1.JR相野駅から登山口へ
「本日、熱中症による病院搬送者は少なくとも669人、5人が重体」とは帰宅後のNHKニュース。熱中症かどうかは定かでないが、移動中のJR新快速でも、前方車両において体調を崩した乗客がいて遅延が発生する旨の車内アナウンス。接続時間を気にしながらも無事相野駅に到着して清水寺行きのバスに乗り換える。
大勢乗り込んで発車するが、しだいに土地の人たちが降り、神戸陶芸美術館で6~7人のグループが降車すると4人になってしまった。結局、清水バス停で降りたのは自分だけ。付近に立派で清潔なトイレがあり、まずは出発の準備をする。
バス進行方向に進むと登山口の標石が立つ。
車道は清水寺が単独で切り拓いた「きよみづ登山道」で、標高500mを超える霊場に車で参拝することができる。バスを含む車両の通行は維持管理のための入山料500円を収めるが、遍路道を歩いて登る人は必要ない。遍路道の登山口は有料道路のゲート手前左にあり、「播州清水寺登山口」の標石が立っている。
2.久米坂分岐~法華山分岐を経て清水寺へ
遍路道の入口にはお地蔵様や祠が並ぶ。参道の全長は約2kmで、丁に換算すると18丁(1丁≒109m)、時間は約40分との表示。祠のそばに「十八丁」の丁石が立ち、遊歩道の案内図が設置されている。実際の参道は図よりもっと蛇行しているが、それだけに傾斜が緩く疲労感は少ない。
最初はとても平坦な道で始まり、すぐに「十七丁」の丁石と出会う。その先もなだらかな歩きやすい道が続いている。
十五丁を過ぎたあたりから石が飛び出したデコボコの路面が現れる。間もなく「十二丁」を通過する。
途中にはところどころベンチが設置されている。ゆっくり歩いているのでほとんど休憩は必要なく、「十丁」を通り過ぎる。
文字が消えかかっているのだが「ここは近道ではありません」と読める表示板。その奥に道があるように思えるのだが入るのは差し控える。
実は今回、国土地理院地図に記載されているルートとGoogleマップなどのルートがまったく違うので、いくつかのマップを携帯して歩いている。この辺りが食い違いのポイント地点のように思われる。根拠はないのだが、表示板の向こうには古い道があるのかも知れない。ついでながら、歩きこまれた遍路道なので道筋は明瞭、丁石で現在位置を確認できるので基本的に地図は必要ない。しばらく進むとゴツゴツした道の向こうに八丁の丁石が見えてきた。
根っこ道を進んで六丁を越えると地蔵の立つ久米坂道分岐に着いた。この久米坂がどこに通じているのかは分からない。
角地に墓地があるので上ってみる。墓碑や供養塔、お地蔵様が並んでいて、いくつかの墓碑には「大阿闍梨」と刻まれている。徳を積んだ高僧が眠っているのだろうか。
五丁を過ぎると休憩所の東屋が建っている。ここ数日と同様に気温が高く、木陰が多いにもかかわらず汗がしたたり落ちる。しかしほとんど疲労感がないのでここは通り過ぎる。
すぐ先に稚児岩が現れた。解説板に「永徳3年(1386年)南朝忠臣赤松氏範が、山名・細川の大軍に攻められ、観音様の警告によって、薩摩へ陥ちるべく、郎党二人をつけて五男乙若丸13才と決別した場所です」とある。
登山口からゆっくり歩いて55分、法華山分岐に到着した。ここから清水寺への長い階段が始まる。
狛犬に迎えられてさらに階段を登って行く。
3.清水寺境内散策と山頂探し
階段が終わると清水寺の境内で、緩やかなスロープを上がると左手に落ち着いた風情の門があった。
美しい庭を見ながら、石を敷き詰めた道を進んでさらに門をくぐる。
どっしりとした優雅な建物は本坊で、手前左には客殿が建つ。御嶽山の杉材で造られているそうである。本坊の玄関を撮影していたら女性が通りかかったので、スタンプ&クイズラリーについて尋ね、スタンプ台紙をいただく。最初のスタンプは「本坊・客殿」でスタートだ。
