1.奥の湯温泉バス停~車道出合
曇天だが雨は降らないとの判断で岡山を発つ。高松駅バスターミナルから約1時間で塩江(しおのえ)バス停に到着した。降車客は途中から乗ってきた高松高校の生徒10人と自分だけ。とはいえ、乗り換えの塩江町コミュニティバスはマイクロバスなので、ほとんど満員に近い状態で出発する。
20分足らずで奥の湯温泉バス停に到着した。ところが、奥の湯温泉が開いていない。「閉館」の貼り紙があり、これでは下山後の温泉はむろんのことビール・軽食にもありつけそうにない、と考えながら出発する。
くだんの生徒たちはすでに歩き始めている。ザックのサイズからみてキャンプするつもりかなと思う。三差路の中央に「奥の湯ふれあいの里」の案内板があり、右にとって進むのだが、彼らは左の下り坂へと消えていった。
他には行く人もなく、結局独り歩きなってしまったなどと得心していると、目印の「大手前高校・塩江向学寮」の標識が見えてきた。右折すると正面に寮、その左手の坂を登って行く。
淡いピンクの花がこぼれそうなのはシャクナゲ。道が細くなってきた。
あちこちに群生しているシャガはアヤメ科の花で、胡蝶花とも言うらしい。紫の花をつけたキランソウが地面に貼り付くように生えている。
こんな場所に一軒家がある。地図を見ると道路が複雑に延びているようだが、周囲を一瞥しただけではそれはわからない。かなり大きな農家のようだが、買い物などはどうしているんだろう。両側が竹林の道を進む。
マムシグサに似ているなと思っていたら、これはユキモチソウだった。マムシグサと同じテンナンショウの仲間だが、中央の肉穂花序(にくすいかじょ)という部分が白い餅のようだ。黄色いのはタンポポのようなのだが、花弁の形と付き方が違うようでもあり判然としない。
コウゾリナの黄色い花。白い縮れ気味の5枚花弁、これは野いちごの花。もう少しすると真っ赤な甘い実が成るぞ!
廃屋かもしれない大きな家屋の脇を進む。その先には黄金色のヤマブキが咲き乱れる。凄いコントラストだねぇ。
人の気配が感じられない家屋の間を通り抜けて車道に出合う。ザックを下ろして水分補給をしていたら、軽四トラックがやって来て停まった。同年代とおぼしき男性と挨拶を交わすと、「ここから先は何もねぇ、竜王山も何もねぇで!」。いやはや、「ここまでの道のりでもう十分なほどの風景と花を見ましたゾ」と言いたかったのだが、「あっ、そうですか!」と会釈を返す。
2.竜王山登山口へ
再び山道へ踏み込む。この花はエンゴサクだかムラサキケマンだか、いつもわからない。
田園風景が現れて民家の庭のような場所に出た。道標に従って前進する。
整然と、まるでカラー粘土の造形のような茶畑が現れる。それを上がって行くとまた車道に出た。
車道沿いに並ぶのは一般の民家なのか、それともコテッジ? 素敵な外観の建物が軒を連ねる。
「竜王山キャンプ場 あと1000M」の道標だ。その先に左を指す「キャンプ場」の標識もある。ただ、この勘違いしそうな標識はいかがなものか? ここを左へ下りるとどこへ行きつくのかな?
崖の一部が崩落している。よく見ると縦方向に凄まじい亀裂が生じている。微動すらしそうにない山に、経年疲労の傷を見る思いだ。
その先に道標がある。地図上の〔道標A〕の位置に来た。竜王山への道標と共に「登山道は右側の道です」の古びた説明表示。地図では確かにここからも登れそうなのだが、これはまっすぐに車道を歩くことにする。そして、それで良かったと思っている。
ところが次の道標、地図上の〔道標B〕のところで大失敗をしてしまった。道標が示す左方向が事前に把握していたキャンプ場の位置だったことから、坂道を下ってキャンプ場へと進んだ。ところだ、着いた広場は雑草が茂り管理棟はその向こう。マムシが怖いのでストックを取り出して、地面をたたきながら慎重に前進する。
着いた管理棟のドアは開いていて、中には草刈り機のようなものが雑然と置かれている。トイレも半壊状態で、その付近からあるはずの登山道にはとても近寄れない。仕方なくもとの位置に戻るが、この間に20分も時間を浪費してしまった。ところが、そこに二人の若者がいて方向を思案している。道が分からなくなったということで、先の〔道標A〕から右側の道を登ってみたが、途中から引き返してきたという。二人に自分がたどってきたキャンプ場の状況を説明するが、自分たちも確かめてみたいと下っていった。
元に戻って歩き始めると、すぐにキャンプ場管理棟が見えてきた。先の二人に向かって「道がわかったよ~」と叫ぶが応答無し。そのうち、大勢の人の気配で叫ぶのをやめる。〔道標B〕は判りやすい道標に取り替えるべきだと思う。
大勢の人の気配は、あの高校生たちのグループだった。キャンプ場管理棟の前で休憩する生徒たちのザックがずいぶん小さくなっている。どこかにデポしてサブザックでやって来たようだ。ログハウス風のトイレと管理棟の間の道が登山口に通じている。これからが山登りのスタートだ。
3.阿波竜王山頂へ
給水施設の手前左を登って行くと間もなく一合目の標識がある。
気分のいい道を進むと三合目。
すぐに五合目になって、整然と間伐された杉林を行く。
