7. ボードの組み立てと配線

 いよいよケースにボード類を組み付けて配線します。最後まで気になっていたケースのサイズですが、でき上がったボード類の無駄な部分を切り落としたり詰め合わせたりして、なんとか既製品のケースに収まる見通しが立ちました。



1.レイアウト

 ケースにどのようにボードやパーツを収納するか。まずは完成品の状態を掲載しておきましょう。ただし、これは一例に過ぎず、もっと良い配置があるかも知れません。これを参考にプランを練ってください。
 左上の「Headphone Amp. & EQ Buffer Amp.」は2つのボードを二階建てにしたもので、第3項「取り付け前の準備」で説明しています。

〔ヒント〕

 組み付けにあたって両面スルーホールユニバーサル基板の不要部分を除去する場合は、次の手順で行うと簡単できれいに仕上げることができます(部品表で紹介している基板に限定です。他の基板では切断できなかったり破損も)。
   1) ホールの間などホールに重ならない位置を選ぶ。
   2) カッターナイフで表裏両面から切り込み線をつける(ていねいに、しっかりと)。
   3) ニッパーで切り込み線の端を軽く切ると、切り込み線に沿って連鎖的に切り離される。
   4) 切り口を目の粗いサンドペーパーで磨いて、必要な寸法に切り詰める。
   5) 切り口を目の細かなサンドペーパーで磨いて仕上げる。


2.使用部品・材料など

 組立・配線ではたくさんの部品や材料を使用します。必要な部品類は以下のとおりです
 (No.2以降の価格は秋月電子通商調べ)。
No.名    称数量参考単価備  考
1サンハヤト 工作用ベーク板 NO.1 100x150x1.0mm1\139
2ケース タカチ電機工業 YM-150 150x40x100(mm)1\1,180
3Raspberry Pi Pico1\600
4両面スルーホールユニバーサル基板 3 * 72\401枚は端材でよい
5LED 3mm 青色1\20
6LED 3mm 赤色1\10
73mm LED用ブラケット&カバー2\25
83.5mm ステレオミニジャック 2\80
9パネル用押しボタンスイッチ オルタネート 丸型 赤1\70
10分割ロングピンソケット 1x421\80
11ピンヘッダ (オスL型) 1x401\50
12M3プラネジ+六角スペーサー(14mm)セット2\50
13プラスチック鍋小ネジ M3x10mm 6本入り3八幡ねじ製 ホームセンターで
14プラスチックスペーサー M3x5mm30ホームセンターで
15プラスチックスペーサー M2x10mm2\20
16なべ小ねじ プラスチック M2x5mm2\10
17M2六角ナット プラスチック2\10
18耐熱電子ワイヤー 2m 7色1\480
19カーボン抵抗 2kΩ1\11袋100本入り単価
20積層セラミックコンデンサー 0.1μF 50V1\101袋10本入り単価
21ステンレス鍋小ネジ・ワッシャ・ナットのセット M3x101ホームセンターで
22絶縁用ビニールPPシート(クリアファイルなど)1百均などで
23ピンヘッダー 1x401\35
〔注釈〕
 ・No.1:ベーク板
   ケースの内径に合わせてカットし、組み立て用のシャーシーとして使用します。
   もう少し厚いものを使いたかったのですが、1.0mmが組み込み後の高さの限界です。
 ・No.4:ユニバーサル基板
   1枚はPi Picoを取り付けるベッドに使います。
   切れ端を使って、2つのLEDの取り付けと電源の共通ラインを設置します。
 ・No.13:プラスチック鍋小ネジ
   ネジとワッシャ、ナットがセットになっていて価格も安くボードの取り付けに重宝します。
 ・No.15~17:M2のプラスチック部品
   取り付けスペースの都合でLED取付基板をシャーシーに固定するために使用。余裕があればM3でも可。
 ・No.19,20:カーボン抵抗とコンデンサー
   押しボタンスイッチのチャタリング防止に使います。
 ・No.21:ネジ類
   ケースにアースを落とすために使います。写真を参考にしてください。
 ・No.22:クリアファイル
   切り取って、イコライザーバッファアンプとヘッドフォンアンプを二階建て構造にするときに絶縁体として使用。
   ケースの上蓋の内側に貼り付けて、ケースと部品の電気的な接触を防ぎます。


