1.桜井駅から談山神社(たんざんじんじゃ)へ
青春18切符で岡山から鶴橋駅まで移動し、近鉄大阪線の急行に乗り換えて桜井駅へ着く。そのまま北口へ出ると懐かしい山辺の道の道標が立っている。
コミュニティバスを利用するため、連絡通路を通ってJR駅舎の南口へ出る。すでにお昼時なので、バス待ちの間に助六弁当を開いて海苔巻きを頬張る。
助六は夏場でも傷みの心配が少なく、移動しながらでも食べられるので重宝する。時間の制約があるので、バスの中でもモグモグと平らげてしまう。およそ25分で談山神社バス停に到着する。
バスで来た道を少し戻ると「談山神社徒歩入口」の道標があり、折れ曲がった階段を下りて行く。この階段の傾斜はかなり急でジグザグと続き、復路では山歩きよりキツいだろう。道なりに進むと新たな道標があり分かりやすい。
参道の左には土産物や軽食の店が並ぶが、どこもシャッターが下りている。右側には苔むした石灯籠が綺麗に整列。
談山神社に着いた。石柱に「別格官幣社談山神社」とある。別格官幣社は国家のために特別な功労があった人物を祀る神社の格付けで、談山神社には藤原鎌足公が祀られている。手水舎で水を使う。
入山拝観料は600円。ところが正面入山受付は閉まっていてフリーパス。今日は特別サービスデーかとご機嫌で石段を上がる。
そうではなかった。途中に通行止めフェンスがあり「ここからは登れません。手前左の道をお進みください」の貼り紙がある。指示された道を進むと西入山口の受付があり、規定の入山拝観料を支払う。
2.談山神社参拝と境内散策
受付から少し進むとこんな風景が広がる。まずは木造の十三重塔をフォーカス!
階段を上がると右手に重要文化財の神廟拝所(しんびょうはいしょ)。今年の干支、極彩色の大きな酉の絵馬が飾られている。
左手には末社の総社拝殿が建つ。これも重要文化財である。この地のケヤキから彫りだした高さ3mの福禄寿大神が祀られている。神廟拝所と総社拝殿の間の広場は「けまりの庭」と呼ばれ、年2回、昭和の日と文化の日に「けまり祭」が行われている。
一段高いところに建つのは権殿(ごんでん)で、祭神は芸能・芸術にたずさわる人たちの守り神であるマダラ神。室町後期に再建された重要文化財である。その東にそびえる十三重塔は高さ約17m、現存する木造のものとしては世界唯一の貴重なもので重要文化財。藤原鎌足の長子が父を供養するために白鳳7年(678年)に創建したものだ。
東の続きにあるのは校倉(あぜくら)造りの西宝庫で、そのあたりから正面入山口の石段を見下ろすことができる。
さらに東奥正面には絢爛豪華な桜門と本殿。大宝元年(701年)の創建で、現在の本殿は嘉永3年(1850年)に造り替えられたもの。本殿の右は拝殿で、ぐるりと巡らされた吊り灯籠は趣がある。
本殿と拝殿の中庭の美しい空間。写真右は拝殿の床下で、朱の柱と梁が幾何学模様を描き、地面の箒目が涼やかだ。本殿も拝殿も桜門もすべて重要文化財である。
登山口へ向かうために十三重塔の方へ引き返す。権殿を通り越すと末社の比叡神社で、登山口はそこにある。
3.御破裂山(ごはれつやま)と談山(かたらいやま)に登る
「談山 これより290m 徒歩約10分」「御破裂山 これより510m 徒歩約20分」の道標。時刻は13時53分、ゆるい階段の坂を登り始める。木々が多いので日射しの暑さが緩和される。
よく整備された階段は歩きやすく、少しデコボコした坂もスニーカーなら問題ない。
10分足らずで談山への分岐が現れるので、まずは右にとって談山へ登る。
すぐに山頂に着く。解説板と「御相談所」と刻まれた石碑がある。中臣鎌足(後の藤原鎌足公)と中大兄皇子(後の天智天皇)はここで談合したんだなと思いながら、ベンチに腰を下ろして小休止。当時はどうだったか分からないが、現在の談山山頂は雑木で周囲を遮られ、密談にはもってこいの場所である。ややあって腰を上げ、先の分岐へと下りる。
分岐から先は杉林の尾根道を快適に歩き、10分もしないうちに次の分岐と道標が現れる。
この付近に三角点があるはずなので地図で位置を確認して、道標の「談山神社(西大門)明日香方面」へと横道にそれる。
両側の木立に注意しながら進むと、右手に白テープと小さな山頂標識らしきものが小枝にくくりつけられている。三角点大好きハイカーが、同好のハイカーへの心配りで付けたマークに違いない。右脇に獣道のような細道がついている。
そろりと踏み込んで前進すると、果たして、ポッカリとした空間が現れて四等三角点を発見。傍の木に個人やグループが作成した山頂標識がいくつもひしめき合っている。こんな風に三角点を探すのも山歩きの楽しみだ。
元へ戻って尾根道を少し進むと陵墓のような雰囲気になってきた。
ここが三角点よりわずかに高い御破裂山の山頂である。解説板には海抜618m、山頂には藤原鎌足公のお墓があり、古くから国家に不祥事がある時に「神山が鳴動した」記録が多数残っていると記されている。
裏側の展望台へと移動する。「大和さくらい100選ビューポイント」の掲示があり、素晴らしい眺望を期待する。
が、何としたことか、木が茂っていてほとんど見えない。それにモヤがかかっていて見通しが利かない。中央の木から右寄りに見えているのは畝傍山だろうか。近くに設置されている「大和平野展望地図」も薄汚れていて、ちょっとガッカリ。
4.下山してバス停へ
下山は楽だ。山頂から7~8分で談山分岐を通過する。
登りでは気付かなかったが、枕木のような角材を並べたのは橋で、下を渓流が静かに流れている。
15分ほどで神社の建物が見え登山口に帰着した。小休止や三角点探しを含めて1時間足らずで二山を巡ることができた。
西入山口から出る前に、もう一度境内の風景と十三重塔をカメラに収める。また紅葉の季節に訪れてみたいものだ。
往路を引き返していると、石灯籠の列の手前にひときわ大きいのを見つける。後醍醐天皇が寄進したもので重要文化財に指定されている。それにしても今日は重要文化財をいくつ観たのだろうか。そのほとんどは建造物だったが、このほかにも刀類や像・図録などが沢山あるようで、談山神社そのものが宝物のように思われる。
かくして心配した雷雨にも遭遇することなく、予定の時刻よりかなり早めに無事帰着する。近くの軽食・お土産店で冷たいものをいただき、格安のブルーベリーを購入する。それを潰さないように気をつけながら余裕をもって乗車し、定刻の15時32分に桜井駅へ向かう。