9. 〔追補〕ALCマイクアンプによる衝撃音対策

 とても聴きやすい、完成度の高いものができたと喜んだのでしたが、衝撃音に対応できない問題は何としても解決しなければなりません。検討の結果、ALC機能を内蔵した日清紡マイクロデバイス製のオーディオアンプIC、NJM2783Vでマイクアンプを作り直すことにしました。
 ところが、マイクアンプのサイズが大きくなってしまってケースに収まらない。そこで、グラフィックイコライザーも専用ICを探してコンパクトなものを再作成することになりました。これによって今までのバッファアンプが不要になり、その部分にマイクアンプを押し込んでサイズの問題は解決です。ただし、グラフィックイコライザー用の専用ICは現在入手が難しいので、互換ICを検討することが必要になるかも知れません。
 再製作でもあり解説は最小限に留めているので、以前の関連情報を参照してください。なお、その他のボードやRaspberry Pi Picoのプログラムに変更はありません。



1.ALC内蔵マイクアンプIC

 マイクアンプ用のICとして、前述のようにALC内蔵のNJM2783Vを採用することにしました。これは秋月電子からALC内蔵モノラルマイクアンプNJM2783VのDIP化キットとして入手できます。DIP化基板に付属のピンヘッダーをハンダ付けすることで、14PのICソケットに装着することができます。
 NJM2783はローノイズ、高電圧利得のマイクアンプおよびバッファ用アンプを内蔵し、さらに、過大入力による信号歪みを抑制するALC(Auto Level Control)機能をもっているので、目的にぴったりと思われます。
 主な特徴は以下の通りです。
・動作電源電圧:+2.7~+13.0V
・モノラルマイクアンプ
・Auto level control内蔵
  外部素子によるリミットレベル調整:200mVrms~2Vrms
・外部素子による電圧利得調整:+20~+63dB
・ゲイン切り替え機能:0dB/+20dB 選択可能
・バッファアンプ内蔵
・低入力換算雑音電圧:1μVrms typ.
・バイポーラ構造
このようにNJM2783はモノラルアンプなので、ステレオ用に2組用意します。


2.マイクアンプの製作

○回路図

 回路はNJM2783 PDFデータシートの応用回路例に従っています。ステレオにするため次の回路を2組作成します。

 NJM2783の11ピンは外部から操作できるスイッチに接続して、ノーマルな状態ではショートさせてALCを有効にします。逆に非ノーマルの状態では接続をオープンにしてALCを無効にします。
 通常ではALCを有効にして自動的に入力レベルを調整し、衝撃音の回避と聴きやすさを優先します。スイッチ操作でALCを無効にすると、音楽の演奏や自然の音など原音の音量レベルを忠実に再生することを可能にしています。


○所要部品

 必要な部品類は以下のとおりです(価格は秋月電子通商調べ)。
No.名    称数量参考単価備  考
1両面スルーホールユニバーサル基板 3 * 71\40
2ALC内蔵モノラルマイクアンプ NJM2783 DIP化キット2\140
3半固定ボリューム 10kΩ2\50
4電解コンデンサー 1μF 50V4\10
5電解コンデンサー 4.7μF 50V4\10
6電解コンデンサー 10μF 50V6\10
7カーボン抵抗 330Ω 1/4W2\11袋100本入り単価
8カーボン抵抗 4.7kΩ 1/4W2\11袋100本入り単価
9カーボン抵抗 47kΩ 1/4W2\11袋100本入り単価
10分割ロングピンソケット 1 x 42 (42p)1\80使用するのは少量
11その他配線など少々


○配置と配線

 完成品の外観と外部接続端子の機能です。
 入出力や給電部分にはロングピンソケットを設置しています。

 上から見た部品配置と裏面の配線の状況です。


3.グラフィックイコライザー専用IC

 アナログで使用できるグラフィックイコライザー専用ICは、多くが製造中止になっていて入手が困難です。ここでは三菱電気製の「5素子グラフィックイコライザー M5226P」を使用しています。入手できない場合は、サンヨーIC「LA3600」が完全互換があるとされていますが、これも製造中止品です。
 M5226Pの特徴は次の通りです。
  ・出力バッファアンプ内蔵
  ・動作電圧 9V(5~15V)
  ・周波数帯
     108Hz, 343Hz, 1.08kHz, 3.43kHz, 10.8kHz
  ・データシート
     https://www.alldatasheet.jp/datasheet-pdf/pdf/140262/MITSUBISHI/M5226P.html


