5. イコライザーの製作②

 8バンドのグラフィックイコライザー製作の続編です。前回作成したバッファアンプに接続するグラフィックイコライザー本体を組み立てて配線し、動作を確認します。



1.グラフィックイコライザーの構成

 グラフィックイコライザーは、72 x 48mmユニバーサル基板上に左右8セットのアクティブフィルターを組み付けた本体部と、その上にブースト/カットを調整する半固定ボリューム群を取り付けたコントロール部で構成します。両者はピンソケットとピンヘッダーで接続しています。
 本体部には電源端子と、バッファアンプから左右の1/2Vccを取り入れる端子があります。コントロール部には左右のBoost/Cutををバッファアンプと接続する端子が前面に張り出しています。ピンソケットに差し込んで安定するように、コントロール部前方の中心にプラスティックスペーサーを取り付けています。


 これが本体部とコントロール部の外観です。写真ではわかりにくいですが、コントロール部の奥側には左右に8つのピンヘッダーを取り付けています。


2.本体部の組立と配線

 本体部は、72x48mmのユニバーサル基板にパーツ類を組み付けますが、これはかなり窮屈です。写真のように14ピンのオペアンプ4個をバランスよく配置します。2個ひと組が片チャンネルで、ひと組の左側に、上から順番に50Hz, 100Hz, 200Hz, 460Hz、同様に右側に1kHz, 2kHz, 5kHz, 10kHzのアクティブフィルターを配線しています。
 上部の中央に5ピンのロングピンソケットを取り付けます。左からVcc, GND, GND, 1/2Vcc(Left), 1/2Vcc(Right)です。その両側に8ピンのロングピンソケットを取り付け、それぞれ左から50Hz, 100Hz, 200Hz, 460Hz, 1kHz, 2kHz, 5kHz, 10kHzのアクティブフィルターのコンデンサー(\(C_a\))に配線します。
 裏面は配線がかなり凄まじい状態で張り巡らされているますが、カラーワイヤーの大半はこれらのロングピンソケットへの配線です。

 3組のロングピンソケットの間に、ピンソケット1つ分の間隔をとっていることに注意してください。

3.コントロール部の組立と配線

 コントロール部は、30x70mmユニバーサル基板に、左右8個の半固定ボリュームを上下段に設置したものです。左右の端から、8ピンのロングピンをハンダ付けします。このロングピンは、本体部の8ピンのロングピンソケットと一致するようにしています。
 前方には2Pのピンソケットを2組取り付けて、上下段の半固定ボリュームの共通ラインを、左右のCut/Boost信号端子として集約します。
 裏面でわかるように、上下段それぞれの半固定ボリュームの回転端子を、左右の対応するロングピンに配線しています。そして、共通ラインを左右のCut/Boost信号端子に繋いでいます。

 コントロール部のロングピンを本体部のピンソケットに差し込むことで、グラフィックイコライザーが完成します。次の動作確認をする前に、目視とテスターで配線をチェックしておきます。

4.動作確認

 写真は、バッファアンプとグラフィックイコライザーをジャンパーワイヤーで結線したものです。ブレッドボードは電源供給用で、9V電池の+と-から赤・青のラインに供給し、オーディオユニットの各ボードのVcc・GND端子に接続しています。この写真では、中央上部に2石トランジスターのマイクアンプが接続されていますが、実際のテストでは、このプロジェクトで製作したマイクアンプを接続しています。また下に見えているシールド線は、ヘッドフォンアンプに接続しています。
 バッファアンプからグラフィックイコライザーへの1/2VccとCut/Boostの接続は、左右が混線しないように注意します。グラフィックイコライザーの1/2Vcc(L)には、バッファアンプの1/2Vcc(L)を接続します。そしてそれぞれのBoost(L)とCut(L)を接続します。右側(R)についても同様です。

〔テスト準備〕

 先に写真の説明になってしまいましたが、要は、まずイコライザーとバッファアンプを接続し、その入力部にマイクを繋いだマイクアンプを、また出力部にはイヤフォンを繋いだヘッドフォンアンプを接続します。さらに、電池を接続していない状態で、ブレッドボードの赤・青ラインに各ボードのVccとGNDを接続します。
 耳を傷めないように、まずヘッドフォンアンプのボリュームを絞ります。そして、グラフィックイコライザーのすべての半固定ボリュームの可動部分が、ちょうど真ん中になるように調整します。


