名 称

おおやま・しおたれやま、しおだれやま

所在地

岡山県美作市巨勢(こせ)

標 高

大山 342m、塩垂山 221m

山行日

2021年3月17日

天 候

晴れ

同行者

なし

アクセス

赤磐市広域路線バス・鷺湯橋(さぎゆばし)下車

マップ

    

このマップは、国土地理院の電子国土Webシステムから提供されたものを使用しています。

コース概要

鷺湯橋バス停スタート 9:12(タクシー)大山展望台駐車場 9:18大山展望台 9:25~9:54
電波塔群の高台 10:05~10:23大山山頂三角点 10:33大山展望台(再訪)10:50下山開始 11:00
ゆ~らぎ橋(昼食)11:43~12:10
塩垂山長興寺 12:21~12:24塩垂山公園 12:28東屋 12:42塩垂山山頂 12:53~13:03
湯郷温泉街に帰着 13:30

1.大山展望台とその眺望

 山頂へタクシーで向かうのは初めてだ。しかし、これは大正解だった。さして展望の効かないジグザグ車道を一気に上って、鷺湯橋バス停から6分ばかりで展望台駐車場に到着した。ここから山頂までの標高差はわずか25m、距離にして1km程度だろうか。広い駐車場があり、ここは車で訪ねるところと断定する。

 駐車場そばに「美作国際交流を進める会」の碑と並んで「市道大山線完成記念碑」が建っている。記念碑には、昭和61年工事着工、平成8年に完成とあり、地域観光化を目指し「大山アジサイロード事業」として約2,700株のアジサイの植生を完了したと刻まれている。ちなみに、美作市は国際交流・多文化共生としてベトナムとの交流を深めている。

 大山展望台に向かって小高い丘へと歩く。緩やかな舗装道路の脇に白木蓮の花が咲き始めている。途中から右の上り道へ入って行く。

 アセビがびっしりと房のように花をつけている。大きな岩があり、まだ蕾の堅い桜が林立する。

 左回りに下っていくと展望台がある。一階がトイレになっていて、清潔な手洗いからは十分に水が出る。このトイレ、なんとウォシュレットなのにびっくり!

 変わった形の展望台からご夫婦が下りてこられて挨拶を交わす。螺旋階段を上ったら踏み台が設置された空間に出た。

 秋から冬にかけては雲海、元旦には初日の出のスポットとして知られた場所だが、眼下の吉野川や湯郷温泉街、遠くに並ぶ後山や那岐山などの山々の眺望も良いとされている。北方向の眺望は確かに素晴らしいが、黄砂のせいで遠くの山は霞んで定かでない。北東の後山と日名倉山はまったく見えず、北に広がる那岐山~滝山~山形仙はわずかにそれらしい稜線が判るばかりだ。

 少し離れたところに立つ眺望の解説板で風景を確認する。正面に見えるのが午後から登る予定の塩垂山。

 祠を拝して移動を開始。タクシーで渡ってきた吉野川をまたぐ鷺湯橋が見えている。

2.電波塔がある高台から山頂へ

 駐車場から南に見える電波塔。そちらへ向かう道路を進んで行く。

 300mほど進むと右側に階段があったので上がってみる。回り込んでいる舗装道路をショートカットできるようなので、そのまま前進する。

 電波塔の方へ延びる舗装道路を目指すと、周辺に薄いピンクの花をつけた木が立ち並ぶ。スモモの花かと思ったが、遅咲きの梅のようでもある。

 舗装道に出て登り返すとクリスマスローズのコーナーがある。近隣の方が育てているのだろうか。敷き藁に心地よさそうだ。

 電波塔の高台に向かうと苔むした岩が露出している。

 少し下に小屋があるので近づくと、この辺りもアセビがたくさんある。

 小屋には「好雲亭」の木製銘板が掛かり、小休止できそうである。電波塔の方へ進むと石を椅子やテーブルのように配した場所に出た。周囲が桜に囲まれていて、花見には絶好の場所になりそうだ。

