1.吉ヶ原へ向けて
スタート地点の赤磐市吉井支所へ着いたのは集合時刻の30分前で、まだ参加者は誰もいない。スタッフの皆さんはお揃いだが、どうも要領を得ない。「そのままお二人でお進みください」とのことで出発するが、開会式もなしでばらばらの出発ってありか、などと思いながら東へ向かう。空気は冷たいが快晴で無風状態、背筋がピンと伸びて気持ちいい。
城山公園のお城が見えたのでズームで寄る。間もなく「ゆうかはし」のたもとに着いた。「ゆうか」はこの一帯の地名で飯岡と書く。したがって漢字で書けば「飯岡橋」だが、土地を知らぬ人にはまず読めないのである。
この橋は人と自転車専用である。鏡のように穏やかな川面を見ながら吉井川を渡る。
県道津山柵原線までの数百mはこんな舗装道で車の姿がなく、中央を歩く二人の影が写っている。津山柵原線に入ると分離された歩道がついている。
紅葉に染まる風景を眺めながら颯爽と歩く。幅広い歩道は片上鉄道の跡地で、アスファルト上にはしゃれた路面標識。右に見える山裾の畑にさしかかると、長い支柱の上にトンビが休憩していた。
車ならスイ~ッと通り過ぎるに違いない道路も、歩くとその表情は豊かだ。緩やかなカーブを過ぎると右側にウネ山が現れた。
左手を流れる吉井川の川幅がやや狭くなり、遠くに堰堤が見えてきた。もうゴールは近いはずだ。このあたりで道路はゆるく左にカーブしている。
すぐ先にロマン街道の標識があり、カーブを支線へ直進する表示がある。その方向に進むと、列車の車庫らしきものが見えている。
歓迎の旗に迎えられて進む。車庫の左に見えるのが吉ヶ原駅に違いない。
車庫にさしかかると赤いコーンに「吉ヶ原駅ゴール受付」と掲示されている。さっそく出向いて完歩証をいただき、まずは駅舎を撮影する。
2.吉ヶ原駅と臨時列車乗車
イベントのために係員は駅員姿で対応してくれる。とても廃線の駅とは思えない。現在の駅長は猫のコトラ君なのだが、多忙なようでなかなか顔を見せてもらえない。
窓口には今回の展示運転の時刻表、上方には廃線当時の旅客運賃表が吊されている。東京都区内まで2,650円、岡山まで210円、終点の片上駅までなら130円だ。安いっ!
ここから当時の客車の見学が始まる。天井には暖かさを感じさせる照明と扇風機。吊革の吊り紐の部分には正真正銘の革が使用されている。乗客の皆さんは感動しっぱなし!
別の車両では「客車ギャラリィ」が開催されている。熱烈な鉄道ファンたちが写した、かつての車両や走行風景などの写真が展示されていて感動。
続いて展示運転の車両に乗って、短距離区間ではあるが踏み切りや信号機のある路線を走行する。車名は「わかあゆ」、車体横の記号「キハ312」は文字ごとに意味があり、「キ」は気動車つまりエンジン付き車両を表す。「ハ」は普通車、そして「312」は気動車の場合は車両番号らしい。スピードこそ出さないが、何とも周囲の風景に溶け込むような優雅な姿と乗り心地でした。
3.柵原鉱山資料館と周辺巡り
東は「柵原ふれあい鉱山公園」で、柵原鉱山資料館が建っている。資料館前の庭には、片上鉄道ができるまで鉱石を積んで吉井川を往き来していた高瀬舟のレプリカ(実物大)が展示されている。
資料館では、東洋一の硫化鉄鉱山として栄えてきた柵原鉱山の歴史や文化が紹介され、鉱山内部の様子や採鉱現場などが再現されている。これらはしっかり見学したが、興味津々だったのは「鉱山にぎわいコーナー」で、当時の町の賑わいを実物大のセットで再現している。懐かしい街角と店、胸がジ~ンと熱くなるなぁ。そして今や知る人ぞ知る、屋根裏や壁際の電気配線を支持する白色磁器の碍子(ガイシ)、つまり絶縁のための器具、さらにヒューズボックス。昔はこんな配線が一般的だった。
当時としては画期的だったに違いない酒類のポスター。如何ですか、これ!
ピー缶やゴールデンバットなどの煙草売場、サケ缶やミカンの缶詰、グリコやビスコなどの菓子類、どれも当時の缶や箱そのままだ。
タイムスリップから解放されて駅から西へ進むと、鉱石の採掘現場から移転された竪坑櫓が建ち、ディーゼル機関車が移動中。またしても時の流れが変わりそうだ。
少し西にある吉ヶ原八幡神社まで歩いて参拝する。
そこから畑中の道を行くと駅舎が見え、背後にウネ山がそびえている。一眼レフがずらりと並び、列車が近づくとシャッター音が騒がしくなる。
その中を縫って、コンデジのシャッターをカシャカシャと切りながら駅へ向かう。
爽やかなウォーキングは最高、それに吉ヶ原はロマンに満ちている。帰りはJR和気駅まで送迎バスに揺られながら、片鉄ロマン街道の他のコースへの思いがフツフツと・・・・。