22. マイクアンプの製作

 今回は『イコライザーの設計・作成』の予定でしたが、急遽予定を変更します。設計・作成は順調に進んでいるのですが、実装の段階で問題が起きて手間取っています。発振を伴ったノイズが発生して、その解消ができず、しばらく時間がかかりそうです。
 マイクアンプの製作はもっと後で行おうと考えていたのですが、これを前倒しすることにしました。ここまでは高感度アンプ付きコンデンサーマイクなので不要だったのですが、入手しやすいコンデンサーマイクを使う場合はマイクアンプが必要になります。手軽に作れて出来上がったアンプはまずまずの性能。このプロジェクトでの使用だけでなく、音声認識や対話システム、録音などへと用途が広がりそうです。  



1.マイクロフォンのあれこれ

 マイクロフォンを動作原理や構造から分類するといくつもの種類がありますが、ここではアナログマイクの音声信号を増幅するマイクアンプの製作が目的なので、範囲をぐっと絞ることにします。
①ダイナミック型

 空気の振動で磁石の中のコイルや金属箔を動かして電気を起こす方式で、前者はムービングコイル方式、後者はヴェロシティ方式と呼ばれます。方式としてはムービングコイルが圧倒的に多く、電源が不要。丈夫で湿度にも強く、また大音量でも歪みにくいのが特長です。


②コンデンサー型

 振動膜に電気を蓄えたコンデンサーが、音を受けて振動膜が動くと電圧が変化する原理を利用したものです。旧来のDCバイアス・コンデンサーマイクは数十ボルト以上の専用電源(ファンタム電源)が必要ですが、感度や音質特性が良いことから、現在もスタジオ録音用の主流になっています。
 その後、エレクトレット素子(半永久的に電荷を蓄える高分子化合物)を用いたエレクトレット方式が登場して、乾電池程度の電源で使用できるようになって普及しました。これを用いたマイクが多数存在し、また汎用電子部品として提供されているエレクトレットコンデンサマイクモジュールを用いて、比較的簡単にマイク機能を組み込むことが可能になりました。


③MEMSマイク

 これは今回のアンプ作成の対象ではありませんが、すでに第9章で試したADMP441 DIPマイク基板がMEMSマイクであったこと、それが販売終了になったことから本プロジェクトでは孤立した(忘れられた)状態になっていますが、今後見直しをする予定なのでここに掲げておきます。
 近年のスマートフォンなどでは、微小電気機械システム(Micro-Electro-Mechanical System)を使ったMEMSマイクロフォンが多用されています。振動や衝撃、温度変化に強く、エレクトレット方式に変わる小型マイクとして注目されています。オーディオプリアンプを内蔵していてパルス密度変調(PDM)デジタル信号を出力するのが特長です。ADコンバーターとプリアンプを内蔵しPDM信号を得られるこのデバイスは、ハードウェアをコンパクト化しシンプルにできる素晴らしいデバイスなので、目的の聴力補助ツールが完成した時点で、あらためてMEMSを見直してみたいと考えています。


 マイクロフォンについては以上のとおりですが、現時点で対象にするのはエレクトレットコンデンサーマイクです。下図の左2つはマイクモジュール、右はSONYのタイピンタイプのステレオマイクです。SONY製は別の目的で以前購入していたもので、今回のテストで使うことにしました。


2.トランジスターでちょっと試しに

 まずは、電子工作パーツセットを販売しているサイト遊・楽・創造の「マイクアンプ」の回路を参考にして、トランジスター2SC1815を使ったアンプを作ってみました。これはこのプロジェクトでは出力不足で採用できませんが、ちょっとした増幅をしたい場合には有用なのでここに記録しておきます。
 このアンプの特長は次のとおりです。
  ・2SC1815を使用し、回路は非常に簡単ですが周波数特性は一流です。
  ・少しだけゲインが足りない場合に重宝します。

 詳細は先のサイトを参考にしていただくとして、そこに記載されている回路図を左下に示します。赤色の2.2KΩでコンデンサーマイクに必要な電圧を取り出しています。これを基に自作用の回路を右のように書いてみました。SWの部分はショートリングで、コンデンサーマイクを使う時にショートし、そうでなければ開放する予定でしたが、開放時には1μF電解コンデンサーの極性を逆にする必要があるため、この目論みは失敗です。ここはスイッチではなく短絡(直結)してください。

 回路は、秋月電子の両面スルーホールユニバーサル基板 3cmx7cmを4cmでカットしたものに組み付けました。使用部品類は手元にあったものを使い、裏面で配線しています(かなりひどい配線で公開できません)。写真右のように、入力側にはコンデンサーマイクにハンダ付けしたジャンパーワイヤーを繋ぎ、出力側はヘッドフォンアンプに接続。電源は3Vリチウム電池から供給します。
 先に述べたようにゲインはそこそこですが、スッキリとした音声を聞くことができました。


3.オペアンプで作るマイクアンプ

 いよいよ今回の目的とするマイクアンプ製作ですが、これもできるだけシンプルで低電圧動作するものにしたいので、適当なものがないかとネットを探しました。その結果、電子部品・半導体通販のマルツさんの「パーツまめ知識」に『マイクアンプの製作』という解説記事を見つけました。モノラルアンプをトランジスター構成とオペアンプ構成でそれぞれ作成する内容で、低電圧用のRail-to-Rail オペアンプを使用する回路を採用することにしました。
 詳細は先のリンクから記事を読んでいただきたいのですが、この記事はすでにマルツさんのサイトでは旧コンテンツになっているようなので、万一のリンク切れを考えて回路図と部品表をそのまま転載させていただきます。


 オペアンプとして、National Semiconductorの2回路レール・ツー・レール入出力オペアンプLMC6482AINNOPBを使用しています。回路はモノラルになっているので、オペアンプの残る1/2を使って同様の回路を作成しステレオにしています。使用基板は、秋月電子の両面スルーホールユニバーサル基板 3cmx7cmです。


 入出力はそれぞれ6Pのピンソケットを設置して、Left,Left,GND,GND,Right,Rightを割り当てます。下のように入力側にコンデンサーマイクを接続し、出力側はADコンバーターに接続します。


 SONY製タイピンタイプのステレオマイクは、下のように3.5mmステレオミニジャックに挿し込みます。ミニジャックはシールド線で6Pのピンヘッダーにハンダ付けして、出力側のピンソケットに挿して接続しています。


4.動作確認

 動作確認は、出来上がったマイクアンプをヘッドフォンアンプに直結してヒアリングする方法で行いました。つまり、アナログ入力したステレオ音声をマイクアンプで増幅し、それをヘッドフォンアンプで再生するわけです。
 入力側は、単体パーツのコンデンサーマイクを入力端子に繋いだケースと、SONY製ピンタイプマイクをミニジャックを介して繋いだ二つのケースで動作を確認しました。
 どちらもノイズはほとんど感じられず、クリアな音声を聴くことができました。補聴器もどきの入力系としては文句なしと言えそうです。


 マイクアンプを小型化するために、ご覧のように抵抗器はすべて立てて配置、ジャンパー線で経路を確保するなどの工夫をしましたが、後期高齢者入りした眼ではこれが限界、草臥れました。
 結果は満足なのですが、それにしてもボードが増えるとボード間配線が増え、小型化が難しくなります。こうなると、近々にMEMSマイクの見直しもしなくてはならないと感じています。で、イコライザーは実装でテストを継続中です。もう少しお待ちください!