4.6バンドグラフィックイコライザーの製作

○回路図

 回路はデータシートの「APPLICATION EXAMPLE (7-ELEMENT)」を参考にして、6バンドにすることに決定。M5226Pは5バンド用なので、低域側の1バンドはトランジスタで構成することにします。ステレオにするためにこれを2組作成します。ただし、手持ちの部品の関係で一部を変更しています。トランジスター2SC2803は2SC1815GRに、オペアンプM5218はNJM4558DDにそれぞれ変更。またアクティブフィルターのコンデンサーは、入手可能なのものが限定されることから変更しています。

 6バンドの周波数帯域の\(f_0\)は、以前の8バンドイコライザーで最高域の9.8kHzがほとんど変化を感知できなかったことから、今回は除外して6.76kHzまでとしました。コンデンサーの容量と各バンドの周波数帯の関係は次の通りです。
\(C_a(μF)\)\(C_b(μF)\)\(f_0(Hz)\)\(Q\)
 1.0 0.06867.6 28.87 
 0.68 0.04798.6 28.63 
 0.33 0.022206.9 29.15 
 0.047 0.00331.42k 28.41 
 0.022 0.00153.07k 28.83 
 0.01 0.000686.76k 28.87 


○所要部品

 必要な部品類は以下のとおりです(価格は秋月電子通商調べ)。
No.名    称数量参考単価備  考
1片面ガラス・ユニバーサル基板 72 x 48mm1\80
2両面スルーホールユニバーサル基板 3 * 71\40
35素子グラフィックイコライザー M5226P2\213
4オペアンプ NJM4558DD1\198個入りの1個単価
5丸ピンICソケット(8P)1\15
6丸ピンICソケット(16P)2\30
7トランジスター 2SC1815GR2\51パック20個入り単価
8カーボン抵抗 200Ω 1/4W2\11袋100本入り単価
9カーボン抵抗 1.2kΩ 1/4W2\11袋100本入り単価
10カーボン抵抗 4.7kΩ 1/4W2\11袋100本入り単価
11カーボン抵抗 6kΩ 1/4W2\11袋100本入り単価
12カーボン抵抗 10kΩ 1/4W2\11袋100本入り単価
13カーボン抵抗 47kΩ 1/4W2\11袋100本入り単価
14カーボン抵抗 68kΩ 1/4W2\11袋100本入り単価
15半固定ボリューム 100kΩ12\50
16フィルムコンデンサー 680pF 50V2\10
17フィルムコンデンサー 1500pF 50V2\10
18フィルムコンデンサー 3300pF 50V2\10
19フィルムコンデンサー 0.01μF 50V2\10
20フィルムコンデンサー 0.022μF 50V4\10
21フィルムコンデンサー 0.047μF 50V4\10
22フィルムコンデンサー 0.068μF 50V2\10
23メタライズドポリエステルフィルムコンデンサー 0.33μF25\25
24メタライズドポリエステルフィルムコンデンサ- 0.68μF2\71単価は共立エレショップ調べ
25メタライズドポリエステルフィルムコンデンサー 1μF2\40
26フィルムコンデンサー 1000pF 50V2\10
27分割ロングピンソケット 1 x 42 (42p)1\80使用するのは少量
28L型ピンソケット 1 x 6 (6P)1\20
29耐熱電子ワイヤー 1m x 10色1\300
30ピンヘッダ(オスL型)1 x 40 (40P)1\50使用するのは少量


○配置と配線

 72 x 48mmユニバーサル基板上に左右6セットのアクティブフィルターを組み付けた本体部と、その上にブースト/カットを調整する12個の半固定ボリューム群を取り付けたコントロール部で構成します。両者は8ピンのピンソケットとピンヘッダーで結合しています。ただし、実際に配線しているのは6つのピンで、両端の2つのピンは支柱として使っているだけで配線はしていません。
 完成品の外観と外部接続端子の機能です。入出力や給電部分にはロングピンソケットを設置しています。