 このノッポなのはNTTドコモの美作巨瀬基地局アンテナ。

 隣の傘がいっぱい付いたのは、美作市消防本部大山中継所のアンテナ。その他にも大小2基の電波塔が建つ。

 電波塔周辺の丁寧に手入れされた茶畑を眺めて、山頂を目指すために舗装道路へ引き返す。

 大山集落の民家沿いの道を南へ進むと途中に分岐があり、右上の道へ入る。

 そのまま道なりに進むと右にカーブした辺りに見事な茶畑が現れるので、その脇の道を登って行く。

 茶畑を横から眺めると、絶妙な間隔をとってかまぼこ型の畝が連なっている。その高い場所へ進むと、茶畑の中に三角点が設置されていた。

 注意深く近づいて三角点にタッチ。そこから見下ろす茶畑の風景は素晴らしい。

3.下山して昼食休憩

 茶畑から出て電波塔の方へ引き返し舗装道路へと戻る。

 斜面の上で黄色いのはレンギョウとトサミズキかな。

 道が右にカーブする手前を山側に登って、来た時と同様に舗装道路をショートカットする。道路に下りると両側にはアジサイがいっぱい。まだ半枯れ状態だが緑の芽を吹いているのもある。

 駐車場近くまで戻り、もしや黄砂が減ってはいないかと再び展望台へ上がってみる。青空が広がっているのに遠い山はやはり霞の中。那岐山にズームで迫ってシャッターを切ってみる。

 下りは歩く。取り立てて眺望もないので、大小のカーブをひたすら歩くだけ。しかし、どこまでも続くアジサイを見ると、梅雨時期には素晴らしいアジサイロードになることだろう。

 長い直線道を歩いて最後のカーブに差しかかると、下から登ってきた女性が石の上に座り込む。どうかしましたかと尋ねると、今日は3人で登ることにしたが、足が遅い自分は先に出発するようにと言われてやって来た。ここで一休みしながら二人の到着を待つという。しばらく話し込んでいると二人が来たのでお別れする。それにしても、今日が3度目とのことで、こんな車道をよく頑張るなと感心することしきり。

 吉野川に出合って左折する。車では気がつかなかったが、大山展望台への大きな案内板が設置されている。

 対岸の塩垂山を見ながら吉野川に沿って歩く。

 美作町営バス温泉前停留所のそばに東屋がある。隣りに立派な石像があるのだが、これがどなたかは分からない。

 吉野川をまたぐ「ゆ~らぎ橋」は湯郷温泉のランドマークとか。夜間はライトアップされて、大噴水と共に幻想的な風景を演出するという。

 橋の温泉街寄りにベンチが設置されていて、ここで海苔巻きの昼食をとる。

 ゆ~らぎ橋の北詰には、こんなに元気な少女と男の子のブロンズ像が立っている。

4.ラガーコースから塩垂山へ

 時刻は12時を少し過ぎたところ。再度マスクをつけて、これから塩垂山に登る。ゆ~らぎ橋から通りを北に進むと、ポピースプリングス・リゾート&スパに面して円仁法師と鷺の像があり、新型コロナ禍の時節柄かアマビエの焼き物が水浴びしている。その昔、比叡山延暦寺の高僧円仁法師がこの地を訪れ、鷺が足の傷を癒すのを見て発見したのが薬湯であり、これにちなんで「鷺の湯」と名付けたのが湯郷温泉の由来だそうである。その先の路地を直進する。

 塩垂山長興寺に着いて参拝する。

 境内の西川に「塩垂山公園」への道標が立ち、「湯遊ウォーク(ラガーコース)」の案内板がある。ラガーコースは、ここから美作サッカー・ラグビー場までの全長1,600mのコースで、コース道標には競技場が一望できる水道公園までの距離1,000mが記されている。起点のここは「湯神社」となっている。

