1.表参道登山口の赤い鳥居へ
京都駅から山陰本線で15分、嵯峨嵐山駅で下車する。嵐電嵐山駅前(嵐山天龍寺前)バス停で京都バス・清滝行きへ乗車するために歩く。梅雨とは思えない青空からの強い陽射しに、サングラスをかける。天龍寺近くに差しかかると外国人観光客の行き来が多い。天龍寺駐車場の木陰で、バスまでの待ち時間は外国人さんをウオッチ。
大半の乗客は途中の大覚寺で降車する。清滝バス停までの所要時間は約16分だが、清滝トンネル前の一時停止で5分ほど遅れて到着。他のハイカーたちを見送りながら準備を整えて、10時30分にスタートする。バス停前の分岐を左にとって、隣接する飲食店の前の道を下って行く。
間もなく朱色が鮮やかな渡猿橋に差しかかる。橋の手前に京都一周トレイル「西コース No.1」の道標がある。2013年の秋に、トレイルの最終回として「清滝から苔寺谷を経て阪急上桂駅」までを歩いた時の出発点になる懐かしい場所だ。
清滝川の清流を眺めながら渡猿橋を渡って道なりに進むと、扁額に「愛宕神社」とある赤い鳥居(愛宕神社二の鳥居)が見えてくる。ここが表参道登山口である。
2.二十五丁目茶屋跡~五合目休息所
10時35分、鳥居をくぐって舗装された坂道を行くと、登山者への注意事項が掲示されている。外人ハイカー向けに『Attention Mountain Hikers』のカラフルな掲示も。「山頂への登り下りには5時間以上かかるので、日没後の登攀は危険。道迷いによる事故が発生しているので時間に余裕をもつように」との注意書きがある。
山頂までをずーっとナビゲートしてくれる嵯峨消防団設置の距離標示板。山頂までの距離は4km少々で、表示板は100mごとに1/40から40/40まで設置されている。ところどころ階段になっている舗装道路を進む。
参道脇には丁石といっしょに、あるいは丁石を伴わずに石仏が立っている。道幅は狭くなったがまだ舗装道が続いている。
「お助け水」と呼ばれる水場がある。湧水が流れ落ちているが、スタートして間もないので通過する。やがて舗装道路は終わって石段に変わり、傾斜がかなりきつくなる。
右側に石碑や祠が現れ、火燧権現跡(ひうちごんげんあと)に着いた。京洛に火事が起こると社が鳴動することから名付けられたそうだが、明治12年に「燧神社(ひうちじんじゃ)」として別の場所に移動した跡には石碑だけが残っている。石碑と並んで十七丁石が立っている。
石ころと丸太が混在した階段を登って壺割坂を進む。
茶屋があった「一文字屋跡」を通過する。さらに木段と石段が混在した道をしばらく進むと、電柱に「神社まで3,000です」のプレートを発見。
二十五丁の丁石とお地蔵さんが並び、「愛宕神社表参道の丁石」の解説板が立つ。鳥居本の一の鳥居を起点として愛宕神社までの五十丁(約5.5km)に、板碑型と地蔵型の2種類の丁石が建立されているそうである。ここはほぼその中間点になるわけで、解説板には「愛宕神社まで約2.9km」と記されている。
すぐ先に休憩所らしい建家が見えてきた。「二十五丁目」に続けて変体仮名で「なかや」と刻んだ石碑が建つ。前にも「一文字屋跡」があったが、解説板によるとかつては一町(丁)ごとに茶屋があったという。「なかや」は茶屋兼宿屋だったそうだ。
さらに登って行くと少し勾配が緩くなってきた。
石段を登ると五合目休息所に到着した。ここは「水口屋(みなくちや)」という茶屋の跡でもある。休息所には愛宕山を歩きなれた地元のハイカーと、自分より先にスタートを切ったご夫妻がいて、その中に割り込むことになった。「表参道は勾配はきついが安全。復路を月輪寺の方を選ぶなら道迷いしないように注意してください」と地元ハイカーの話。
表にも遭難者の貼り紙が吊されていると言われて、その貼り紙に初めて気付いた。『探しています!』の赤い大文字に続いて、「平成28年6月14日午前8時40分~午前9時ごろに、清滝から愛宕山にお札をもらいに入り、それ以後の足取りが不明です」と記載されている。年齢68歳の山を歩きなれた風貌の男性で、愛宕山には何度も登っているとコメントされている。ちょうど1年前の今日起きたわけである。
当日の天候は問題がなかったそうで、道標の整備状態などからどうして遭難したのか不思議に思える。復路は月輪寺へ廻るので、とにかく気を引き締めることにしよう。まずご夫妻が先に出発し、自分は小休止をとって後を追う。
3.水尾分岐~黒門を経て愛宕神社へ
五合目休息所の出発は11時51分、休憩の予定はなかったので計画より少し遅れ気味だ。ほとんどフラットな道を進むと3分ほどで、杉の巨木に祠を祀った「大杉大神」と出会う。初めて南の一角が開ける。遠くに見えるのはポンポン山だろうか。
すぐ先から京都盆地を一望できる。周辺の路肩が大きく崩落していて、急斜面に土砂崩れ防止網が敷設されている。安全に歩けるのは、このような山の保守・保全のおかげであると強く感じる。
ほとんど勾配のない幅広い道を軽快に進む。24/40の距離標示板には「谷間に見とれて堕ちるなよ」とある。やや道が細くなって、左側は谷に切れ落ちている。
三十七丁の丁石を過ぎてちょうど七合目あたりだろうか、木々が視界をじゃまするが、ここからの眺望もなかなかのもの。