3.取り付け前の準備

 ボードをシャーシーに取り付ける前に、次の組み立てを行う必要があります。
○ボードの二階建て構造

 ボード類を単純に平面に配置するとケースに収まりきれません。そこで、苦肉の策で、イコライザーのバッファアンプの上にヘッドフォンアンプを二階建てにすることにしました。この工程の撮影を忘れていたので、組み込み後のわかりにくい写真ですが、構造を想像してください。
 ヘッドフォンアンプを上にして、両方を長さ14mmのプラスチック六角スペーサーで止めています。そのままだとバッファアンプの部品がヘッドフォンアンプの裏面の配線とショートするので、クリアファイルを絶縁体に利用しました。ボードの大きさに切り取って四隅に穴を開け、上側にプラスチックワッシャーを糊付けします。それを挟んで六角スペーサーのネジ側を通してナットで締め付けました。
 バッファアンプ側は、M3(3mm径)のビスに高さ5mmのスペーサーを通して、六角スペーサーのもう一方をシャーシーに固定します。


○Raspberry Pi Picoのベッドとソケット

 Raspberry Pi Picoで電圧測定やリレー制御をしますが、プログラムの更新などで必要に応じて取り外しができなければなりません。簡単に取り扱えるように、ユニバーサル基板と分割ロングピンソケットを使ってベッドを作成します。
 ベッドは、ユニバーサル基板をPi Picoのサイズに合わせてカットし、分割ロングピンソケットを20ピンに切り離したもの2組をハンダ付けすれば完成です。ユニバーサル基板には、シャーシーに取り付けるための径3mmの穴を四隅に開けておきます。
 Pi Picoをベッドに取り付けるために、使用しないピン位置に、2Pづつ切り離したピンヘッダー4組をハンダ付けします。ピン位置は、第6と7ピン、第19と20ピン、第21と22ピン、第34と35ピンです。これをベッドに差し込むことで固定します。
 Pi Picoへの配線は、Pi Picoに取り付けたロングソケットにオスのL型ピンヘッダーを差し込んで行うことにして、それに必要なロングソケットを上向きにハンダ付けします。ハンダ付けの位置は、
  ・第11~18ピンに8Pのソケット
  ・第30~33ピンに4Pのソケット
  ・第36~40ピンに5Pのソケット
です。これは下の写真を参考にしてください。ベッドに固定すると右のようになります。


○LEDポート

 スルーホールユニバーサル基板の切れ端を使って、赤色と青色のLEDを取り付けます。ケースの穴に一致するように、あらかじめ横幅を決めてハンダ付けします。また、各ボードからの[Vcc]と[GND]をここに集約して結線するために、抵抗器のリード線を使って2本を並行にハンダ付けしています。
 LEDのアノード側はPi Picoに繋ぐので配線用のワイヤーをハンダ付けし、カソード側は4.7kΩのカーボン抵抗で[GND]にハンダ付けします。このポートはM2(2mm径)長さ10mmのプラスチックスペーサーでシャーシーに固定します。LEDの縦方向の位置は、LEDのリード線を曲げることによって調整します。


4.ボードの組み付け

 ケースの内径に沿って切り取ったベーク板に、それぞれのボードを並べて配置を決定します。配置が決まったらドリルで取り付け用の穴を開けます。参考までに、右の写真はボードを組み込んだ後の裏面です。同じサイズ(M3)のプラネジを上にねじ込んで固定しているので、ケースに入れると底面はピタリと収まります。
 ベーク板は1mmと薄いので、穴の位置がずれていると、すべてのボードの組み付けが完了したときに歪みが起きるので注意が必要です。