〔動作確認〕

 イヤフォンを耳から外した状態で、9V電池の+-をブレッドボードの赤・青ラインに接続します。
 配線に間違いがなければ、ヘッドフォンアンプのボリュームを少し回転させると、マイクからの音声が大きくなります。音質は明瞭で、半固定ボリュームの操作で簡単に大音量になります。耳を傷めないよう気をつけてください。また、電源のON/OFF時、つまり電池をブレッドボードに接続したり取り外す際に発生するポップノイズにも注意してください。
 もし音が割れているようなら、もう一度マイクアンプの出力端子にイヤフォンを繋いで、半固定ボリュームで音量を絞り気味に調整してみましょう。
 続いて、いよいよイコライザーの動作確認です。本来なら測定器を用意して細かな計測をすべきでしょうが、ここは耳を頼りにして進めてしまいます。コントロール部の半固定ボリュームを、左から順番に調整してみましょう。回路通りに配線していれば、上段が左チャンネル、下段が右チャンネルになっています。そして左から右に向かって低音バンドから高音バンドに対応しています。テスト準備で半固定ボリュームの可動部分を真ん中にしているので、すべてのバンドはフラットな状態になっています。
 では、上段の一番左のボリュームを操作してみましょう。これを右に回すと低音部(50Hzのバンド)がブーストされて、左イヤフォンの音の迫力がアップします。逆に中央位置より左に回すとカットされて、音の迫力が失われていきます。下段の方に触ると、右イヤフォンの音の迫力が変化します。このようにして上と下、左から右のボリュームへと移動しながら操作すると、音の聞こえ方がジワリジワリと変化するのが判ります。しかし、一番右のボリュームは10kHzバンドなので、よほど聴力が良くなければ変化がわからないはずです(このバンドは、聴覚補助用としては不要だったかも知れません)。
 グラフィックイコライザーを操作することで、聞こえ方を微妙に、あるいはダイナミックに調整できることがわかります。しかし、この調整はさほど簡単ではありません。フラットな位置から少しずつ変化させながら、自分の聞こえにくい音域がどこかを知るのが第一ステップです。この過程は、耳鼻咽喉科医などで聴力検査を受けて、オージオグラムという周波数帯域別の聴力レベルをグラフ化してもらうのが近道です。聴力が弱っている周波数帯がわかれば、対応するバンドと隣接するバンドを慎重に調整することが可能になります。
 少しずつ、根気よく調整することで、「よく聴こえる」に加えて「疲れないで聴こえる」音に近づくことができると思っています。


〔結果と課題〕

 イコライザーの調整はまだ十分にできていませんが、音質は良好で聴きやすいと感じています。デジタル版のHAT21と比べて、遅延が発生しないことから、音声がスッキリとストレートに伝わってくるのは爽快です。アナログの良さを再認識することになりました。
 しかしいっぽうで、大きな課題も見つかりました。
○電圧低下による発信現象

 これは不意打ちを食わされた感じでした。9Vアルカリ電池でテストしている最中に、ギャーッと耳をつんざく轟音が発生してイヤフォンを放り投げました。聴覚を傷つけるような危険な音の原因は、電池の電圧低下によるイコライザー回路の発振であることが判明しました。
 電源の選択によっては気にしなくてよいのかも知れませんが、万一に備えて完璧な対応を考えます。そこで、Raspberry Pi Picoを利用することにしました。電源電圧を監視(計測)して、規定値以下になるとオーディオユニットを停止することにします。

○電源の選定

 当初は軽量でノイズの心配がない、そして充電可能な角形9V電池を使う予定でした。しかし電池残容量が確認しにくいこと、電流容量に余裕を持たせたいなどの点からモバイルバッテリーを検討することに変更しました。たまたま手元にAnker PowereCore 10000があり、これらの要件にあっています。
 ただし、オーディオユニットへ9Vを供給するためには、昇圧型DCDCコンバーターが必要になります。スイッチング電源なのでノイズが心配になりますが、テストで問題がなければこれに決定です。

○ポップノイズの問題

 電源のON/OFF時に発生するポップノイズも気になります。Raspberry Pi Picoを使うことにしたので、これにリレーをドライブさせてミュートを制御させることにしました。


 これらの課題を解決するためには、Raspberry Pi Picoや昇圧型DCDCコンバーター、そして電圧測定のための回路やリレーの追加が必要になります。次回では電源とリレーユニットの製作を予定しています。