岡山方面から三原駅に8時49分着、名物の「たこ弁当」を用立て三原港フェリーターミナルには9時頃到着した。着発でフェリーは港を離れ、少し進むと左手に今春に登った筆影山から竜王山が見える。
出港から20分、宿祢島(すくねじま)が見えてきた。新藤兼人監督の映画『裸の島』のロケ地である。 周囲約500mの小さな無人島だ。乙羽信子と殿山泰司が演じる孤島での4人家族の生活。モノクロの無声映画ながら、林光の素晴らしいテーマ音楽と共に、孤島ゆえのやるせなさ漂う生活シーンが記憶に鮮明だ。今回の最初の目標は、この宿祢島をカメラに収めることだった。
ズームで少しだけ近づいてみる。ラ~ララ~~~、ラ~ララ~~~の音楽と共に、裸の島のシーンが蘇ってくる。フェリーが緩やかに右へターンすると佐木港である。
1.佐木港から狗山登山口へ
港に着くとまず眼に入るのが「みなと茶屋」。隣接する自由市場にはミカンと富有柿に銀杏。一袋100円のミカンを買って皆で分ける。
買い物や準備で時間が過ぎ、9時40分に佐木港をスタートする。舗装道路を南へ踏み出すと「映画・裸の島」ロケ班宿泊地の看板。監督や出演者の名前が記されている。
すぐ先の庭先に裸の島の碑がある。新藤兼人監督の筆で「映画裸の島は 昭和三十四年秋から翌三十五年夏にかけて 佐木島鷺浦町の人びとの協力を得て 農民の生きる姿を描いた。 この映画が モスクワ映画祭でグランプリを得て 世界の隅々まで広く見てもらうことができたことは これを作ったものの大きなよろこびであった」と刻まれている。
やがて分岐になり左へ進む。タイヤと「大平山登山口・約1.0km」の手書き道標、三原山の会が設置した「アルペンルート」の道標が立ち並ぶ。
その先に狗山登山口の道標があり、まずは2.5km先の狗山を目指す。
2.行者山~展望台
途中の道標に従って進むと舗装道が終わり、「狗山登山口」の道標から森に踏み込む。
右に大師堂を見て登ると、列が停滞するような坂に差しかかる。
急坂を黙々と登り進んで高度を上げる。大岩を巻くとパッと視界が開けて、北西眼下に鷺浦町須波の集落、彼方には三原の街区が見えている。
森を行くと「石鎚さんへ」の道標。今歩いているのは「さぎしまアルペンルート」。この島、いろいろありそうだ。
行者山を通過する。ここから尾根歩きになる。
フェリーが近づくに連れて、島に滲む赤は何だろうかと思っていたのだが、どうやら正体はウルシの紅葉だったようだ。さらに急坂の登りが続く。
道がほぼ直角に折れて竹林になり、少し下って行く。
ここは「皿松」という所らしい。大きなウバメガシが見事な枝を張っている。
さながらシダ漕ぎの道。それを抜けると手前に細島、その向こうに小細島と因島のドックの風景が現れる。
何となくピークが近づいたようで力が入る。季節外れのヤマツツジが可愛い花をつけている。
アルペンルート展望台に着いた。大きな岩が並んでいる。狗山はまだはるか彼方にあり、遠くに生口島や生口橋を望むことができる。
3.明神山~三古志峠(さんこしとうげ)~狗山山頂
展望台から10分少々で明神山山頂を通過する。雑木の窓から細島や向島方面が見える。
竹林を抜けてトラロープが張られた道を下って行く。
三古志峠への道標が立ち、その先には新しい「鷺(佐木)港方面」の道標がある。ここから佐木港へショートカットできるようだ。
さらに下り進んで三古志峠に着いた。
いよいよ狗山への登りが始まると思っていたら、峠を過ぎてもなお急な下りが続く。大きなウバメガシが見事だ。そして、まだ下る。
やっと登りに差しかかった。が、ここから先はカメラを構える余裕もない。張り渡されたロープに手を添えて急坂をよじ登る。
