5日目(6月30日):ファーム富田とノロッコ号・美瑛めぐり

  美瑛で寄り道をしながらファーム富田に出かけ、ラベンダー畑を見てお土産を調達。
 その後ふたたび美瑛にもどり、見残している風景を巡ってこの地の旅を締めくくる予定。
 ところが、いくつかの思い出深いハプニングが!


美瑛の瑠辺蘂(るべしべ)神社と静修開基記念碑

 旭川での最終日は晴天。美瑛の風景は画集を開くように始まる。

 農業や牧畜という自然と生命を見つめ育てる仕事が、結果的にかくも美しい田園風景を形づくっていることに感動を覚える。美瑛に入るとすぐ、長男君が、前回の旅で撮った写真が思わしくなかったので寄りたいところがあると言い出した。
 それはぜひ行くべきだと事情が解らぬままに同調していたら、木立の間に鳥居と小さな社が現れた。お世辞にも立派とは言えないのだが、素朴で何とも心癒やされる佇まいである。旅の安全にお賽銭を納めようとしたのだが、賽銭箱がない。お札が入りそうな隙間があったが、さすがにそれは躊躇われた。丁寧に鈴を鳴らして柏手を打ち、無事を祈った。

 その近くの道路脇に小さな駐車場のように切り開いた土地があり、黒い御影石だろうか、立派な静修開基100周年記念碑が建立されている。碑面には、現在のこの風景からは想像もできない開拓の苦労が刻まれている。


ジェットコースターの路

 就実のジェットコースターのような道には驚いたが、美馬牛駅に近いこの道こそ、広く称されている正真正銘のジェットコースターの路であることがわかった。見る位置によっては、V字型の底が見えないほど急傾斜である。
 「かみふらの八景」の案内板に「登り切った一番高いところから見る十勝岳連峰の眺望は絶景です」とあるが、今日は中腹まで雲に覆われている。ただただ昨日の天候に感謝して(山頂まで望めたのだから)車で滑り降りた。

          

ファーム富田

 ファーム富田は入場料が要らない。三浦綾子記念文学館は別として、余市ニッカウィスキー工場もどこもかしこも北海道は気前がいい。太っ腹である。
 駐車場に車を止めると(もちろんこれも無料)、そのまま生け垣の間から園内に入り込むことができる。そこでまず目を惹いたのがシャクヤクのようなピンクや白い花。旅行を終えた後に資料を整理していて分かったのだが、どうやらこれが、北海道で有名かつ舞鶴から乗船した船の名称でもあった「はまなす」らしい。



 

 ラベンダー畑には季節を迎えた早咲きの花が咲き、隣接する畑では大小のポピーやロベリアが鮮やかに咲いている。それを手入れする係員があちこちにいて、散水などの作業に余念がない。

 敷地の奥の方からポプリの舎、蒸留の舎、香水の舎などをのぞき見しながら、道路を挟んで背後に広がるトラディショナルラベンダー畑の丘に登って長男君にシャッターを託す(写真左)。降りてくると「トラディショナルラベンダー畑について」という掲示板が見えたので、すかさずカメラを向ける。

 五十年間 ファーム富田の歴史と共に ラベンダーを育ててきた畑です。化粧品香料としての栽培がたちゆかなくなった1975年 家族の悲痛な思いで潰す決心をしてトラクターを乗り入れたが ラベンダーが愛ほしくてどうしてもつぶすことはできなかった。
 苦しくてももう一年、その年に癒しの植物として、みて愉しむ花としての運命の扉を開く奇跡が起きたのです。

 これで何となく、ファーム富田が理解できたような気がした。 花人の舎にはファーム富田の歩みについてさらに詳しい説明があり、背後に想像を絶する努力と果断のあったことがわかる。
 それが今、当初目論んだ香料としてのラベンダーはもちろん、それを基軸とした香水やコロン、スキンケア製品からリップクリームにいたる女性向け製品、カレンダーなどファンシー文具から菓子食品、さらに関連商品としてのメロンなど多角的な製品展開に結実している。こうなれば、これはもう一大産業である。かくして、入園無料はしかと合点がいくのだった。

 それにしても、花人の舎にあるファーム富田誕生に因む数々のパネルには胸打たれるものが多く、その多くをカメラに収めて来た次第。たくさんのお土産に加えて、家内はラベンダーのドライフラワーやリースを購入。また、そろってストラップやピンバッチなどの小物を買い求めてにっこり。ファーム富田は、商売も抜群にうまいと気がついた。
 そして、ここでの昼食の野菜カレーもとても美味かった。


ノロッコ号で美瑛へ

 当初から予定していたノロッコ号搭乗について、全体の日程から完全に諦めていたのだが、長男君の「今からなら乗れるよ」のひと言で急遽予定を変更。ファーム富田を後に、家内と畑中の道をひた歩き(ほんの15分ほどの距離だが)、辺りのビニールハウスで育つメロンを覗き込んだりしながら「ラベンダー畑駅」に到着した。この駅は期間限定の臨時駅である。
 

 とても乗り切れないほどの乗客を軽々とさばいて、カタコトと快適な走行音。ディーゼルカーが牽引するので車両からの余計な騒音はなく、レールの継ぎ目で発生する懐かしさのこもった音が響くのみ。
 乗車したのはノロッコ4号で、美瑛までの所要時間は42分。
      ラベンダー駅乗車(14:21)→ 美瑛到着(15:03)
 途中、乗務員が「ありがとう10周年 富良野・美瑛 ノロッコ号 乗車証明書」を配布して歩く。
 この2日半の滞在をレビューするように、窓外をゆっくりと風景が流れていく。


