名 称

びわこそすい

地 域

京都市山科区~左京区

距 離

約11km

日 付

2015年11月20日

天 候

晴れ

同行者

相棒と

マップ


このマップは、国土地理院の電子国土Webシステムから提供されたものを使用しています。

コース概要

JR山科駅スタート 9:50安朱橋(あんしゅばし) 10:00毘沙門堂 10:12~10:17安朱橋 10:26
天智天皇陵分岐 10:53~10:57正嫡橋(しょうちゃくばし)11:05第2隧道東口 11:13~11:16
(住宅地を迂回)第2隧道西口 11:22第3隧道東口 11:27~11:31(京都府道143号線を歩く)
日向大神宮鳥居 12:07第3隧道西口付近 12:12インクライン(昼食)12:14~12:45
ねじりマンポ 12:51南禅寺 13:03水路閣 13:15~13:32永観堂(散策と寺宝展拝観)13:38~15:00
京都市動物園前 15:18平安神宮前 15:41地下鉄東西線・東山駅 15:55

1.JR山科駅~毘沙門堂

 山科駅到着は9時30分、駅前の百貨店で昼食弁当を用立てようと思っていたのだが、まだ開店前。連絡地下道を引き返し、地上に出てコンビニへ入る。ところが揚げ物の弁当ばかりで、しかたなくおにぎり1個ずつと小さな巻き寿司1本を買って出発する。駅前の左側に道標があり、京阪電鉄の手前を左折して「毘沙門堂」の方向へ歩き始める。

 200m先を左折して東海道本線の下をくぐって北へ向かうと、500mほどで琵琶湖疎水をまたぐ安朱橋(あんしゅばし)に行き着く。これを左折して蹴上方面へ向かうのだが、まずは直進して毘沙門堂に立ち寄ることにする。

 北へ直進すると5分で極楽橋に着く。江戸時代に第111代の後西天皇(ごさいてんのう)が行幸された際、「橋より上はさながら極楽浄土のような清浄華麗な霊域である」と感嘆されたことが名前の由来とか。

 「毘沙門堂門跡」の石碑が立ち、木々の一部は秋色に染まっている。

 紅葉を眺めながら石段を登ると、真っ赤な仁王門と提灯が印象的だ。

 毘沙門天が祀られる本殿に参拝して一日の無事を祈り、経蔵を眺めて石段へ向かう。

2.安朱橋~第2隧道~第3隧道東口

 安朱橋へ戻ってきた。橋のたもとに「琵琶湖疎水通船復活試行事業」の貼り紙がある。

 安朱橋から西の風景。ここから疎水の左側(南側)の道を歩く。向かいの住宅に皇帝ダリアがこぼれ落ちるように花をつけている。

 いきなり「イノシシに注意!」の貼り紙だ。どんな状態で対面するかでアクションが決まりそうだが、まずは会わずに済みますよう! 橋を渡った向こうは京都府立洛東高等学校だが、校庭でイノシシが遊んでいたりして・・・、なんてことはないと思うのだが、大丈夫かい?

 緩やかなカーブの先に小学生たちがいる。どうやら課外授業のようだ。他にも散歩する人、ジョギングの人、自転車を漕ぐ人など、みんなこの道が大好きなようである。

 疎水に沿って桜が並木をつくっている。向こうの大きいのはヤマザクラで「区民の誇りの木」と書いた木札がある。春にはさぞかし華やかなことだろう。

 ところどころに広場がありベンチが設置されている。ゆっくりと散策する老人の姿があったが、なるほどと頷ける。その先の左手では視界が開けて御陵方面の家並みが見える。写真では判りにくいが、正面の山頂に花山天文台のドームが銀色に輝いている。

 ゆるやかに曲線を描く疎水の向こうに橋が見えてきた。その手前に石積みのパーゴラが設置されている。

 天智天皇陵への分岐に着いた。道標に「天地天皇陵 8分」とあるので出かけようとしたが、長い階段が続いている。いつもならわけなく進むのだが、膝の状態が悪いので諦めて引き返す。

