1.三田駅~香下寺~香下登山口
今回の羽束山へのアプローチは、三田駅北口11時40分発の阪急田園バスに乗車できるかどうかにかかっている。姫路からのJR新快速上りの遅れで中止に追い込まれそうになりながらも、何とか間に合った。
香下(かした)バス停には15分ほどで到着し、進行方向に200mばかり進むと「羽束山・香下寺」の道標が設置されている。この道は北摂里山街道で、そのまま東に向かうと能勢妙見山麓に至る。ところで香下寺の呼び名だが、道標には「Kashitaji:かしたじ」とあり、その他に「こうげじ」「こうしたじ」などとも呼ばれているようである。ここでは一貫して「こうげじ」としている。
畑中の舗装道を進むと正面に羽束山が見える。500mほど上がると広場に出る。
広場の左は摂津国三十三カ所第十一番霊場の香下寺(こうげじ)で、境内には十一面千手観音、弘法大師像、不動明王像が立っている。
広場正面の薬師堂に参拝して右に進むと羽束山登山口である。道標の下に小さく「羽束山・甚五郎山登山口」と書かれている。ここからスタートだ。
2.八王子神社~六丁峠~山頂へ向けて
登山口のすぐ先に八王子神社があり参拝する。ここには登山者のために沢山の杖が備えられている。
八王子神社の先で舗装道路は終わり、やがて石段の参道がはじまる。
最初に出合ったのは十丁の丁石。古道と呼びたくなるような荒々しさがある道、閑かな道である。
石に刻まれた六丁の文字。そこからしばらく行ったところに八丁の丁石が立つ。ということは、先の六丁は「六丁峠」への道標だったらしい。
六丁峠には八王子神社から15分で到着。近くにライオンのような形をした石があった。
赤い毛糸の帽子をかぶったお地蔵さんが祀られ、「南無阿弥陀仏」の石碑が並び建っている。土地の人だろうか、軽装の男性がやって来て挨拶を交わす。
六丁峠から石段を少し登ると展望の良い岩場がある。ガスに霞む風景、下方に千刈(せんがり)貯水池、向こうには布見ヶ岳や大岩岳が見えているはずなのだが・・・・。
小さな祠があり、道が平坦になってきた。
木道を通過すると「山頂まであと450m」の道標。
石段をひと登りすると、苔むした岩の上方に小さな祠が祀られている。
「山頂まであと200m」の道標が現れ、丁石は「三丁」に変わった。ここで甚五郎山のことを思い出して地図を開く。六丁峠を右折して甚五郎山を往復するつもりだったのだが、完全に忘れていた。もはや引き返すわけにはいかず諦める。
「山頂まであと100m」の道標を見て石段を登ると、羽束神社・展望台と観音堂の分岐道標が立つ。山頂はすぐそこだ。
3.羽束山山頂風景
道標を右にとると奥の方に御堂が見えてくる。屋根は寄せ棟の宝形造(ほうぎょうづくり)で、金色の宝珠を頂いている。堂の屋根の前方が中央に張り出した向拝のバランスも良く、とても美しい御堂だ。
御堂の前に立ち、縄を引いて鰐口(わにぐち)を打ち鳴らす。左に据えられた、胴がくびれた石の花生けに木札がくくり付けられている。墨書きで「羽束山 神と佛と 宴する」の一句。なるほど、山頂広場にはこの御堂と隣り合って羽束神社が並び建っている。小高い位置にある鐘楼に上り、拝礼して鐘を撞く。振幅の大きいウェーブが遠く山並みを渡って行く。
南へ回り込んで羽束神社に参拝する。その近くに手書きの山頂標識板があった。
すぐ近くの展望岩で家族連れがくつろいでいた。お邪魔して、楽しみにしていた展望岩からの眺めを確かめるが、ガスが深くて判然としない。案内板によると遠く播磨灘まで望めるようなのだが、残念。ご主人から大船山を教えていただき、身を乗り出して少しズームを効かせてカメラに収める。付近の山の話に加えて、春の旧福知山線廃線跡が素晴らしいことなど、奥様ともどもお話しいただいた。独りの山歩きにあって最高に嬉しいひとときだった。
4.峠~木器住宅地
ご家族にお別れして観音堂まで戻り、御堂左の小さな道標にしたがって下山に取りかかる。
急坂なのでストックを取り出し、バランスに気をつけながらどんどん下りる。7~8分進むと段差の大きい岩場があり、ロープが取り付けられている。これがなければ、かなり手間取ったに違いない。
さらに岩場が続き、ロープの補助でスリップしやすい斜面を慎重に下りる。
下り初めて20分ほどで峠に着く。四差路になっていて、左は香下寺へのショートカットコース、右は木器(こうづき)方面への下山道、直進すると宰相ヶ岳に通じる。宰相ヶ岳の三角点に立ちたかったのだが、ガイドブックでの所要時間とここから先の下山道情報が見通せていないこともあり、安全サイドに立って木器へ向かうことにした。
路面は落ち葉あり石あり倒木ありだが、踏み跡は確認でき、要所では木に付けられたピンクテープが手がかりになる。何度も倒木をくぐり、またぎ抜けながら進む。
こんな場所もあって、登りの参道とはかなり様子が違う。そんな中で、椿の花が現れたり数少ない道標に出合うとホッとする。
ところが、突然通行止めに! 「迂回路」の表示がありロープで誘導される。
小さな橋を飛び越え、かなりの傾斜をよじ登ることになる。
続く急坂を下ると、スチール梯子が待っていた。
梯子を登ってビックリ! これは山腹崩壊ではないか! が、後で調べて明らかになったのだが、このあたりは何年間も砂防ダムの工事を行っているのだった。写真を細かく見ると、パワーショベルの先に砂防ダムらしきものが写っている。山道が終わり、白い舗装道路を下って行く。
大きなゲートが見えてきた。害獣防御のために通過後はきちんと閉めてロックする。
正面遠くに大船山がそびえている。やがて木器の住宅地が間近になった。
5.木器バス停からJR三田駅へ
木器の明るい居住地を抜けると、県道323号とクロスする標識。これでルートは間違いない。
バス停へは県道を左折するのだが、時間に余裕があるので右折して羽束橋を確かめる。引き返してバス停に向かうと右手に鈴なりの柿。その向こうに白いのは木器郵便局だ。
県道37号線と県道323号の合流点に木器バス停がある。上り下りを確認して、間違いなし!!
JR三田駅へは県道37号を走るが、路幅が狭い。対向車があるとバスは急に速度を落として、ほとんど停止状態のノロノロ運転。ところが、すれ違うやいなや猛烈にダッシュして時間を稼ぐ。ふ~む、何故かしら今は昔、こんな運転をする先輩と移動していた、サラリーマン新入生時代を思い出す。
かくして帰着したJR三田駅プラットフォームには、午後4時前にもかかわらず駅名標の照明が灯っていた。帰路の電車では大船山のことなどが頭を掠め、早くも今年の山行プランが心中を去来する。