1.JR観音寺駅から雲辺寺登山口へ
特急に乗り岡山駅から1時間ばかりで観音寺駅に着いた。駅の西側広場にコミュニティバスの発着場があり、待っていると黄緑色のマイクロバスがやって来た。五郷高室線であることを確認して乗車する。


観音寺市の乗り合いバスなので、公共施設や生活圏域の要所をたどりながら走行する。目的地は終点の谷上(教育センター)で所要時間は約45分、一律100円の料金に感謝して利用させていただく。降車後はバスの進行方向と同じ南へ向かって歩き始める。


教育センターは香川県観音寺市だが、この県道8号線を直進すると徳島県三好市へ、その先を右に取ると県道9号線で愛媛県川之江(四国中央市)に抜ける。「六十六番札所・雲辺寺」の案内標識が設置されている。


登山口へは県道8号を南に進む。道路の左側の川は水量が多く、段差の大きい堰から豪快な音が聞こえてくる。車道はゆるやかに左へカーブする。


道路はしだいに上り坂になり、すぐに左に下りる分岐に出合う。分岐を左に進めば雲辺寺ロープウェイ方面へ向かうのだが、登山口へはもっと上の道を左折すると思っていたので、直進して行き過ぎてしまう。


上り坂の県道8号をかなり進んだところで地図とのズレに気づいて、左の谷側の集落に下りる。出会った男性に状況を話すと、雲辺寺ロープウェイへの道の途中に登山口があるとのことで、そこまで車で送っていただけることになった。また今回も人様のお世話になり恐縮至極、ありがとうございました。
広域林道を走ってこんな場所で降ろしていただいた。タイムロスは発生したが登山口への到着はほぼ予定時刻で、軽いストレッチで準備を整える。


これが登山口の目印で、すぐ右の細道に入って行く。


2.ひたすら雲辺寺山山頂を目指す
取り付きの急坂を登ると倒木が道をふさぐ。またいで進むと最初の三十八丁の丁石が立っている。


溝のようなU字形の道を登る。路面がヌタバのように荒れていて、いつイノシシと出くわしてもおかしくない状態だ。人の気配も無く、普段は使うことのない熊鈴を取り出してザックにつける。ガラガラとうるさいのだが、こんな状況ではいたしかたない。猪道のような路面は9丁のコルまでに何カ所も現れて、その都度、自分がイノシシになったつもりで通り抜ける。しかしそんな部分に限って蜘蛛の巣が多く、頭に絡みつくのには閉口した。まったく展望はきかないが、青空に木の造形が美しい。


シダで覆い隠された道、石ころがゴロゴロ転がる道をどんどん登って行く。


往路で唯一展望が開けた場所。讃岐平野が広がるがモヤで見通しにくい。三十七丁を過ぎてから丁石も道標も無かったが、木に留められたブルーのプレート「へんろ道」を見つけてほっとする。


深閑とした道をひたすら登る。閉ざされたような空間に黄葉しかけた木々がアクセントをつけてくれる。


しばらく進むと、「お大師様の通られた道」と記された黄色いプレートがある。お遍路さんが残してくれたもののようだ。平成8年とあるので、21年間もここに留められていることになる。登山口から約50分、最初の石仏に会う。


お地蔵さんを挟んで分岐になっていて、どちらへ進もうかと見渡すとピンクのリボンが招いている。そちらへ進んでしばらくすると再び黄色のプレート。「心をあらい心をみがく へんろ道」平成13年とあり心がなごむ。


また倒木にさえぎられ、それをくぐって進むと次の倒木。これは左に巻いて進む。


二十二丁を過ぎた先から平坦な尾根歩きになった。


コウヤボウキ(高野箒)の花が咲いている。この名前、高野山で茎を束ねて箒の材料としたのが由来とか。すぐそばに二つ目の石仏がある。


さらに登り進むと三つ目の石仏が立つ。


ゆるやかな道が続いて九丁のコルに到着した。登り始めておよそ1時間半、残された急坂に備えて休憩をとる。出だしは尾根歩きからスタートだ。




倒木が朽ちている。朽ちて自然に還っていく。自然の厳かな営みがある。遮るものがなくなり前方が明るくなってきた。


ロープが現れ、それに沿って道を踏み外さないよう前進する。前方が急に開けて、フェンスと監視台のようなものが見えてきた。


フェンスに向けて斜面を登ったらイバラがびっしり繁っている。太い茎にバラのようなトゲが付いていて近寄れない。さらに細い茎に細い針が付いているのもあり前進を阻まれる。ストックを打ち付けて茎をちぎり取って、進行方向に穴を空ける。匍匐前進でくぐり抜けるとザックが悲鳴を上げる。10分近くかかってなんとか通り抜けて監視台の階段を登る。見下ろすと階段のそばのフェンスがワイヤロックで開くことが分かった。