 「東山自然緑地ジョギングコース」の道標が取り付けられた橋を自転車が渡る。真っ直ぐに延びる疎水沿いを進んで行く。

 朱塗りの橋は、日蓮宗大本山の本圀寺(ほんごくじ)参道に架かる正嫡橋(しょうちゃくばし)だ。その先もほぼ直線の水路が続く。清々しい道だ。

 突然、船がやって来た。琵琶湖疎水通船復活試行事業の船だ。「京都市と大津市を繋ぐ新たな観光資源の創出」が目的ということだが、この船体では数人しか乗れそうもなく、はたして収支が見合うものかと思ってしまう。通過時の音は静かだが、跡に残る波は半端でない。

 アーチ型が美しい山ノ谷橋。橋のたもとでランニングしていた女性が休憩中、いい顔をしている。そして、第2隧道東口に到着した。

 扁額に「仁以山悦智為水歓」とあり、「仁者は知識を尊び 知者は水の流れをみて心の糧とする」の意。ここからいったん住宅地に出る。

 住宅地の道を疎水の流れに沿うように200mほど進み、右の路地に入って行くと疎水に再会だ。

 対岸に新山科浄水場が現れた。近づくと橋が架かっている。どう見ても鉄製の橋なのだが、たもとに「日本最初の鉄筋コンクリート橋」の石柱が立っている。

 鉄製と見えたのは鉄骨で補強されているためで、確かにコンクリートでできている。歴史を感じながら渡ってみる。そして、すぐに第3隧道東口に到達した。扁額には「過雨看松色」とある。

3.第3隧道東口~インクライン

 第3隧道の長さは850mで地下を蹴上(けあげ)へと向かうが、平地を行く道はここで終わっている。本来ならここから山越えをして、紅葉が美しい日向(ひむかい)大神宮に参拝して蹴上へ抜けたいのだが、膝をかばうために、今回は南に出て京都府道143号線を歩く。

 交通量の多い道路をひたすら歩く。歩道が整備されているので危険はないが、排気ガスと騒音には閉口する。第3隧道から30分、やっと蹴上浄水場が見えてきた。

 さらに歩くこと5分、右手に現れた日向大神宮の鳥居をくぐって行く。その先には懐かしい風景、以前に京都一周トレイルで訪れた大神宮橋である。橋の右にトレイル標識[東山 No.32]が立っている。

 近づくことはできないが、第3隧道西口に到着だ。ここが第1疎水の出口であり、この地点で第2疎水と合流している。

 かつて琵琶湖疎水をやってきた船は、この蹴上船溜りで荷物共々インクラインの台車に乗せられた。そして南禅寺船溜りまでの582m、落差36mに敷設されたレールの上を、ワイヤーロープで牽引して移動したのである。この牽引にも蹴上発電所の電力が使用された。

 今も残るインクラインのレールの両側は桜並木になっていて、遊歩道のように利用されている。レールはいちど撤去されたが、産業遺産として保存するため1977年に復元されたものである。右の写真、相棒が入っているのは山ノ内浄水場の導水管である。直径1.65m、長さ4m、重さ約5トンの鋳鉄管で、インクラインから8km先にある浄水場へ導水している。

 琵琶湖疎水の設計・施工の総責任者として力を尽くした田邉朔郎の像と解説碑が立つ。工部大学校学生であった田邉朔郎が、琵琶湖疎水の実現に向けて奔走する京都府知事北垣国道に請われて京都府に着任。卓抜な技術と強い信念と先見性により困難なトンネル工事を完成させ、米国に次ぎ世界で二番目の水力発電所を実現、わが国初の路面電車を走らせた功績などが記されている。

 ここでおにぎりの昼食をとる。北西の一角に平安神宮の赤い鳥居を望むことができる。周辺の蹴上発電所取水口水門などを眺め、水路閣へ向けて移動を始める。写真右は蹴上発電所への導水に使われている水圧鉄管である。