 本体部の上から見た部品配置と裏面の配線の状況です。ピンソケットの外側2つは配線していません。
 コントロール部の上から見た部品配置と裏面の配線の状況です。ピンヘッダーの外側の2つは配線していません。また、6Pのピンソケットは両側にBoost/Cutをつなぎ、中央の2つは未使用です。


5.HAT22既存ボードとの取り替え


 二階建て構造にしていたヘッドフォンアンプとバッファアンプから、バッファアンプと接続している配線をすべて取り外します。次に、ヘッドフォンアンプは左手前の六角スペーサーを取り除いて、3本のスペーサーで元の位置に取り付けます。このようにすることで、サイズが大きくなったALC内蔵マイクアンプボードを、ヘッドフォンアンプの下に潜り込ませて取り付けることができます。
 次に、グラフィックイコライザーとそれに接続している配線をすべて取り外します。この部分は、今回製作した6バンド・グラフィックイコライザーと総取り替えします。

 続いてボード間の配線をやり直します。配線は従来どおりオスL型ピンヘッダーにワイヤーをハンダ付けして、ボード間のピンソケットを接続します。

・マイクアンプとグラフィックイコライザーの電源を、共通電源ラインへ接続する。
・マイクアンプの入力端子にマイク用3.5mmステレオミニジャックを接続する。
・マイクアンプの出力端子とグラフィックイコライザーの入力端子を接続する。
・グラフィックイコライザーの出力端子をヘッドフォンアンプの入力端子と接続する。


 そして、今回新たにALCを有効化/無効化するためのスイッチを設置して、マイクアンプの「ALC On/Off」端子から配線します。スイッチの種類は好みに合わせて、2回路をON/OFFできるものを選択します。ここでは、秋月電子から6Pトグルスイッチ 2回路2接点を購入(130円)しました。
 ケースの前面パネルの適当な位置に穴を開けて取り付けて、ノーマル位置(このスイッチでは中点)で左右のALCがGNDとオープンになる、つまりALCが無効になるようにし、スイッチが上下に位置している時にGNDに接続されてALCが有効になるように配線します。写真のように、ここでは中点の部分にマイクアンプのALC端子から左右(L・R)を接続し、ON/OFF側をGNDに接続しています。

 〔作業完了後のHAT22〕


6.評価と今後の課題

 完成品の外観は下の写真のとおりです。スペースの関係で、トグルスイッチはマイクとイヤフォンジャックの間に設置しました。通常の会話の聴き取りでは、写真のようにスイッチのレバーを上または下に倒した状態で使用します。前述のようにこの状態ではALCが効いているので、危険な衝撃音からガードされています。そして原音の音量レベルを忠実に再生したい場合にはレバーを真ん中にしてALCを無効にします。


 まだ十分なテストをしていませんが、衝撃音対策ができたことで安心して使用することができます。モバイルバッテリーの持ちもまずまずで、残量のインジケーターが半分を切ったあたりで充電するので問題ありません。ただ重量とサイズについては、現在の自分の技術でこれ以上コンパクトにするのは難しいので、妥協しています。

 デジタル版のHAT21と聴き比べると、スッキリとした音色と明瞭感ではアナログ版HAT22に軍配です。全体を通してアナログ版は素晴らしく、自分は当分このHAT22を愛用することになりそうです。しかし一方で、今回の開発を通して、一部の専用ICが製造中止で入手困難であることなど、今さらながら世界はデジタルに移行していることを強く感じています。
 これはデバイスの問題だけでなく、今後、特定のノイズを消去したり、音声が他の音と混じりあうシーンで特定の音声だけを聴きやすくするような機能を考えると、プログラムの変更で簡単に対応できるデジタル版は圧倒的に有利と言えます。したがって今後も、デジタル処理で生じる遅延の問題や、それを余裕をもって処理できる高性能処理装置、安定したリアルタイムサウンド処理ソフトウェアなどについて、引き続き注視していきたいと思います。