3.雲辺寺山山頂と雲辺寺
ようやくフェンスを越え、動物が侵入しないようにワイヤをロックする。こうしてたどり着いたのは緩やかなスロープのゲレンデ、スノーパーク雲辺寺だった。


ゲレンデ右(西側)のコンクリートの道を登って行く。ふり返るとリフトのステーションが見えるが、背後の風景はモヤでぼやけている。


登り詰めた位置から右を見ると3基の電波塔が建っている。左手にはセンターハウス(レストラン)と毘沙門天展望館の毘沙門天像が見える。


雲辺寺山山頂に立つ。山頂標識には「県境 標高1000m」とあるが、ここは927mでは? 毘沙門天館の前庭にはこんな石像がある。


屋上に毘沙門天の像が空をにらむ毘沙門天館。開放的な入口から螺旋状のスロープを登り、階段を踏んで屋上に出る。


写真左は剣山の方向。右は無線中継所のアンテナ群。


高松市方向には近くのロープウェイ山頂駅。讃岐平野が広がり瀬戸内海も望めるはずだが、霞んでいて残念。


福山の方角には燧灘が見えるはずなのだが・・・。写真右は松山方面の風景。


そして石鎚山の風景がこれだ。のぞき込んで下方の紅葉に囲まれた雲辺寺を眺める。


毘沙門天館には四国八十八カ所すべての版画が展示されている。第六十六番の雲辺寺をカメラに収め、毘沙門天展望館を出て雲辺寺へ向かう。


モミジの紅葉が美しい。その近くにそびえる巨木は大師乳銀杏(たいしちちいちょう)。昔、乳の出ないお母さんのために弘法大師が銀杏の苗を植え、木の幹を削って煎じて飲むと乳が出るようになったとの言い伝えがある。


仁王門の前に来た。左右に朱色の金剛力士が立っている。雲辺寺は四国霊場のうち最も高い標高911mにあり、かつては「遍路ころがし」と呼ばれる難所とされていた。今はロープウェイがあるので楽に登ることができる。山道ではまったく人の気配もなかったが、あたりにはお遍路さんや紅葉の撮影に訪れた人たちが歩いている。ここからゆっくりと境内の秋風景を眺めながら散策する。


陽差しはあるものの温度は低い。ウィンドブレーカーを着増して、厄除不動が祀られた境内の広場で昼食をとる。


太子堂にお参りする。次から次へとお遍路さんが絶えない。立派な鐘楼があるが鐘をつくことはできない。


マニ車、クルクル回しました。が、願いごとを唱えるのを忘れて、ただ無心にクルクルと。


本堂とその左に並ぶ護摩堂。雲辺寺は真言宗の寺院で弘法大師が建立したと伝えられる。本尊は千手観音で、かつては四国の各国から修行者が集まり「四国高野」と称されたそうである(仁王門前解説板から)。護摩堂には不動明王が安置されている。


茄子の輪っかの向こうに見えるのは「おたのみなす」という腰掛け。掛けると功徳があるそうで、周辺には願掛けの茄子の絵馬やお守りもある。納経所前を横切って雲辺寺を後にする。


五百羅漢の石像が並ぶ道を登って行く。表情がとてもリアルだ。




ロープウェイ山頂駅の手前に香川と徳島の県境がある。上谷バス停からの最終バスに間に合わせるために、下りはロープウェイを利用する。


4.ロープウェイで下山して谷上(教育センター)バス停へ
薄ら寒いと思っていたら山頂駅の気温は13℃だ。定員101名の大きなゴンドラがやって来た。


ロープウェイの全長は2,600m。山麓駅から山頂駅の高低差約660mを7分ほどで移動する。十数人のお遍路さんといっしょに滑るように下降して行く。


紅葉し始めた山腹にゴンドラの影が映る。立ち枯れの木が多いなぁ、と思う間もなく山麓駅に到着した。


山麓駅からは皆さん車でお帰りだ。ここから谷上バス停までの予想時間は1時間。舗装道歩きのスタートだ。


道中はミカン畑が続く。収穫間近のようだがどの畑にも人の姿はない。


長い下り道からふり返った雲辺寺山にはロープウェイ山頂駅がはっきり見える。


やっと下りてきたが道が絡み合っていて分かりにくい。昭和紙工で積載作業中の男性に道を尋ねたら、スマホに周辺地図を表示して歩きやすいルートを丁寧に教えてくださった。これは大いに助かった。


そのおかげもあり、谷上バス停には余裕をもって到着。ありがとうございました。