そこから10分、水尾別れ休息所に着いた。ちょうど先のご夫妻が到着したところで同席させていただく。時刻は12時20分過ぎでお二人はここでランチタイム。自分は腹が膨れると登りのピッチが急に遅くなるので、しばらく話してから先に発つ。
水尾分岐には、水尾の里へ下りてみたくなるような情報が満載。丸太に貼り付けられた「愛宕神社 35分」の道標を見て歩き始める。
傾斜の緩い尾根道を行くとハイカーとすれ違う。ここまで何人と挨拶を交わしただろうか。平日でもこれだけたくさんのハイカーが行き来しているので、安心して歩くことができる。戸締まりされた建家は「ハナ売場」で、愛宕さんの火伏の神花である樒(シキミ)の売り場だそうだ。
石柱を埋め込んだ階段を登り、倒木をくぐって丸太の階段を登って行く。
黒門が見えてきた。かつては白雲寺の京都側の惣門で、中には6つの宿坊が建ち並んでいたという。神仏分離令によって寺も宿坊も破却し、黒門は白雲寺の名残である。これを入ると寺の境内だ。少し進むと40/40の距離標示板「おつかれさまでした」が立っている。
まず眼に入るのは「上山者の皆さんへ」の掲示。ここが1,300年の昔から続く愛宕山の神域であること、参拝者と神社・山の維持管理優先であることを述べ、ハイカーのマナーを心得るよう説いている。神社仏閣ならずとも、山を愛する者は絶えず、自然や環境を慈しみ謙虚でなくてはなるまい。
石灯篭の並ぶ通りの左に「登山者用休憩所」の表示。そちらへ入るとトイレや休憩施設が設置されている。
天気が良いので通りの右側広場のベンチに腰を下ろし、風景を眺めながら弁当を開き、至福の時を味わう。
4.愛宕山山頂・愛宕神社参拝
こころ静まる境内の雰囲気。ハイカーはみな参拝者でもありたいものだ。なんども足を運ぶハイカーが多いことも、この場所に身を置けば頷ける。そして、気合いを入れて本殿への長い石段を踏んで行く。
途中右手に摂末社「白髭社」の扁額がある鳥居を見て登ると、長い石段の先に神門がある。
神門を入ってさらに登ると愛宕神社総本宮の社殿に着く。ここで先ほどのご夫婦と再会する。
社殿を真っすぐに進んで礼拝。ここまでの山行の無事を感謝し、これからの安全を祈る。続いて若宮、奥宮にも参拝する。
参拝を終えて再び神門へと進み、長い石段をゆっくり下りる。
山頂広場休憩所の脇にある丸太のベンチに腰を下ろして、復路のルートを確認する。「慕山石」と刻んだ石碑が建っている。ここは山を慕うハイカーたちが集う場所でもあるのだろう。
5.月輪寺から月輪寺登山口への下山
13時55分、下山を開始する。愛宕神社への石段右の道を進むと月輪寺分岐に出る。直進すれば愛宕山三角点に到達できるはずだが、今回は右側を下る。
すぐに展望広場に出た。ここからの眺望は素晴らしく、南には以前に登ったポンポン山の姿。南東には嵐山・松尾山と蛇行する桂川から京都タワーまでのパノラマが広がる。
月輪寺への道もよく整備されている。10分足らずで大杉谷分岐を通過する。
溝のような道を抜けて尾根を歩く。表参道と違ってハイカーは少なく、静かな山歩きを楽しめる。オヤッ、先を歩くのはあのご夫婦! で、お二人が小休止している間に、お先に~!
大杉谷分岐からしばらく進むと急坂でどんどん高度を下げて行く。やがて傾斜の緩い道が続き月輪寺へ到着する。手前に「立入禁止: 事故多く夜間 午後5時から午前9時まで境内通行止」の立て札があり、時間帯に注意しなければならない。
平安時代に空也が来山し、同時期に隠棲していた九条兼実を法然上人や親鸞上人が訪ねたことで知られる月輪寺。境内には親鸞の手植えと伝わる時雨桜があり、シャクナゲの名所でもある。参拝してベンチで休憩していたら先のご夫婦も到着。清滝まではなお1時間半ばかりかかるので、お二人とはここでお別れすることになった。
すぐ先にある宝物殿の前から京都市街地と桂川を眺める。
その先の大きなモミジの木には「子宝紅葉」の立て札。木立で眺望は得られないが、緩い坂道を歩くのは心地良い。
九十九折りの坂を下り進むと「身助地蔵」が祀られている。ここが月輪寺と月輪寺登山口とのほぼ中間点。
続く急坂を20分ばかり下ると「月輪寺参詣道 右→ しぐれの桜」の石柱。この辺りから渓流の音が聞こえはじめる。
最後の階段を下りると舗装道路が見え、渓流に小さな滝がいくつもできている。
月輪寺登山口へ着いた。ここから空也滝へ行けるのだが、時間のこともありちょっとだけ偵察することに。
が、階段を登って見上げるとまた延々と続く階段で、回れ右。渓流に架かった石橋を渡って、舗装林道を清滝バス停方面へと進む。
林道の左側下方には堂承川が流れている。対岸の山に、倒木か伐採木かは判らないが膨大な量の木が絡み合っている。
京都一周トレイル北山コースの標識No.93が立っている。ここで林道は東海自然歩道に繋がり、堂承川は清滝川へと合流する。清滝川を左下に見ながらしばらく歩く。
やがて金鈴橋にたどり着いて渡る。橋の上から見る清滝川の流れが清々しい。
最後は傾斜のついた車道を頑張って上り、清滝バス停にゴール! しばらく待って16時32分のバスで帰路につく。