27. 電源とHAT21システムの評価

 ここまでの過程において、折にふれて電源のテストをしていました。しかし、ノイズが発生したり音質が低下したりと問題が多く、その都度マイクアンプとヘッドフォンアンプは独立した電池で、Raspberry Pi ZeroはDCアダプターという構成から抜け出せずにいました。今回はこのテーマを集中的に検討して、電源ボードを製作します。
 これで目的とする聴覚補助ツールはほぼ完成するのですが、なお大きな課題を残します。何枚ものボードから構成されるHAT21は複雑でサイズも大きくなってしまうので、その対策を考えます。



1.メイン電源とマイク用電源の決定

①メイン電源

 プロジェクトを開始した当初から、Raspberry Pi Zero WHの電源はモバイルバッテリーを使用すると決めていました。容量と安全性、それに充電しやすいことが主な理由です。Pi Zeroの所要電圧は5VでMicro USB給電、消費電力は0.75W(150mA)で推奨電源は6.0W(1.2A)なので、条件としては問題なし。アンプ類への給電も考えて、少し容量に余裕のあるものを選ぶことにしました。
 容量、サイズ、重量、安全性、価格などを比較してAnker PowereCore 10000に決定しました。諸元は次のとおりです。
  ・入力  5V 2A
  ・出力  5V 2.4A
  ・容量  10000mAh
  ・コネクタタイプ 入力 USB Type A、出力 Micro USB
  ・安全性 サージ保護機能とショート防止機能による多重保護システム
  ・サイズ 9.2 x 6 x 2.2 cm
  ・重量  180 g
  ・その他 電池残量がわかりやすい
  ・価格  3,000円前後


②マイク用電源

 マイクやマイクアンプの電源電圧は3V前後であり消費電流も小さいことから、ボタン電池(CR2032など)を使うことにします。どの程度長持ちするかは試してみないとわからないのですが、電源ノイズの発生を考えなくてよいのでこれに決定です。


2.ヘッドフォンアンプと電源

①既存のアンプを5Vで駆動

 ヘッドフォンアンプは、プロジェクトの当初から秋月電子のキット「NJM4580DD使用ヘッドホンアンプ」を使用してきました。これは推奨電圧が9Vなので、角形のアルカリ乾電池を電源としていました。9V角形電池にはニッケル水素で充電できるものもありますが、取り外しが面倒なのでここでは対象にしていませんでした。
 このヘッドフォンアンプの電源電圧はDC4.5V~15Vと適用範囲が広いので、メイン電源のモバイルバッテリーから分岐させて繋いでみました。しかし5V駆動ではノイズが多く、動作が不安定な感じで使用に耐えません。


②新たなヘッドフォンアンプのテスト

 ここで少々回り道になりますが、新たなヘッドフォンアンプ2つを製作して試した結果を記録しておきます。目的は5V程度の電圧で動作するアンプを評価することです。
 まず、秋月電子の「LM4880使用ポータブルヘッドホンアンプキット」を組み立てました。電源電圧は5Vで動作範囲は2.7V~5.5Vです。モバイルバッテリーに接続すると大きなノイズが入り、ボリュームを絞っても変化しません。そこで、写真右下の村田製作所製のDC/DCコンバータIC、LXDC55を使用した降圧DCDCコンバーターキット(秋月電子)を使って3.3Vにしたら、ノイズが大幅にカットできました。ただ、ボリュームを上げるとわずかながらノイズが現れます。

 次に、マルツオンラインに掲載されている「オペアンプAD8397を用いたヘッドホンアンプの製作」を参考にして自作してみました。AD8397はレールtoレール・オペアンプなので、低電源電圧で動作し広いダイナミックレンジを期待できます。シンプルな回路でアンプ性能としては問題ないのですが、聞き比べで、やや硬い音質なのが気になります(好みの問題ですが!)。