5.ボード間配線

 写真は、ボードをシャーシーに組み付けて、その他の部品類との配線が完了したものです。以下では、それぞれのボード/部品間の配線を取りまとめます。

 ピンソケットが設置されているボードは、L型ピンヘッダーと耐熱電子ワイヤーを使って配線します。その他の小さなボードや部品は、ワイヤーを直接ハンダ付けします。L型ピンヘッダーを使う部分は、配線を取り外してボードのメンテナンスができるようにするのが目的なので、配線に余裕を持たせます。

○マイクアンプ

 ・Mic.(L), Mic.(R), GND
    → マイク用の3.5mmステレオミニジャック
 ・Output(L), Outpur(R), GND
    → イコライザーバッファアンプのInput(L), Input(R), GND
 ・Vcc, GND
    → LEDポートのVcc・GNDライン

○イコライザーバッファアンプ

 ・Input(L), Input(R), GND
    → マイクアンプのOutput(L), Outpur(R), GND
 ・Output(L), Output(R), GND
    → ヘッドフォンアンプのInput(L), Input(R), GND
 ・Cut(L), Boost(L), 1/2Vcc(L)
    → グラフィックイコライザーのCut(L), Boost(L), 1/2Vcc(L)
 ・Cut(R), Boost(R), 1/2Vcc(R)
    → グラフィックイコライザーのCut(R), Boost(R), 1/2Vcc(R)
 ・Vcc, GND
    → LEDポートのVcc・GNDライン

○グラフィックイコライザー

 ・Cut(L), Boost(L), 1/2Vcc(L)
    → イコライザーバッファアンプのCut(L), Boost(L), 1/2Vcc(L)
 ・Cut(R), Boost(R), 1/2Vcc(R)
    → イコライザーバッファアンプのCut(R), Boost(R), 1/2Vcc(R)
 ・Vcc, GND
    → LEDポートのVcc・GNDライン

○ヘッドフォンアンプ

 ・Input(L), Input(R), GND
    → イコライザーバッファアンプのOutput(L), Output(R), GND
 ・Output(L), Output(R), GND
    → イヤフォン用の3.5mmステレオミニジャック
 ・Output(L), Output(R), GND
    → リレーユニットの回路1[NO], 回路2[NO], [COM]
 ・Vcc, GND
    → LEDポートのVcc・GNDライン

○モバイルバッテリー受電部

 ・+-ピンソケット
    → Pi Picoの39ピン(VSYS)と38ピン(GND)
 ・分圧抵抗の100kΩ側
    → 降圧DCDCコンバーターの[出力]
 ・分圧抵抗の中間点(計測点)とUSBコネクター[-]
    → Pi Picoの32ピン(GP27)と33ピン(GND)
 ・USBコネクターの[+][-]
    → 降圧DCDCコンバーターの[入力]と[GND]

○降圧DCDCコンバーター

 ・[入力]と[GND]
    → モバイルバッテリー受電部USBコネクターの[+]と[-]
 ・[出力]
    → リレーユニットの電源接点a
 ・[GND]
    → LEDポートのGNDライン

○リレーユニット

 ・電源接点a
    → 降圧DCDCコンバーターの[出力]
 ・電源接点b
    → LEDポートのVccライン
 ・回路1の[COM]と[NO]
    → ヘッドフォンアンプのOutput(L), GND
 ・回路2の[COM]と[NO]
    → ヘッドフォンアンプのOutput(R), GND
 ・Signalの[Power], [Mute], [GND]
    → Pi Picoの16ピン(GP12), 17ピン(GP13), 18ピン(GND)