4.ねじりマンポ~南禅寺と水路閣

 インクラインを下って行くと蹴上駅の前あたりに煉瓦造りのトンネルがある。のぞき込むと煉瓦が螺旋状に積まれている。トンネルの強度を上げるための工法だそうで、名板に「雄観奇想」と記されている。トンネルを抜けると、道路向こうに地下鉄・蹴上駅が見える。

 南禅寺へ向かう道路側から見た(見上げた)インクライン。途中には、当時使われていた「三十石船」を台車に乗せたものが復元・展示されている。

 南禅寺中門には人と車が溢れている。中門を入ると一面の紅葉。天授庵の真白い塀からはもみじが溢れ、三門の五鳳楼からは「絶景かな」の声が聞こえてきそうだ。

 天授庵は門前から拝見し、南禅院を通り過ぎる。

 水路閣に着いた。幅4m、延長93mの煉瓦造りの水路閣はアーチ構造の素晴らしいデザインで、周囲の景観に見事に調和している。

 再び三門の方向に歩みを進め、永観堂へと移動を開始する。

5.永観堂~地下鉄・東山駅

 永観堂の総門に着いた。燃えるような紅葉の中を直進すると、参拝客が列を成す中門。 

 拝観料を払って中門をくぐると紅葉が一段と美しい鶴寿台。鶴寿台の屋根越しに多宝塔が見え、ズームでアップしてみた。

 大勢がカメラを構えているのは「夢庵」。窓から観る放生池(ほうじょうち)とそれを囲む紅葉が素晴らしい。

 これは勅使を迎えるための唐門。その先にはススキと紅葉の絶妙なアンサンブルがあった。

 穏やかな道を歩むと「今様」の碑が立つ。「今様」は平安時代中期から鎌倉時代にかけて流行した歌謡である。
     佛は常にいませども
     現(うつつ)ならぬぞあはれなる
     人の音せぬ暁に
     ほのかに夢に見え給ふ
 これは後白河法皇が編纂した『梁塵秘抄』の一部である。にぎやかな参拝客の存在を忘れさせるような、石塔の建つ庭を行く。

 引き続き、開催中の「秋の特別寺宝展」を拝観する。展示物の写真撮影は禁止されている。写真左は唐門を内側から見たもので、盛り砂の庭園が美しい。釈迦堂の前庭にも秋色が溢れている。

 釈迦堂から御影道への階段はかなり急だ。上がったところから見る山の斜面が、ビニールシートで覆われていたのには驚いた。

 寺宝展を見終えて阿弥陀堂から石段を下りて行く。このあたりは赤が一段と美しく、まるで燃えているようだ。

 放生池はどこから見ても絵になる。カメラが隊列を組んでいる。ふたたび山上の多宝塔が見えたので美しい姿にズームで寄ってみた。

 画仙堂で特別公開中の障壁画、関口雄揮画伯の「浄土変相図」を観る。左には枯死した木々が立つ廃墟にかかる灰色の月を描いた「翳る」、中央には「彩る」と題された紅葉の襖に挟まれて、金色の光に輝く赤い峰々の「浄土の霊峰」、そして右には柔らかな月光のもとに花々が咲き山蒲萄が実る希望に満ちた「月の雫」。この空間に過去・現在・未来が凝縮され、人類への警鐘と希望を暗示されているようで、しばらく佇んでいた。そして、深い充実感に満たされた。

 画仙堂を出ると銀杏の絨毯。もういちど放生池の紅葉を眼に焼きつけて永観堂を後にする。

 永観堂を西へと道なりに進んで京都市動物園に出る。北西に折れて西へ進むと平安神宮前。

 京都市美術館へと南下すると、再び琵琶湖疎水に出会うことができた。これで今回の目的は達成、後はゴールの地下鉄東西線・東山駅に向かうだけだ。平安神宮の鳥居をくぐり、三条通を右折してゴールを目指す。

 かくして、無事ゴールイン。左膝に僅かながら違和感を覚えるが、相棒に迷惑をかけることもなく歩き通すことができた。そして素晴らしい京都の秋を堪能することができた。こうなれば仕上げは京料理の店、ささやかな料理を並べて盃を重ねる。