 12時27分にスタートする。道の脇には和歌が刻まれた小さな歌碑が設置されている。ここの歌碑には次のようにある。
        あかめがしわ
    こぞ咲きし ひさぎ今咲く いたづらに つちにや落ちむ 見る人なしに (作者不詳)

 これは万葉集の歌で、「ひさぎ」は久木でアカメガシワのこと。去年咲いた久木がまた今咲いた。むなしく、人に見られることもなく土に落ちてしまうのではないか、という切ない歌だねえ。

 右に不動院を見て舗装道を登る。

 すぐに塩垂山公園があり、その先に「水道公園まで800m」の道標がある。

 急な階段が続き、右側に「愛宕大神」の鳥居が現れる。

 少し登ると平地になり日時計がある。隣り合って木の切り株を利用した「スマホ撮影台」があり、説明書のQRコードをスキャンしてLINEで写真を送ると、登頂ポストカードをLINEでもらえるとのこと。

 間もなく東屋に到着する。ラガーコースのスタートから18分が経過している。コースの案内図があり、山頂は近いようだ。しかし、その手前に長い坂道が続いている。

 少しだけ下って行くとそこから急な階段が始まる。

 水道公園まで400m、湯神社から600mのコース道標。ということは、あと200mで山頂に到着だ。しかしここからがキツイ。息を切らしながら登って行くと、坂の途中に年輩の男性が立っている。挨拶すると、「もう少しですから頑張ってください。札の数字が32になったら頂上ですから」と仰る。お礼を言ってお別れする。

 前ばかり見て登っていたが、足元に注意すると、数字を書いた小さな木札やプラスチック・ブロックが設置されている。登るに連れて数字が1ずつカウントアップしているようだ。急な階段を登り切ると柔らかな山道に変わり、木立の間から吉野川と湯郷の街並みが見えた。

 プラスチック・ブロックにNo.31の文字、やがて山頂の小屋のようなものが見えてきた。

 山頂に到着した。なだらかな広場で、眺望は得られないが爽やかな山頂だ。ザックを下ろし、チョコレートを頬ばって深呼吸をする。

 ラガーコースはこの先にも延びる。水道公園までは200mだが、今回はここで引き返すことにする。

 山頂広場には大きな樫の木がそびえている。ここにも歌碑がある。
        か し
    静まりし 浦浪さわく 吾が背子が い立たせりけむ いつかしがもと (額田王)

 意味を調べると、この額田王の歌は万葉集の中でももっとも難解とされ、未だに解釈が定まらないそうである。「いつかしがもと」を「厳(いつ)橿が本(もと)」と読めば、静まっていた浦の波が今騒いでいる、我が愛しい人のお立ちになっていた神聖なカシの木の下で、となるようだ。

 下山は早い。7分で東屋を通過する。

 楽な下りでは余裕があり、数々の歌碑を眺めながら下りる。気に留まったのは次の松と笹。
        ま つ
    松の葉に 月はゆつりぬ もみちばの 過ぐれや君が 逢はぬ夜の多き (池辺王)
という悲しくも色っぽいのや、
        さ さ
    ささの葉に はだれ降りおほい 消なばかも 忘れむといへば、まして思ほゆ (作者不詳)
という、愛しくもかわいらしいのがあった。
 楽しげな会話が聞こえる二人は母娘だろうか。会釈をすると丁寧な挨拶が帰ってきた。

 町に戻ってきた。コロナ禍のせいか、通りは静かすぎる。

 素敵な外観は「35R/ココチ」。外壁のようなショーウィンドウには数々の器や置物が並んでいる。狩猟で得た野生の鳥獣の肉はジビエ料理に供されるが、そのような命から得たものを最後まで活かそうと、ディアスキン、つまり鹿革を使ったクラフトアートを行っているショップである。予約すれば、小銭入れやストラップなどを鹿革クラフト体験で製作することもできる。
 今回も多くのものを見、多くのものに触れて豊かな時間をもつことができた。湯郷温泉下バス停に早めに着いて、赤磐市広域路線バスの到着を待つ。