が立つ下り坂。首切り地蔵の東屋へ到着した。

 ここで東海自然歩道が合流していて、次から次へとリュック姿が現れる。ちょうど昼時なので先客と並んで昼食をとる。後ろに見えるのはトイレ。

 江戸時代の剣豪である荒木又右衛門が試し斬りしたとされる首切り地蔵だ。地蔵は鎌倉時代の作とされる。

3.春日山石窟仏から鶯ノ滝へ

 先に下りてきた場所には戻らず、北に延びる石畳の道を上がって行くとすぐに分岐がある。

 右の石畳に入るが、その先に今回いちばんキツい登りが待っていた。

 登り切ると新若草山ドライブウェイに合流する。

 道標の「若草山山頂 3.7km・鶯の滝 2.1km」の方へ進む。ここから奈良奥山ドライブウェイが始まる。

 少し進むと左側に春日山石窟仏の案内板が設置されている。

 その脇に「春日山石窟仏 0.1km」の道標があるが、案内板の距離と違っている。ともかく登ってみる。

 案内板によると、この石仏は、東大寺大仏殿を建てるために石材を掘り取った跡に彫られたもので、全部で18体、平安時代の作とみられるとのこと。それと思われる方へ登ったが、建っていたのは天然記念物指定地の境界碑だった。

 案内板まで引き返すと谷側に人影があり「石窟はこちらですよ!」の声。そこには別の案内板があり、年代は平安末期久寿2年(1155年)、作者は未詳とある。二つの石窟に菩薩形立像3体と地蔵菩薩立像4体が刻まれているとのこと。

 内部はこんな様子で、右は東窟の地蔵菩薩像(4体)。

 西窟は、左から多聞天と阿弥陀如来、不空成就如来、大日如来。

 もとに戻って再スタート。行く手に車両進入禁止の標識が設置されている。この先から車は一方通行になっているのだ。

 すぐに芳山(ほやま)交番所がある。鶯ノ滝まで1.8km、若草山山頂まで3.5kmの道標。奥山ドライブウェイに入ってからまだほとんど進んでいない。

 しばらくは原始林の雰囲気を味わいながら進む。とは言えここは奈良奥山ドライブウェイなので車には注意が必要(今回はほとんど出合うことはなかったが)。首切り地蔵から約1時間、大原橋休憩舎が見えてきた。

 大原橋休憩舎で小休止する。隣接して「世界遺産 春日山原始林」の記念碑がある。

 鶯の滝までは700m。橋銘板に「花山川」と刻まれた赤い橋を渡り、下り坂をどんどん下りて行く。途中で車が追い越して行った。

 下り着いた所の道標、滝まではさらに100mの坂道が続く。先の車に乗っていた人たちが急坂を歩きにくそうに下りているのを見て、「このあたりで、もういいか(戻っても)!?」と、顔を見合わせる。

 反対側には長い上りの急階段。「興福寺別院鶯滝歓喜天」の石柱が見える。「ここはパスかな!?」、この二人、安易な妥協はお手のものだ。で、息を切らせながら赤い橋まで引き返す。

4.春日奥山道路を若草山へ

 橋のそばに「春日奥山案合図」と「若草山 2.1km」の道標がある。先ほどから何人もの独り歩きの外国人女性と出会う。

 道は部分的に舗装されているが通行車両はほとんどなかった。途中、切断された大木が横たわっている。写真では分かりにくいが、根こそぎ倒れた状態であり、道路にはみ出した部分を切断したものと思われる。

 その先に、かなりショッキングなシーンが! 「春日奥山 最大の山桜」が伐採されている。後で調べて分かったのだが、昨年(2023年)8月に倒壊して道路をふさいだために切断したらしい。オブジェのようだが痛々しい姿であり、逞しい樹根に期待を込めて自力再生を念じるばかりだ。

 左手に奥山人工林が広がっている。100年前に植林したスギとヒノキが育っている。あわせて、歴史的建造物の檜の屋根の補修や葺き替えに必要な檜皮(ひわだ)の試験採取を試行している。歴史的な建造物を維持するためには、一方で気長な、歴史的な取り組みが必要なことを再認識させられる。

 地図には春日山原始林の南北に「ルーミスシジミ生息地」と記載されているが、これは国指定天然記念物の蝶の名前だ。かつて春日山にたくさん生息していたが、伊勢湾台風によって食草のイチイガシがたくさん倒れ、その後に農薬散布があって絶滅したらしい。しかし確実な証拠はなく原因は不明としている。若草山山頂まで1.2kmにまで迫った。

 「花山地蔵の背」は春日山最高峰の花山(標高498m)の真北に祀られているお地蔵さん。「背」が何を意味するのかはわからない。祠の地蔵さんが後ろ向きになっているからなのかな?

