1.津山口駅から登り口へ
今や珍しいと言われる一両編成のワンマン気動車で到着。津山口駅手前から見る神南備山は「かんざし」を挿している。
駅舎はシンプルなボックスタイプで、こんなのは初めて見る。無人駅で自動券売機はない。乗車時に車内で発券された整理券で車内精算して下車した。これからの無人駅はこのスタイルに統一されるのだろうか。神南備山へは駅の南側からアプローチしようと考えていたが、出口は北側だけなので正面を右折して東へ向かい、姫新線の踏切を越えて進む。
国道429号に出て津山方面へ進み、最初の信号機がある交差点を右折する。再び踏切を渡り返して、変電所がある方へ右折すると左に井口公園が広がる。
井口公園の西詰めの駐車場を斜めに横切って進むと、山へ向かう道路が見えてくる。
この道が登り口になり、ガードレールに沿って「神南備公園」の道標が立っている。
2.長法寺多宝塔から電波塔へ
山の入口部分で道は右へとカーブする。ここから標高差で約220m上にある電波塔までは舗装道路を登る。
まず長法寺に参拝してと思っていたが、井口公園からスタートしたので長法寺は下の方に。右の道路を下りると行けるのだが、下山時に訪問することにした。
コンクリートブロックの祠に地蔵様が安置されている。並んで「多宝塔」の案内標識がある。間もなく「長法寺 多宝塔」の石柱が建っていて、長い階段が延びている。
階段は折れ曲がって続く。長いが歩きやすい。柔らかい色合い、均整のとれた姿、そして荘厳な多宝塔が現れた。
「多宝塔建立之碑」が建つ。この多宝塔は金光山長法寺の創建1150年を記念した事業として、平成5年10月に着工し、平成8年3月に完成したと刻まれている。長い階段で舗装道をバイパスしていて、境内からの短い階段を上がると再び舗装道に出る。
舗装道路から観る多宝塔と津山市の街並は見とれるほど美しい。
その先から曲がりくねった道が続く。車ならわけなく上れる道を、エンヤコラッと登る。道のここかしこに朱い木製の鳥居があり「佐良神社御玉串」の札が付されている。
多宝塔から20分ばかり登ると神南備公園と電波塔への分岐に着く。「神南備山展望台 0.4km」の道標があり、それに従ってVターンすると「神南備公園」への標識。
すぐに次の分岐があり、ここは右側から上に向かっている「林道 神奈備線」へ入る。
まだ八重桜の花が残っている。大半は散って路面にピンクの層ができている。
萌黄色の木々を越えて電波塔が見える。道を急ぐと電波塔の建つ広場に出た。
大きな電波塔は中国セルラー津山基地局、今はKDDIの局である。反対側にもう一つあるが、階段を登ると行き止まりでどこのものか分からない。
3.山頂三角点へ
その分からない電波塔の階段右に道があり、神南備山山頂に行けると判断して踏み込む。ヤブが繁っている場所を越えて行く。
これは面白くなってきた。ガードレールが無くなったが道筋は明瞭だ。
まだ大丈夫だと前進していたらしだいに怪しくなる。が、枝に巻かれた赤いテープが道しるべ。
何か判らないが表示が定かでない標識があり、その向こうに倒木が道をふさいでいる。
それを踏み越えると三角点があった。神南備山山頂に到着だ。まだ新しい山名標が吊されている。
その向こうにも古びた山名標。何度か深呼吸をした後、展望がないので下山を始める。
先ほど来た道を忠実にたどって元の位置へ戻る。
電波塔の広場から下山する。
4.神南備公園(展望台)へ
神南備公園への分岐まで戻り、今度は緩く下っている左の道へ入る。
途中の民家を見ながらしばらく進むと公園に到着する。公園の手前左手には駐車場広場がある。
六角形の立派な展望台があり階段を上る。
展望台には2台の双眼鏡が設置されている。北東には那岐山系(広戸仙・滝山・那岐山)が聳える。
写真左は手前に神楽尾山、奥には黒沢山・桝形山。写真右は北西方向で鏡野町の泉山など。
展望台下のベンチに腰掛けて大パノラマを眺めながら昼食をとる。右には那岐山系、中央から左寄りには泉山か?