本坊から東へ真っ直ぐに延びる階段を登ると大講堂である。この御堂も御嶽山の杉材を使用しているとのこと。御本尊は十一面千手観世音菩薩、靴を脱いで御堂に入り参拝する。少しばかりお土産を買い求め、堂の外から仏のお姿をカメラに収める。
大講堂から階段を挟んで建つ地蔵堂には、地蔵菩薩と共にたくさんのお地蔵様が祀られている。
地蔵堂と反対側に建つ鐘楼。この鐘の音は播磨、丹波、摂津の国に響きわたり、開運の鐘として親しまれているそうである。
一段高い位置に建つ凝った造りの根本中堂は、御堂の外から参拝する。御本尊は十一面観世音菩薩である。
階段を上がるとわずかに高い位置に宝篋印塔(ほうきょういんとう)がある。般若心経の写経3,333巻が納められているそうである。
一番高い位置にある大塔跡(多宝塔跡)に登る。残念ながら残されているのは礎石の跡だけである。しかし礎石の配置と形状を眺めていると、美しい多宝塔の姿が浮かんでくる。
明示されてはいないが、大塔跡が山頂と思えなくもない。北側に小高い場所があるので、もしやこれが山頂ではと探索に出かける。ところが上部に貯水槽のようなものがあるものの、そこへ上る木段は朽ちていて容易にはたどり着けない。途中まで登って背伸びしてみるが上に標識のようなものは確認できず、山頂探しを断念する。裏側には共同アンテナのようなものが設置されていた。
少し離れた場所にある滾浄水(こんじょうすい)まで出かけて、隣接したベンチで昼食をとる。説明板によると、清水寺を開基した法道仙人が水神に祈って湧出した冷泉で、寺が清水寺と称される由緒の地であるとのこと。この井戸に顔を写すと寿命が3年延びると言い伝えられているとかで、真剣にのぞき込むが、水面が薄暗くて写りが今ひとつのような感じも・・・。
こうして御堂などを巡りながら、その都度スタンプを押し、簡単なクイズの答えを書き込んできた。残すは3カ所だがしだいに下山予定時刻が迫ってくる。
薬師堂を訪ねて薬師如来を拝す。その近くに芭蕉翁の発句塚と句碑がある。句碑には、
名月や どの山見ても 皆低き
とある。句は朗霞庵古谷(ここく)88歳の作品だそうで、芭蕉翁発句塚との関係は分からないが、口ずさむとちょっと笑えてしまう。
月見亭は、旧暦7月26日の大法要「二十六夜待」の折り、遅い月の出を待つのに最適な場所だそうだ。近くに赤松氏範(うじのり)の切腹石がある。
最後のスタンプを押す仁王門の位置がわからず、行きつ戻りつで到達。立派な仁王門である。
これで10カ所すべてのスタンプを集めたのだが、花の観賞が後回しになってしまった。月見亭に近い紫陽花道へ少しだけ踏み入ってアジサイを愛でる。
残り時間がいよいよ少なくなり、ふたたび大講堂へ戻ってスタンプ&クイズラリーの結果をチェックしてもらい、記念品をいただく。
4.往路を下山する
大講堂から西に向かって進むと、本坊の門前を通って長い階段へと行き着く。その途中に古い円筒型のポストがあった。庭のような一角に苔むしてオブジェと化している。
往路を落ち着いて下りて行く。東屋まで9分、さらに5分で久米坂道分岐を過ぎる。
往路では気付かなかった美しいアジサイを眺めながら、42分で登山口に下り立つ。
4分待ちでバスに乗車して、相野駅には15時36分に帰着した。右の写真はスタンプ&クイズラリーの台紙とオリジナルグッズ「清水寺の文化財」。10個のスタンプはそれぞれ漢字で、すべて押印すると
無垢 清浄光 慧日破 諸闇 (むく しょじょうこう えにちは しょあん)
という文章が出来上がる。これは観音経の一句で、「観音さまを拝むと、沢山の困ったことなどに、朝日がさすように解決できる」ことを意味しており、播州清水寺住職のメッセージと共に解説文をプレゼントしてくれる。
平日にもかかわらず参拝者はたくさんいたが、巡礼道では誰にも出会わなかった。車で出かけるも良し。しかし時間が許せば、遍路道歩きがお勧めだ。スニーカーなど歩きやすい靴で、つまずいたり滑ったりしないように気をつけると比較的簡単に登ることができる。山中の閑かな道を行けば、ゆったりとした時の流れを楽しむことができる。