 道中で3人の若い外国人男性が追い越していった。愛想よく軽い足取りですぐに遠くなる、「羨ましい!」。そして十八丁休憩舎を通過する。真っ直ぐ進めば0.5kmで若草山山頂だ。

 3つ目の交番所、鎌研(かまとぎ)交番所がある。奈良奥山ドライブウェイはここで終わりだ。

 若草山の駐車場に到着すると鹿のカップルがやって来る。山頂へは直進して坂道を登る。

5.若草山山頂風景

 こんなに緩やかな坂を登ればもう山頂広場。あたりを見回すと山歩きスタイルの二人はちょっと浮いているようで、相棒だけをフォーカスしてシャッターを切る。

 鹿は思ったほど多くないので、群れているのと立派な角の牡鹿を選んで1枚ずつカシャッ。

 「最後の目的地の若草山は、青空が広がって最高の眺望が・・・」と思っていたのだが残念! 風景はモヤで霞んでいる。眼下には奈良盆地が広がり、遠くに見えるのは生駒山だ。

 「史蹟 鶯塚古墳」の石柱がある方へ登るとさらに東側に小さな山がある。鶯塚古墳は前方後円墳で、山頂は後円部にあるので移動する。

 山頂には「鶯陵」の石碑があり、その裏に設置された三角点にタッチ!

 若草山は3つの笠を重ねたように見えることから「三笠山」とも呼ばれている。広場に「若草山三重目」の標識が立つ。三重目の鹿たちは満腹状態のものが多いのか、のどかに休憩しているばかり。ところが、相棒が「さっきリュックを角でつつかれた」とやって来た。「よかったね、気に入られたんだよ」

 三重目の広場には眺望を楽しむ大勢の人。ここも外国の人たちが多い。

 下山道を行く人たちが見える。時刻は午後3時40分で、ゆっくりと下山を開始する。

6.北登山道を下山する

 下りかけるとこんな紅葉風景が広がる。もうすっかり秋だ。

 すぐにゲート(料金所)があり、一人150円を支払って通過する。斜交いにはこんな秋景色。

 前回のススキ山行に続いて、ここでもススキが輝き秋を謳歌している。

 二重目の広場は大勢の作業員が草刈り作業中で、あたりは草刈り機の音が騒々しく立ち止まる人はいない。

 右下には東大寺大仏殿が霞んでいる。一重目の広場はまだ遠い。

 ここまで元気に歩いて来た相棒とそちらを見ている鹿を記念写真に収める。

 一重目の広場では下山道が南北に分岐している。広場に着いて北ゲート出口のほうへと進む。

 北口ゲートへはここから下山する。山麓までは560mだ。

 このコースは階段が多い。下りの階段が苦手な相棒は極端にペースダウンする。美しい風景も目に入らないようだ。

 手摺をにぎって下りていた相棒だがそれも限界。なだらかな芝生の傾斜へ着くとしばらく腰を落として足をマッサージ。それからゆっくりと芝生の斜面を下り進む。

 16時35分、沈んでいく夕日に見とれてしまう。間もなく北口ゲートに到着するが、ゲートはすでに閉まっていて中央出口へ回るようにとの掲示版が掛かっている。

 すぐ下の商店街は大勢の修学旅行生で溢れかえっている。左に芝生の丘を見ながら中央出口へ到着した。

 そこから奈良駅方面へのバス停を探しながら歩き、17時過ぎに満員バスに乗車する。

 こうして長い道のりを楽しく歩いたが、帰宅して春日山原始林の情報をレビューすると、森林維持の厳しい状況が明らかになった。いくつもの課題を抱えていて、それを放置したままだと「200年後には照葉樹林の春日山原始林は消滅する危険がある」ということだ。その課題は以下のとおりである。(「春日山原始林保全プロジェクト」より)
 ・動物によるシイ・カシ等の採食・樹皮剥ぎ被害
 ・外来種(ナンキンハゼ・ナギ)の増加
 ・ナラ枯れの発生
 ・下層植生(シダ・コケ植物)の衰退
 これらに有効な対策をどう講じるか。いずれも難しい要素を含んでいて、最近注目されているAIをもってしても最適解を得ることは簡単ではないだろう。それこそ、人の叡智こそが試される課題ではなかろうか。

 それはともかく、新大阪駅に帰着してからの数年ぶりの反省会は実に楽しく有意義であった。相棒とはあと何回同行できるかわからないが、できれば安全で楽な山歩きに限定してでも、共に楽しみたいものだ。