10分以上続いたロープの急坂をこなして狗山山頂に立つ。何度か小休止をとりながら、登山口から1時間45分ほどで到着だ。ランチタイムは、三原駅で買った「元祖珍辨たこめし」の蓋を開けて、旨い!。今回も熱いコーヒーやお菓子などをいただき、ご馳走様でした。
北の方には、左に佐木港と宿祢島、中央遠くに糸崎方面、右に細島が見えている(写真左)。南西方向には、右に今治造船広島工場、左向こうに高根島や大久野島などが見える(写真右)。
4.大平山山頂に立つ
12時22分、太平山に向けて出発する。
狗山から太平山へ向かう下りの急坂は半端でない。次の2枚は何とかシャッターを押すことができたもので、下降を開始してからの10数分は冷や汗をかきながらの前進、仲間たちの後を追うのに精一杯。
コルに立って狗山をふり返る。写真では分かりにくいが、地図では山頂から70mまでの等高線が細かく詰んでいて、これを見れば下りながら汗をかいたのが納得できる。今回一番の難所であった。ホッとひと息、ススキの向こうに三原市須波地区が見える。
コルからしばらくは緩やかな道が続き、急坂をひと登りすると幸神(さいのかみ)分岐に出る。なお、分岐道標には「幸神社(さいのかみ)登山口」とあるが、登山口の道標は以前から「幸神(さいのかみ)」になっている。別に「幸神社(さいのかみしゃ)」の読み方もあるようだが、ここでは登山口道標の表記を採用した。
大平山山頂には幸神分岐から8分ほどで到着する。
山頂標柱を確認して向田登山口の方を覗き込む。手前には「塔の峰千本桜」が広がり、入江にヨットやモーターボートが係留されている。春には小高い山を覆うように桜が咲き乱れる島の名所だ。背後の左は生口島の内海造船、中央のオレンジ色の橋は生口島と高根島を結ぶ高根大橋(こうねおおはし)である。
南東には因島と生口島を結ぶ生口橋が架かり、生名島や岩城島などの島々が連なる。北には三原港とその周辺、手前に伸びるのは小佐木島だ。
5.幸神登山口へ下山して佐木港へ
帰りの船便の関係で幸神登山口へ下山することになり、幸神分岐まで引き返す。正面に狗山がそびえている。
幸神分岐から下りにかかるとすぐに千畳敷に出た。ここは宮島に祀られている「市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)」にまつわる伝説の地と聞いたことがあるが、解説板などはない。歩きながらとっさの撮影でピンぼけ写真。足元には可愛いピンクの花。
みはらし岩に着くと、三原市須波から幸崎地区を一望できる。
下り進むと植樹林に変わり渓流の音が聞こえてきた。やがて渓流は細い滝になって流れ落ちる。
平坦になり一面が落葉の道になった。サクサクと小気味いい音を立てて歩く。
まだ傷みの少ない廃屋の脇を通り抜けると、落葉が積もる舗装道に出る。
ミカン畑が現れて風景が一変する。まだ色が薄いデコポン、ハッサク、そして普通のミカン。どこもかしこもミカンが鈴なりだ。
ここまで下りてくると、山中では散在していたウルシの赤が周辺の黄や緑と調和しながら燃えている。幸神登山口に下り立つと立派なトイレがあり小休止する。
島を巡る幹線を歩き始めるとミカンを収穫中の男性と出会う。多忙な仕事の手を止めて、採ったばかりの「いしじみかん」をご馳走になる。爽やかな風味に舌鼓、ありがとうございました。その先には佐木島八十八カ所のお地蔵さん。
「登り坂続く」の表示板はトライアスロンさぎしま大会実行委員会が立てたもの。今夏は第28回大会が開催されたトライアスロンの島でもある。水泳に続いて自転車で佐木島を4周(42km)、マラソンで1周(10km)するコースだから、このあたりは心臓破りの坂に感じられることだろう、などと考えながら紅葉風景を愛でながら歩く。
快調に登り快調に歩いて、予定より30分も早く佐木港に帰着した。船を待つ間に高台(鷺島みなとの丘公園)に登って見下ろした待合所。帰路は快速艇で三原港へと向かう。