その先から急傾斜の坂が長々と続いており、ショートカットすべく梯子を登って進む。
七合目を越えると急坂の連続に息が上がる。八合目に差しかかるころに高校生グループがやって来て道を譲る。傾斜が緩くなると「鷹山(たかやま)遺伝子保存林へ」の道標。鷹山方面では、林木の優良遺伝子群を確保・保存する事業が進んでいるらしい。
ミヤマシキミの花を見ながら進むと九合目の標識が見えてきた。
やがて阿波竜王と讃岐竜王の分岐に着いた。まず600m先の阿波竜王へ向かうことにする。しばらくは急な木段を下りて行く。
下りた後は急な上りが待っている。木段を登り、坂道を登って行く。
先の分岐から阿波竜王までの中間点、浅木原分岐だ。「笠形山」への手書き道標が立っている。穏やかな顔のお地蔵さんが見守る道を、あと山頂まで300mだ。
山頂への最後の木段に差しかかったら、先行していた高校生グループが下り始めた。やり過ごすために左手の空き地に待避したときの風景が、阿波竜王ではいちばん印象に残った。見えている方向も山名も不明だったのだが、後で大滝山(おおたきさん:標高946m)だと分かった。
阿波竜王山頂に到着した。展望台とベンチがあり四等三角点が設置されている。
展望台には山座同定盤がある。剣山の方向を眺めるが見えるのは雲ばかり。ガスで近くの山も判然としない。
明瞭に見えるのは並び立つ電波塔ばかり。近くに車道があるはずだが静寂に包まれている。ベンチを占領して弁当を開く。
4.讃岐竜王山頂~鷹山公園
下りかけると右手に白いものが見える。確かめるとガードレールだった。山頂すぐ下から車道に出られるようだ。そしてまた下り、登り返して両竜王の分岐まで戻ってきた。
この階段、下っているように見えるが実は長くて急な上りの木段である。すぐには登り始める気になれず、小休止後に気合いを入れてスタートする。途中で立ち止まっては深呼吸しながら讃岐竜王山頂にたどり着く。
木々の中の山頂は展望がきかない。山頂標識脇のベンチに腰を下ろして小休止をとり下山に取りかかる。これからしばらくは、県境に沿って延びる阿讃縦走路を歩くことになる。
歩き始めると間もなく、砂礫の多い下りの急坂が続く。木々や草をつかんでバランスをとりながらゆっくり下りる。傾斜が緩くなったあたりではスミレが群生し、モミジイチゴが下向きに白い花をつけている。
1,005mピークにはベンチが設置されている。鷹山公園までは500mだ
まだ花が残っているコバノミツバツツジが数本。若葉の緑が柔らかなベールのようだ。やがて正面に車道が見えてきた。
鷹山公園に到着して東屋で小休止をとる。どうやら、キャンプ管理棟探しでタイムロスが発生した分だけコースタイムが遅れていて、奥の湯温泉16時6分発のバスには間に合わないことがわかる。腰を上げ、車道を渡って山道に入る。
5.相栗峠~奥の湯温泉
889mのピークを越えて776mピークを目指す。
889mピークからは長い木の階段が続く。鷹山公園から25分足らずでベンチのある休憩所に着いた。776mピークへの道と迂回路の分岐点である。
776mへの急坂を登って行く。下りの連続で疲労した足には厳しい階段だ。ピークには四等三角点がある。
ピークを越えて下りの急坂を直進することもできるが、ここはいったんベンチまで引き返して迂回路を進む。階段の踏まれそうな場所にギンリョウソウが生えていた。
やがて急なジグザグの下り道で高度を下げ車道に出る。再び山道に入ると相栗峠まで600mに迫った。
その先しばらくは爽やかな雑木の林を行く。ようやく晴れてきて木漏れ日が差し、若葉が明るく輝いている。
相栗峠が近づくと「相栗峠・便所 200m」の道標が立ち、そちらへ向かう。ここで阿讃縦走路とはお別れだ。
駐車場があり車がチラホラ。「大滝大川(おおたきだいせん)県立自然公園」の案内板を見て、車道を南へ少し進むと県境を示す「相栗峠」の標柱が立っていた。
立派なトイレの近くにはシャクナゲが花をつけている。
しばらくは車道を歩く。山道への進入口がないかを確かめながら進んで、ガードレール手前で発見。入り込んで長い車道をショートカットする。
再び車道に出ると「旧相栗峠登り口」の道標が立っている。車道をひたすら歩くと民家が見えてきた。
傾斜が30度を超えるような坂道があり「竜王山登山道」のプレートが付いている。ここからも登れるらしい。少し歩くと「大手前高校塩江向学寮」の標識に帰り着いた。
この時はじめて、奥の湯ふれあいの里がキャンプ場であることに気づいた。内場川の向こうにいくつもテントが張られている。高松高校の生徒たちはここにザックをデポして来たに違いない。今頃は夕食の準備に取りかかっているのだろうか。
奥の湯温泉バス停には16時20分に帰着した。前のバスが出発して14分が経過、次の最終バスまでの待ち時間は1時間13分もある。周囲には何軒かの民宿があるばかりで立ち寄れるところもない。日本酒の看板を見つけて出向いたら、そこも民宿で、しかも開いていない。これでは缶ビールを入手するすべもないわけで、時折り車が通る車道を行きつ戻りつしながら時を過ごす。閉鎖された奥の湯温泉はやけに寂しかった。