1.坂越駅から後山登山口へ
岡山駅から8時30分のJR赤穂線で播州赤穂駅へ着き、乗り換えて坂越駅には9時46分に到着した。駅前を左へ進んで、ひとつ目を左に折れて線路に沿って歩く。
踏切を渡って突き当たりまで直進する。
右に折れて川に沿って進むと、左に「高野山真言宗 西山寺」がある。
左側に注意すると、すぐ先に「高山・雄鷹台山登山口」の標柱が立っている。金網のゲートを開けて入り、準備運動をしてスタートだ。
2.後山三角点を目指して
5分ほど登ると「ユニチカ坂越線 No.13~No.14」のプレートに出合う。送電線路保守用の標識のようだ。取りつきから急坂が待っていた。
送電鉄塔に着く。スタートから10分ほどなのにキツく感じる。登りではめったに使わないストックを取り出し、手袋を着用する。ストックは長く愛用していたものが壊れて、同型を買い換えて今回が使い始めだ。
木段を登ると急な坂。
次の急坂は路面に岩が露出していて滑りやすい。登り切ると何と、車が横転している。
こんなに見晴らしの良い場所に、タイヤや部品を外されてフレームだけになった残骸。見なかったことにして緩やかな道を行く。
黄葉の木々と、その間からの風景を眺めながら進む。
穏やかな散策気分で進んでいると、おおっ、また錆びて朽ち果てた車が放置されている。
その先にゾクッとする風景が見えてきた。平坦な道の向こうが急に盛り上がり、その中央を道がせり上がっている。
進むに連れて路面に小石が散乱している。小笠原諸島の海底火山噴火による軽石被害を連想してしまう。軽石が海流にのって移動するのはわかるが、こんな大量の石ころはどのようにしてばらまかれたのだろうか。が、今はそれどころではない。近づくに連れて急坂がいよいよせり上がってくる。
横幅が広く、どこを登るかを確認する。左上方にロープが見えるのでそこを目指すことにする。しかし、現在の位置では左側の足場が悪いので、中央から取り付いて上部で左に寄ることにした。
手足をフルに使ってここまで登ってきたが身動きできなくなった。次の足掛かりが見つからずストックも邪魔になる。それに足もとの岩が崩れやすくて安定しない。
ズリズリと腹ばいでせり上がって、何とか体を安定させることができた。ストックを片づけてザックに固定し、いつもは使わない腰ベルトをしっかり締めなおす。下を見ると嫌なことを考えそうになるので、遠景に眼をやって深呼吸をする。
上方で人の気配がするが振り向けない。落石を起こさないよう気を配っているようだ。少しして、全身を黒いウェアで包んだ若者が二人、かなり距離をとった場所から声かけしてきた。「大丈夫ですか~」、「あんまり大丈夫じゃないで~す」と返答。「ロープの位置がかなり上にずれているので直します」と、横にスライドするように移動して調整してくれた。
「その位置から黒いロープまで3mほど、そこまで頑張ってください。黒いロープで登ると別に白いロープがあります。それをつかむと上まで登り切れます」とのこと。「移動できますか?」「やってみます」。
腹を地面に着けないように、摩擦係数の大きい手袋と靴の性能を信頼してずり上がる。黒ロープを手にして立ち上がることができた。立ち姿勢を崩さないように小刻みに登り、白ロープをつかんでまた立ち上がる。「ありがとうございます。大変助かりました」とやっと挨拶。「気をつけてどうぞ」と二人が去って行く。登り切った時、二人はもう小さくなり、やがて見えなくなった。
無事に切り抜けたらスリルを楽しめたように感じているのが怖い。だいたい、こんな所から転げ落ちたら助かるまい。こんな場所は歩かないように計画段階でしっかり確認すべきであった。で、この登りに要した時間は20分。お話にもならない。しかしこの時間で通過できたのも二人の若者のおかげであり、感謝だ。
写真左は、脱出してから谷間をのぞき込んだもの。そこから平坦な道に出て振り返ったのが写真右。あの道の先に激傾斜のザレ谷があるとは思えない。これを下ることは自分にはとうていムリだ。
すぐ先に「新道ヲ経テ」の道標があり細道が見える。このルートを使えば先の激斜面は回避できたはずだ。木々のトンネルの道を行く。
ゴロ石の道になった。「中新道ヲ経て砂子」の道標。まだ知らないルートがあるようだ。
ゴロ石の道の先端は柱状節理を形成している。山頂が近づいて平坦な道になった。これは後で知ったのだが、産業技術総合研究所が『赤穂市は恐竜時代のカルデラの中にできた町だったことが判明』というレポートを発表している。それによると、「播州赤穂」地域では後期白亜紀に大量の火砕流を噴出した火山活動が複数あり、巨大噴火によるカルデラができたそうである。その後にカルデラ地形は浸食により失われて、コールドロンと呼ばれる火山体の下部構造が露出した状態にあるとのこと。カルデラとしては国内でも有数の大きさであり「赤穂コールドロン」と命名されているそうだ。