③既存アンプへの回帰

 3種類のヘッドフォンアンプを比較すると、どうしても今まで使っていたものが、音質が自然で聞きやすく感じます。そこで、昇圧型DC/DCコンバーターでモバイルバッテリーの電圧を上げてみることにしました。
 ルネサスのDC/DCコンバータIC、ISL97519Aを使用した秋月電子の「昇圧コンバーターキット」で、9.0VにアップしてNJM4580DDヘッドホンアンプに供給すると、モバイルバッテリー直結時のノイズは消えてほぼ満足できる状態になりました。その前に、バイパスコンデンサーやEMI除去フィルターなどを試してはかばかしくなかったのですが(ノイズ対策の知識不足もあり)、DC/DCコンバーターを通すと解決できるようです。心配していたスイッチングノイズも問題ありません。
 結局もとのアンプに戻ったわけですが、これで9V角形電池から解放されました。続いて、この結果を反映させた電源ボードを製作することにします。


3.電源ボードの製作

 モバイルバッテリーを電源入力として、それをストレートにRaspberry Pi Zeroへ給電する回路と、9.0Vに昇圧してヘッドフォンアンプに給電する回路をもつ電源ボードを製作します。
①所要部品
  必要な部品類は以下のとおりです(価格は秋月電子通商調べ)。

No.名    称数量参考単価備  考
1両面スルーホールユニバーサル基板 3 * 71\35
2USB3.0 コネクタDIP化キット(Aメス)1\150
3電源用マイクロUSBコネクタDIP化キット1\130
4ISL97519A使用可変昇圧電源キット1\650
5ピンソケット(メス) 1 x 4P1\209V出力ピンソケット用
63mm赤色LED1\10
7カーボン抵抗器 4.7kΩ (1/4W)1100本入りで\100程度
8細ピンヘッダー 3P1\5
9ジャンパーピン赤125個入りで\100
10その他配線など少々

②昇圧電源キットの使い方

 写真左が組み立てキットの昇圧電源のプリント基板です。多くの部品はあらかじめ実装済みで、これに付属のピンヘッダーやコンデンサー、可変抵抗器、スイッチなどをハンダ付けします。プリント基板上部の3つの穴には昇圧とバイパスを切り替えるトグルスイッチを取り付けるようになっていますが、それに代えて3Pの細ピンヘッダーをハンダ付けし、ジャンパーピンで昇圧動作に固定するように設定しました。このあたりの詳細は付属資料に記載されているので、部品表のリンクからアクセスしてください。
 基板右側の5つ穴にピンヘッダーを取り付けます。②と③は内部でつながっていますが、大電流が流れるので端子間を配線します。なお⑤は使用しません。
 主な仕様は次のとおりです。
   ・入力電圧範囲 2.3~5.5V
   ・出力電圧範囲 5~25V
   ・最大出力電力 5W
   ・スイッチング周波数 1.2MHz
   ・その他 過熱保護回路内蔵
 写真右は完成した電源ボードです。


③電源ボード回路図

 回路は下図のようにきわめて簡単です。しかし狭いプリント基板上に収めるのはそのままでは難しく、昇圧電源基板とA Type USBコネクターの一部をサンドペーパーで削りました。基板裏の配線も工夫する必要があります。配置が重要で、パーツのハンダ付けをする前に、完成品の写真を参考に試してから着手してください。完成後は9Vピンソケットにテスターを繋いで、昇圧電源の可変抵抗器の調整ネジを回して9.0Vに調整します。


4.HAT21システムの評価と対策

 電源ボードにPi Zeroとヘッドフォンアンプを接続して、やっと聴覚補助ツールHAT21が完成しました。と言ってもまだバラックのままなのですが、感度も音質もまずまずです。これなら、イコライザーをていねいに調整すれば十分満足できそうです。これで機能的には落着なのですが、まだ大きな課題を残します。
 下の写真は、テーブルの上に広がったHAT21の構成です。ご覧の一大システムは、ランチボックスに収納するには大きすぎます。この問題を解消する努力の前に、もういちど、どうしてもデジタル出力が可能なMEMS(Micro Electro Mechanical System)マイクを試さずにはいられません。もし使えるならば、マイクアンプもADコンバーターも不要になるので、劇的にシンプルになります。
 また、これはどこまでも尾を引きそうなのですが、依然としてアンダーフローによるノイズが頻繁に発生しています。これについては、すべてが完成した後に、じっくりと解消方法を模索することになりそうです。


 新たな課題が現れたことでさらに章を重ねることになりました。次章ではMEMSマイクの作成などを行う予定です。プロジェクトはいよいよ最終に差しかかりました。今少しお付き合いください!