○Raspberry Pi Pico

 ・11ピン(GP8)
    → LEDポートの青色LEDアノード
 ・12ピン(GP9)
    → LEDポートの赤色LEDアノード
 ・13ピン(GND)
    → 押しボタンスイッチ
 ・14ピン(GP10)
    → 押しボタンスイッチ
 ・16ピン(GP12)
    → リレーユニットのSignal[Power]
 ・17ピン(GP13)
    → リレーユニットのSignal[Mute]
 ・18ピン(GND)
    → リレーユニットの[GND]
 ・32ピン(GP27)
    → モバイルバッテリー受電部の分圧抵抗の中間点(計測点)
 ・33ピン(GND)
    → モバイルバッテリー受電部のUSBコネクター[-]
 ・38ピン(GND)
    → モバイルバッテリー受電部のピンソケット[-]
 ・39ピン(VSYS)
    → モバイルバッテリー受電部のピンソケット[+]

○LEDポート

 ・赤色LED
    → Pi Picoの12ピン(GP9)
 ・青色LED
    → Pi Picoの11ピン(GP8)
 ・+共通ライン
    → リレーユニットの電源接点b
    → 各ボードのVcc
 ・-共通ライン
    → 降圧DCDCコンバーターの[GND]
    → 各ボードのVccとペアの[GND]
    → ケースのアースポイント

○押しボタン

 ・両端子間に0.1μF積層セラミックコンデンサーをハンダ付け
 ・片端子をPi Picoの13ピン(GND)
 ・もう一方の端子にカーボン抵抗2kΩをハンダ付けしてPi Picoの14ピン(GP10)

○マイク用3.5mmステレオミニジャック

 ・マイク用ジャック
    → マイクアンプのMic.(L), Mic.(R), GND

○イヤフォン用3.5mmステレオミニジャック

 ・イヤフォン用ジャック
    → ヘッドフォンアンプのOutput(L), Output(R), GND

○ケースのアースポイント

 ・アースポイント
    → LEDポートのGND

配線の量がかなり多いので、誤配線がないようにテスター等でしっかり確認します。
上記「○押しボタン」のコンデンサーとカーボン抵抗はチャタリングの防止対策です。以下に回路の略図を示します。


6.ケースの加工と仕上

 もっとも緊張するケースの加工です。これも好みで自由にデザインを考えてください。ケースの黒塗りの部分は薄いフィルムが貼られているので、鉛筆などで軽く線引きしても事後にフィルムを剥がすと跡は残りません。慎重に位置決めしてから加工に着手してください。
 加工に必要な工具類については最初の章でも取り上げましたが、前回の『29. 聴力補助ツールHAT21の作成』の「4(2)便利な工具」を、また加工や組み立て方法については、それに続く「5.ボード類の作成と組立」を参照してください。

 ケースの加工が終わると、ケースカバー(上蓋)の内側に絶縁をほどこします。金属カバーがボード類の部品や配線とショートするのを防ぐために、クリアファイルを切り取って糊付けしました。
 そして、配線ができ上がっているシャーシーをケースに収めます。続いて
  ・モバイルバッテリー受電部のUSBコネクターのスペーサーを調整して位置を合わせる。
  ・LED取り付け穴に3mm LED用ブラケットをはめ込む。
  ・LEDポートのスペーサーを調整して高さを合わせ、青色と赤色LEDをブラケット位置に合わせる。
と進めて、さらに押しボタンと2つのステレオミニジャックを取り付けます。
 最後に、背面の通風穴のひとつに金属製のネジを通して、リード線などをしっかり締め付けてアースとし、LEDポートの(-)共通ラインに配線します。
 下の写真は完成したHAT22です。今の時点ではまだPi Picoが空っぽなので何もできませんが、必要ならリレー回路をショートしたり、オーディオユニットの部分を独立させたテストを行うことは可能です。ただしその場合は、Pi Picoに電気を供給している第39ピン(VSYS)のピンヘッダーは必ず外してください。

次回はRaspberry Pi Picoに制御プログラムを書き込んで、いよいよ最後のテストを行います。