北西の丘にて

 美瑛で長男君と落ち合って北西の丘へ移動。四角錐の展望台にのぼると、丘の麓に隣接した牧草地にトラクターがやってきた。

 その動きがとても面白い。まずは広大な牧草地の周囲をぐるりと回る。トラクターの後ろには草刈り機が取り付けられていて、ちょうどトラクターの幅だけ刈り取られた草が真ん中に寄せられる。通った後はタイヤの軌跡が残り、その間に刈り取られた草が横たわっている。一周すると、草刈り機をトラクターの幅だけ内側にずらせて、さっきの軌跡の上をもう一度走る。これで内側が同様に刈り込まれる。次の一周は新たな軌跡の上を走ることで、また内側が刈り込まれる。
 このようにして外側から内へ向けてどんどん刈り取られて、刈草のスパイラルができる。次の工程は、このスパイラルの牧草を専用トラクターで取り込みながら圧縮し、牧草ロールにして畑にゴロンと落っことす。さらにビニールでラッピングしたりもする。
 一昔前は刈り取った牧草を太陽の力で乾燥させていたようで、この時の独特な爽やかな香りが最近は少なくなったと残念がる声もあるようだ。


キガラシの花

 丘を下っていくと真っ黄色の菜の花畑、と思いきや、家内が「これはキガラシです」と言う。拓真館の写真にキガラシ畑があったそうだ。よく見ていますねぇ。
 後でわかったのだが、キガラシは菜の花の仲間である。作物になるのではなく「緑肥」と呼ばれ、花が咲いたらそのまま畑に鋤き込んで次の作物のための肥やしにするそうである。
 鮮やかな黄色の絨毯は実に美しいが、近寄ってよく見ると、小さな花の房もとても愛らしい。トラクターでいっきに鋤き込まれるのは痛々しく感じるが、その前のいい時期に訪れることができたことを感謝する。


五稜の田園風景

 マイルドセブンの丘には車が多いが、五稜方面は観光ルートから外れているのでとても静かで、さらに素朴な味わいがある。実際、この地域を移動中は対向車とはまったく出会うことがなかった。 雄大な風景あり、なだらかな曲線の丘あり。また、いろんな名前をつけたくなるような、おそらくまだ無名と思われる個性的な木もある。


 

 おお、また凄いトラクターだ。何をする機械かはわからないが、両側の大きな角がぐるぐる回っている。そして、畝を整備しているトラクターも絵になるなぁ。これらの農業機械はどれも猛烈な勢いで動き回るが、広大な風景には妙にマッチしてしまう。

 珍しい道路標識は「牛の横断注意」。気をつけながら車を進めると、小高い丘の斜面に乳牛が草を食べている。今回の旅では、放し飼いで牧草を食べている光景はこれが初めてだ。どこまで食べたら、どうやって牛舎に戻るのだろうかと、急斜面の先に視線を移す。


再び親子の木そして三愛の丘へ

 五稜からの戻り道では、何度も見た「親子の木」を近くから眺めることができる。
 最後のスポット「三愛の丘」に向かう途中で、今回の道中ずっと不明なままの作物がひときわ広がりを見せる畑に出会った。どうみてもこの作物、葉は固くて食べられそうにない。かといって地下茎が有用なのであれば、こんなに混み合っては植え付けしないはずだし・・・、疑問だらけだ。
 この作物がビートであることは後でわかった。名前だけは昔聞いたような気がするが、収穫されたビートはトラックに積まれて製糖工場に運ばれ、裁断されて砂糖になるんだねえ。

 三愛の丘から望む十勝岳連峰は、遠望として最高であると記されているが、今日はとうとう峰を覆う雲が消えることはなかった。これは次回の楽しみにとっておくことにしよう。


拓真館に立ち寄れば

 最後にもう一度だけ拓真館を見ておこうと、すでに閉館の駐車場に車を止める。
 手前の丘の風景が2日前とはすっかりさま変わりしていて、牧草がすべてロールになっていたのには驚いた。
 拓真館のたたずまいを心に刻み込んで駐車場を出ると、なんと、キタキツネが近づいてくる。一瞬、目を疑ってしまうが、間違いない。カメラを向けるが逃げる気配はない。驚くほど人なつっこく、車をゆっくり進めるとついてくる。餌をねだっているのではないかとも思われる。

 それにしても、就実の丘に次いで初日に訪れた拓真館で、最後にキタキツネと出会うとはどういうことだろう。キタキツネが交通事故に遭わないことを祈りながら、別れを告げる。


暮れゆく新栄の丘

 新栄の丘を経由して帰ろうということになる。太陽は西に傾き、風景を淡いオレンジに染めている。
 日没の撮影を求めて次々に車が到着し、立派なレンズを付けた一眼レフが並ぶ。北西方面の丘にもカメラの隊列ができている。

 それを背に車を進めると、セブンスターの木の辺りだろうか、夕陽が山の端に掛かる。
 車を降りて、日没風景をしっかりと目に収める。


旭川最後の夕食

 最後の夕食は、ホテルに備え付けの「旭川グルメマップ」から選定した。曰く「身のひきしまったカニ、とろりととろけるエビ。新鮮な魚介類を、ど~んと格安提供」ということで、食い処・居酒屋「天金」に決定。
 先付けに大きなボタンエビの唐揚げが出たのにはビックリ。で、これがまた旨い。のんびり話しながら、ゆっくりと杯を重ねる穏やかな夜、食が進む。
    ・刺身(朝イカ、真アジ、ヒラメ)
    ・ツブ貝の焼き物
    ・タラバガニの天麩羅
    ・アスパラガスの天麩羅
    ・いももち(4pieces x 2皿)

 「こんな店が身近にあれば最高」と思わせる店。次に来る時も顔を出す店だ。
 明日は札幌へ移動して旅の締めくくりだ。ぐっすり寝ることにしよう。