1.旧児島駅舎へ向かう
岡山駅から「快速マリンライナー」で25分、児島駅に到着した。駅正面から倉敷ファッションセンター側へまっすぐに延びる道を進んで、児島公園にさしかかる。整備中の大きな噴水のオブジェの傍を通り、児島公園を斜め右に通り過ぎて児島文化センターの方向へと進む。文化センターの手前左側(道路を挟んで南)に「風の道旧児島駅舎」が見えてきた。
2.旧児島駅舎から鷲羽山駅跡に向かって
今日は金曜日なので駅舎の扉が開いている。駅舎を通過できるのは金・土・日曜日と祝祭日(年末年始を除く)だけなので注意が必要だ(時間帯は8:30~17:00)。このプラットフォームからスタートするが、線路はまったくない。
下津井電鉄線の開業は1914年(大正3年)で、茶屋町駅~下津井駅を結ぶ全長は21.0km。児島駅は中間駅だが、風の道では始発の駅名標が設置されている。児島駅舎からの出発点には金網の扉があり、駅舎を通過できないときは閉じている。
工場に隣接し民家の間を延びる軌道跡。架線柱が立ち、道辺には木や花々が溢れている。
もうすぐ彼岸の中日。白花彼岸花が赤い彼岸花を圧倒するように咲き、ランタナ(和名は七変化)が実を付けている。
両側に建物がある場所では道が狭く感じられる。これは下津井電鉄線が特殊狭軌(ナローゲージとも:線路幅=762mm)だったからで、一般的な線路間の幅に比べて30%近く狭い。そんな通りにコスモスが顔を覗ける。遠く山上に見えるのは鷲羽山ハイランドの観覧車だ。
芙蓉の花に迎えられて進むと備前赤崎駅跡に着いた。草が茂ってはいるがプラットフォームが残っている。
さらに直進すると国道430号に出合う。ここは直進できないので、左折して「扇の嵶口(おぎのたわぐち)」交差点まで進み、南(右手)に横断してから地下道を通る。
地下道の出口を南に進むとすぐに、「風の道・下津井方面」の道標が見える。その手前を左折して進み、次を右折して、交差点の迂回路から風の道へと戻る。
間もなくプランターが整列したプラットフォームが見えて、阿津駅跡に到着する。
わずかに傾斜した道を進み、JR瀬戸大橋線の下をくぐって緩やかな上り坂を右へと回り込む。
淡い紫色のチダケサシの群生。左に競艇場の大きなビルが見えてくるが、今日はレースをやっていないので静かだ。
右上には瀬戸大橋線、これと平行して琴海駅跡のプラットフォームが現れる。
小高くなった琴海駅からは瀬戸内海が見える。手前に広がるのは大畠地区の集落で、近くに住宅地へ下りていく道がある。フェンスの道に変わり、JR瀬戸大橋線と瀬戸中央自動車道が重層構造になった、瀬戸大橋の付け根部分の下をくぐる。
すぐに鷲羽山駅跡が見えてくる。プラットフォームにはトイレとベンチが設置されている。ちなみに、風の道では唯一のトイレ施設である。
冒頭で記したように、今回のウォーキングには3つの目的があり、ここ鷲羽山駅で途中下車をしてしばらく散策することになる。
3.鷲羽山で食事と音楽とコーヒーと
駅跡の左から鷲羽山へ登って行く。坂の途中の白い建物は、昨年の4月に鷲羽山を訪れた時、工事中だったのを記憶している。
が、何と、近づくと、これが目的の名曲喫茶「時の回廊」ではないか。外観だけで期待が膨らむ店である。昼食をすませてから立ち寄る予定なので、そろりと前を通り過ぎる。
石段を登り、瀬戸中央自動車道が鷲羽山を貫くメガネトンネル入口の上を進む。
苔と落ち葉の山道を歩いて、階段を登りきった先の分岐を右に取ると、瀬戸大橋の真上に出ることができる。櫃石島から岩黒島を結び、与島から番の州へ繋がる美しい瀬戸大橋を一望できるビュースポットだ。
元に戻って少し進むと、急に視界が開けて、瀬戸内海の大パノラマが展開される。山頂に登って再度、瀬戸大橋方面を眺望する。ところが、ここでカメラのバッテリー残量メーターがアラーム表示。今回はザックも背負わぬ軽装であり、予備バッテリーを持参していない。と言うことで、以降は写真撮影を切り詰めることに・・・。
下方に見える白い建家は鷲羽山ビジターセンターで、山頂から5分ほどで下りることができる。ビジターセンターから少し下った道端に、小さな「←三角点」の標識があり、2つめの目標である三角点を無事確認することができた。この写真は、山歩きのコーナーにもアップすることにしよう。
この後、さらに下って鷲羽山レストハウスに出かけて、レストランでゆっくりと昼食を楽しむ。カメラのバッテリー問題で、レストハウスも豪華な昼食も写真は省略!
もと来た道を帰り、名曲喫茶「時の回廊」を訪ねる。店内はやや暗めの照明で、正面に小さなステージがありコントラバス、大きな菊型のホーンがついた蓄音機など、壁にはモナリザの微笑。たくさんの作曲家の肖像画が左の壁を飾り、右には何台もの振り子時計が並ぶ。
アンティークな空間が創られ、控え目な音量のクラシック音楽が流れている。美味しいコーヒーでしばしブラームスに聴き入る。途中、振り子時計が2時の時報を刻むが、その音色も音楽に和してしまう雰囲気。若い店主もじつに穏やかな人柄で、やはり、期待通りの店であった。今回はほんの立ち寄りだったが、あらためてゆっくりと訪れたい店である。
4.下津井駅跡を目指して
きれいな花を愛でながらの道中、それに美味しいコーヒーと音楽で元気はつらつ。後半の下津井へむかって足どりは軽い。すぐに出合った県道を渡って行く。
鷲羽山駅跡からはわずか400mで、間もなく東下津井駅跡に到着した。この駅だけはプラットフォームが残っていない。しばらく県道に沿って歩く。
山合の道を縫うように進むと、純白の芙蓉がこぼれ落ちそうだ。道にばらまいたようなイガグリ、見上げればイガが弾けて栗の実が光っている。東下津井駅跡からの2kmも軽々と進むことができて、終点の下津井駅跡が見えてきた。
ついに下津井駅に到着した。プラットフォームがきれいに整備保存されている。往時の活躍を偲ばせる数々の車両。保存会の皆さんの努力の賜物である。
プラットフォームの一角にはレールも保存されている。
下津井駅跡のゾーンから通りへ踏み出すと、瀬戸大橋を背景に釣り船が並ぶ港風景。すぐ近くの下津井港前バス停から、折よくやって来た1時間に1本運行の下電バス、「とこはい号」に乗って児島駅へと向かう。
こうして、旧児島駅舎から下津井駅跡まで、正味1時間半足らずの「風の道」ウォークが終わった。まだ下津井電鉄線が運行していた1993年、落書き電車で有名になった「赤いクレパス号」に乗車したことがある。その軌道跡をたどりながら、当時のことがつい先日のことのように思い出されて不思議な気持になった。
そして途中下車して散策した鷲羽山では、初期の目的をすべてかなえることができた。懐かしい時節の思い出と共に、「花とコーヒーと音楽」を満喫した旅であった。