この柱状節理も大量の石ころも、そしてあちこちの路面に突出した岩盤も、そんな過去をもっているんだと納得する。
平坦な道を10分ほど進んで後山山頂に到着する。
まずは山頂標識と三角点を確認してタッチ。
眼下に広がるのは赤穂市南東部の街並み。千種川の向こうは坂越地区。千種川に架かる大きな橋は坂越橋で、そこから手前に突き当たったあたりに坂越駅が見える。坂越地区には生島を包むように、半島に挟まれた坂越湾がある。このあたりは播州赤穂産「坂越のかき」の生産地でもある。
3.雄鷹台山への道
後山山頂到着は11時37分で予定より45分ほど遅れている。こうなるともう、時間のことは気にせず歩こうという開き直りの余裕が生じてくる。3分ばかり進むとT字路になり道標が立っている。直進すると高山、左折すると雄鷹台山と砂子方面である。
雄鷹台山を目指して尾根歩きのスタートだ。少し行くと「至ル砂子」の道標がある。このルートを選択することもできたのだ。
道標の脇から延びる砂子への道。その先で、今回初めて石に腰を下ろして15分の休憩をとる。
ふたたび木々のトンネルをくぐって行くと石積みの祠があり、布袋尊が祀られている。布袋尊の御利益は無病息災や商売繁盛とか。そばの木に「道中安全」の木札が掛けられている。
尾根歩きは軽快だ。緩い上りを進むと「横谷渓谷」「横谷洞窟」の案内板がある。
道が平坦になり、「雄鷹台山頂、塩屋・坂越方面、親水広場」の道標。
山頂近くではモミジと寒椿が隣り合って色どりを競っている。
そこを回り込むと、山頂シンボルの背中が見えてきた。石積みの標石に「昭和10年1月 登山20周年記念 赤穂小学校」と刻まれている。
4.雄鷹台山山頂風景
山頂に着いた。十合目の看板には「標高253m ふもとから 1,243m」。山頂シンボルは再建されたもので「昭和50年1月再建 登山60周年記念 昭和49年度 赤穂小学校卒業生」とある。
山頂には大勢のハイカーたちがいる。後山へ出かけるグループ、東屋でくつろぐ人々も。
楽しそうに話し込んでいる4人組。東屋に近づいたら「はい、写真を撮りましょう」とパチリ。こんな具合に撮影サービスを受けるのは初めてだ。
真新しい風景案内板が設置されているが、残念ながら風景は霞んでいる。天候に恵まれれば四国まで見通すことができるそうである。天空の鉄棒に嬉しそうにぶら下がっている子供たち。
雄鷹台山からは兵庫県の南西部を見渡せる。写真左は千種川河口と赤穂海浜公園方面。右は赤穂の中心街区と工業地帯、西には鹿久居島など岡山県の日生方面が霞んでいる。
昼食は下山してからの予定だったがすでに12時を過ぎている。行程遅れに備えて買っていたタルタルソースのフィッシュバーガーを取り出して昼食をすませる。
もういちど山頂方向を振り返って下山にかかる。
5.ドウダンツツジの紅葉に包まれて
下山の風景は記述しようがない。ただただドウダンツツジの紅葉の美に圧倒されるばかりである。それにしても、なぜこんなに美しいのだろうか。冬の寒さや乾燥から身を守るための巧妙な仕組みとはいえ、最後を迎える葉が発する色彩には感動させられる。
花の季節の美しさは声を出したり歌ったりしたくなるが、紅葉には言葉を失い寡黙になる。歳のせいか、良寛の辞世の歌が思い出されるばかりである。
形見とて 何かのこさむ 春は花 山ほととぎす 秋はもみぢ葉
以下に山頂から八合目へかけての紅葉をピックアップ。下手な写真ではとうてい表現できないのだが・・・。
八合目手前の「八合五酌」に立ち寄って遙か下まで続く紅葉の帯を眺める。木の台に鳥へのプレゼント、ヒマワリの種が置かれていた。
何人が気づいたかな? 八合目すぐ下の道端にひっそりとリンドウの花。
七合目休憩所に到着した。市街地方面と親水広場への道標が立つ。
休憩所には「オタカクラブ千日登山」の記録保持者の掲示板がある。メールをいただいたMさんは、すでに6,000回を達成なさっていることがわかった。掲示板には雄鷹台山の名物「ドウダンツツジ」の他に、「頂上の日の出」「ササユリ」「サギソウ」「タカ(鷹)」の絵が描かれている。机の上には瓶に入った小鳥の餌。
ちょうど千日登山のかたがやって来て、登山記録を記入している。鮮やかな紅葉を見せるハゼノキも、ここでは山道から離れた一角を飾っている。
すぐ下にも登山記録のノートが入ったボックスがあり、近くにあるドウダンツツジには実がついていた。
三合目あたりの紅葉の並木が見える。層を形づくっているような三本のドウダンツツジ。
以下は五合目から三合目までの紅葉と花と道。
前掛け姿のお地蔵さんが現れると二合目の展望台が間近だ。
大きな岩場の展望台。この岩が火砕岩なのだろうか。ここからは階段を一気に下り進む。
太鼓橋を渡るとすぐに大師堂。山行の無事を感謝して参拝する。
最後は長い石段を大師堂登山口に下山する。
踏切を渡って右折するとその先がJR播州赤穂駅だ。お土産は酒の肴に牡蛎の佃煮をゲット。ザックから重い本を取り出したが列車の振動で夢うつつ。