西の方向に視線を移す。真ん中で尖っているのは星山だろうか?東西にゆったりと流れる吉井川。
写真左は今井橋、後方にアルネ津山のビル、その向こうには津山城跡(鶴山公園)。アルネ津山には音楽ホールのベルフォーレ津山があり、2020年2月始めに開催された岡山フィル特別公演を思い出す。新型コロナウィルスの感染が判明したダイヤモンド・プリンセスが横浜港に入港する前日に行われた公演を聴きに出かけた。岡山フィル主席指揮者シェレンベルガーさんが振ったドヴォルザークの『交響曲第9番「新世界」より』と、ヴァイオリニスト岸本萌乃加さんのメンデルスゾーン『ヴァイオリン協奏曲ホ短調』、演奏も会場の雰囲気も最高だった。月例のコンサートがすべて中止されている今の状況は、いつ解消されるのだろうか。写真右は、たくさんの寺院がある西寺町方面にかかる境橋。
公園の片隅にある石の祠には二体のお地蔵さん。会釈して下山にとりかかる。
5.長法寺に参拝して津山駅へ
分岐へ戻り往路を下山する。多宝塔では登りでバイパスした舗装道路を下りる。
登りで通り越した分岐に帰着した。左を下りて長法寺の裏門から境内へ入る。
長法寺は天台宗の寺で山号は金光山。観音堂(本堂)、続いて阿弥陀堂に参拝する。
境内には供養観音と水子子育地蔵尊。
鐘楼を見て石段を下りると両側にアジサイが植栽されている。境内には三千株のアジサイあり、別名紫陽花寺と呼ばれていることを後で知った。
薄田泣菫詩碑があり、傍らに銘木百選のイチョウが立つ。詩碑には詩集『二十五弦』の「公孫樹下にたちて」の一部が刻まれている。津山に心ひかれ訪れた泣菫が長法寺の大イチョウを見て作ったものである。
公孫樹下にたちて(一部)
泣菫
銀杏よ、汝常磐樹(ときはぎ)の
神のめぐみの緑葉(みどりは)を、
霜に誇るにくらべては、
いかに自然の健兒ぞや。
われら願はく狗兒(いぬころ)の
乳(ち)のしたたりに媚ぶる如、
心よわくも平和(やはらぎ)の
小さき名をば呼ばざらむ。
絶ゆる隙(ひま)なきたたかひに、
馴れし心の驕りこそ、
ながき吾世のながらへの
榮(はえ)ぞ、價値(あたひ)ぞ、幸福(さいはひ)ぞ。
下りで立ち寄るといつも裏門から入って表へ出ることに・・・。一礼して山門を後にする。
ここからの道程がキツイ。時間にすれば30分ほどだが、また車両が行き交う国道429号に出て津山駅へ向かう。
途中で国道を外して裏道を行くが津山駅が近づくとまた合流する。
排気ガスと喧噪の道もここで終わり。再開発によって広々とした駅前に到着する。
神南備山を楽しく歩いて、次は同じ神がつく神楽尾山(かぐらおさん:308m)を歩きたいと考えているのだが、いったいいつになることやら。と言うのも、公共交通機関での移動に不安を感じているからだ。
混雑する場所や時間帯は極力避けて、コロナ感染対策にも注意しているつもりだが限界がある。往路で乗り合わせた4人連れの娘さん、内2人がマスクを着用せずおしゃべりが止まらない。帰路ではお婆さまがマスクをあごまでずらして大声で話している。もし彼女たちがCOVID-19の感染者だったら、と思ってしまう。今や常識になっている最低限のマナーを守り、三密を抑えれば安全な移動は可能なはずだ。
美しい自然に触れる、計画したルートを踏破する、高みからの眺望を満喫する、そして閑かな時間を愉しむ。こんな山歩きをもうしばらく続けたいのだが・・・・。